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非日常と死と

 警察にそう言われて、私は警察を拒むことができず、そのまま連行されてしまった。

 警察から両親に連絡があったので、両親も警察署に駆けつけ、警察の尋問を受けた。

 その後いろいろあつたが、結局私は無事だった。けど、仁くんは何年も閉じ込められることになるようだ。

 それは、仁くんが逮捕を拒否しただけでなく、仕事場から車で逃走する途中で多くの人を轢いたからだそうだ。しかも、


「いやあ、捕まるとは思わなかったね~」


 法廷で仁くんがそう言っていたから、こんなに長く閉じ込められていたんだ……。

 こうして私は一人になり、幸せな生活は消えてしまう。

 ……いや、私には赤ちゃんがいるし、仁くんは長いこと閉じ込められるけど、待てないこともないし、もしかしたら淳くんは私を探しに戻ってくるかもしれない。

 母子家庭になってしまっても、そう思って生きてきた。


 退学になつたが、就職は意外と難しくなく、私はスーパーマーケットでのレジの仕事と、両親からの援助でなんとか暮らしている。

 そしてこのままいくのかと思った時、一人の男性が私の前に現れた。


「失礼ですが、仕事が終わったら暇ですか?」


 最近仕事をしていると、いつもある恰好のいいイケメンが話しかけてきるが、なぜでしょうか。


「だって、見真さんはきれいですよ!」

「しかもおしゃれが上手です!」


 スーツ姿のイケメンが現れると、いつも同僚たちが私を取り囲んで議論していた。

 淳くんたちと一緒にいるときは、メイクもオシャレも習ったし、髪も染めたけど、それで好きになってもらえるとは思えないし、子供もいるんだからよ。


「でも向こうも気にしないって言ってますよ。自信を持って」

「それに、車を見ませんでしたか。きっとお金持ちなんでしょうから、なんとかして彼と一緒になるべきです!」

「そうそう!せっかくお金持ちに好かれているんだから!」

「若いうちに自分の幸せを追求しなさいよ!」

「自分の幸せですか……」


 同僚たちの嫉妬と羨望の眼差しに面食らってしまうが、彼女たちの言う通りだったのかもしれない。

こんな機会は二度と来ないかもしれないし、少し時間をかけて彼と一緒に食事に行くべきかも……。

 だから次にスーツの男が来た時、私は彼と夕食に出かけた。同時に自分の状況も伝えた。


「あの……光くん、本当に私と一緒にいたいんですか?私には子供がいて……」

「大丈夫、それは納得します。純さんに子供がいても大丈夫ですから」


 光くんが真剣に頷く。そして彼は真剣に頭を下げた。


「私と付き合ってください。純さんを幸せにしますから!」


 光くんが、私のすべてを受け入れてくれるとは……長い沈黙の後、私は頷いた。


「……うん」


 それで、光くんと一緒になつた。

 しばらく付き合ったあと、赤ちゃんと一緒に光くんの家に引っ越した。

 同僚の言うとおり、光くんは本当にお金持ちで、家が大きくて豪華なだけでなく、家には美術品がたくさんあり、かっこいい車もたくさん持っている。

 そして光くんは、ときおり服や化粧品を買ってきてくれて、私を喜ばせてくれると言ってくれた…それが幸せというものなのかもしれない。

 そう思っていたが、その後の出来事が、この偽りの生活を破壊した。


「え、光くん、どうしたの?家のものがなくなっちゃって!」


 ある日、家に帰って美術品も車もないことに気づいた私は、光くんに尋ねたが、光くんはこう答えた。


「すみません、売ってしまいました。けど安心してください。すぐに取り返しますから」


 そう言われて、私は言葉を失くした。

 後になってわかったのだが、光くんには定職があったわけではなく、実はその高価なものは、ギャンブルや株で稼いだお金で買っていたのだ。

 ただ最近負けたから、物を全部売ってしまった。最初、光くんにやめてと言ったが、光くんがお金になると約束してくれたので、最後私は何もしなかった。

 しかし、時間が経つにつれて借金は増え、私たちは豪華な家から引っ越して、家を借りることになった。


 そして、お金をきちんと返すためにアルバイトをいくつか始めたのだが、それでも借金はなかなか減らない。

 光くんにはもう株をやめてくれと言いたいんだが、そのたびに逆に叱られて……。


 そして、そんな中でこの事件が起こった──、


「わああ!!」


 せっかくの休日なのに、赤ちゃんが泣きやまない。


「おい、クソ女、あのガキを黙らせろ!」


 赤ちゃんが騒ぐと、お酒を飲んでいた光くんが振り返りもせずに怒鳴る。


「……よし、よし、大丈夫ですよ~」

「わああ!!」


 赤ちゃんが騒がないようにしようとしたが無駄だった。また、光くんの声が聞こえてきた。


「子供の教え方をわからないのか!?殴ってやれ!」

「殴って……ですか……」


 こうしたほうがいいですか?……既に精神的に限界を迎えており、判断力が鈍っていた私は、光くんに言われたとおり、赤ちゃんの手のひらを軽く叩いてあげたが、赤ちゃんはかえって大声で泣いた。


「うるせえな、ろくでなし女、俺がやる!」


 聞いていられなくなった光くんが近づいてきて、いきなり平手打ちをすると、赤ちゃんの頭がテーブルの角にぶつかって音が静かになつた。


「ほら、これで静かじゃないか」


 光くんはすごいですね、音が静かになった……ん?

