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日常の破滅

「はあ~」

「おいおい、大丈夫か?」

「大丈夫です、ちょっと疲れただけですから……」


 前を行く淳くんたちに、できるだけ元気よく返事をした。

 不規則な生活のせいか、最近少し疲れを感じ。以前のようなうとうとした状態がまた出てきて、しかも昨日は吐いた。

 どうしてこうなるんだろう。ずっと幸せだったのになぁ。


「体調が悪くなったら無理しないでよ~」

「ただのパーティーだから、行かなくてもいいよ」


 淳くんと仁くんがそう言って慰めてくれるのを聞いて、胸の中に温かいものがこみ上げてきた。

 やはり私は愛されているな。


「約束を破るのはよくないですよ……大丈夫です…うん!?」


 急激なめまいに襲われ、思わず口を覆った。


「おい、純──!」

「大丈夫です。ちょっとめまいがするだけで……」


 大丈夫ですと返事をして顔を上げると、淳くんは驚いた顔で私を指差していた。


「いえ、あんたの下半身……!」

「下半身………?」


 言われるままに下を見ると、下半身から血が流れているのが見える。


「下から血がたくさん出るぞ!」

「え」


 血が出る?何が起こっているのかわからないうちに、私は前のめりに倒れた。隣にいた仁くんすぐに私を支えてくれた。


「純!?」

「おい!早く救急車を──!」


 目の前の世界がどんどん暗く遠くなっていく。二人の騒がしい声を聞いているうちに、私は意識を失った。


 ◇


「う……ここは……」


 意識が戻った時には病院にいた。自分の姿を確認すると、病院着を着ていて、今病室にいるのは私一人。

 あたりを見まわしていると、病室のドアが開いて、ちょっと年上の看護師さんが入ってきた。


「あ、起きたか。おい、起きましたよ」


 廊下に声をかけて、看護師さんはベッドに近づいてくる。


「気分はよくなりましたか」

「はい……あの、私は何か病気になったのですか?」

「病気?」


 そう言うと、看護師さんは眉を上げて嫌そうな顔をした。


「自分の体がどうなっているかもわからないの?だから今の若い人は」


 看護師さんはとても不満そうだった、それも当たり前のこと……確かに彼らに迷惑をかけたから……そう思っていたところ、次の言葉に私は愕然とした。


「自分が妊娠していることも知らないなんて、あなたまだ未成年なんでしょう…ったく」

「え……妊娠?」


 私、妊娠してる?


「なんですって……?」


 問い詰めていたが、看護師さんは疑問には答えず、ぶつぶつ言いながら病室を出て行った。

 足音が遠ざかり、病室は静かになる。

 お腹を押さえると、さっきの看護師さんの言葉が耳に残っている。

 ……私、妊娠している。そんなはずはないだろう。

 しばらくすると、再びドアが開いて、医師らしき男性が入ってきた。多分医師でしょう。

 その看護師さんもプロではなさそうだし、彼女が何か勘違いしているのかもしれない、医師に聞いたほうがいいのではないかと思った。