 私、さっき何をした。私は駆け寄って赤ちゃんの様子を見たが、


「光くん!赤ちゃんが動かない!」

「はあ……?」


 ……数時間後にようやく手術室の医師が出てきたので、私はすぐに尋ねた。


「医師さん、赤ちゃんはどんなですか!?」

「すみません──死──」


 医師さんは首を振り、冷たく冷たい言葉を口にした。


「え……あ……」


 言っていることは分かるのに、まるで他の国の言葉のように感じる。


「つまり、赤ちゃんが……死亡…」


 医者さんはまだしゃべっているようだが、世界が遠くなったようで、何も聞こえない。

 しばらくして、誰かがやってきた。ぱちんと頬が熱くなる痛みがした。

 気がつくと目の前に父親がいて、後ろにお母さんが立っていた。父親の腕は高く掲げている……彼に殴られた。


「子供の世話もできないなんて、お前みたいな娘はいらん!」


 そう言って父親が歩き出すと、お母さんは私をちらりと見て去っていた。

 あ……!このままでは取り返しのつかないことになりかねないと、瞬間的に気付く。あとを追おうとしたが、すぐに誰かが近づいてきて止めた。


「見真純さんですか。失礼ですが、あなたは児童虐待の疑いがあります。一緒に来てください」


 子供を悼む暇もなく、病院に現れた警官が手錠を取り出して私を捕まえ、警察署に連れて行った。

 医師さんが、子供の外傷がdvによるものだと疑って、警察に通報したんですって……。

 そして、警察には正直に事情を話したが、警察はあまり信用してくれない。なぜなら、


「あなたは本当に軽く手のひらを打っただけだと言っていましたが、同居人はそうは言っていませんよ」

「え、光くんが……」

「あなたの同居人の話によると、彼は手を出したわけではなく、ただ静かにしろと言ったのに、あなたが怒って殴り殺した、という証言です」


 光くんは警察に向かってそう言って、すべての責任を私に押し付けてようとしているようだ。そんな……!


「でも、そんなことしてませんよ……!」

「わかりませんが、いずれにしてもあなたは同罪です」


 そんなことはしていないと言い続けたのだが、警察は私を信じてくれなかった。

 あとになってわかったのだが、あの頃私たちのことは社会的なニュースになっているようだ。

 みんなそのことに怒っていて、私たちを重刑にしたいと言っていたから、警察がそういう態度を……。

 時間が経って、裁判所の判決が出て、私は4年、光くんは10年のようだ。

 上告しているが、最高裁に上告しても判決は変わらないらしい。


 ……最終判決の日になって、私と光くんは最高裁の前に着いた。


「光くん、上告は成功しないようですが、私はあなたと一緒に直面しますよ……」


 そばにいた光くんにそう言ったが、光くんはうつむいたまま、何かぶつぶつ言っていた。


「冗談じゃないよ……」

「なんですって?」

「冗談じゃねえよ!クソ女!」


 光くんは顔を上げて、駆け寄ってくる。


「なんで俺が得体の知れないガキのために刑務所に行かなきゃいけないか、お前のせいで!」


 そう言った同時に、光くんと体がぶつかった。


「お前がいなければよかったのに!死ね!」


 ドン、という音がして、体の中から何かが出たり入ったりするのを感じた。見下ろすと、光くんがどこからかナイフを持ってきて、私の下腹部を刺していた。


「あの……あ……」

「死ね死ね死ね!」


 そう叫んで、光くんはナイフを抜き、私の体は支えを失い、そのまま地面に倒れた。

 数秒遅れて、周囲から悲鳴と同時に人が近づいた。


「大丈夫ですか!」

「救急車を呼んでくれ──!」


 周りに集まっている人たちが何か言っているようだが、耳鳴りがひどくてよくわからない。

 でも、きっと迷惑をかけたでしょうね、すみません……。

 かろうじて見える視線の先に、ナイフを持って逃げる光くんの背中が見える。

 続いて、視線は一面の暗黒に陥って、とても寒くて、これは死ぬ感じか……。

 死にたくないよ、助けて──、


 ──健くん。

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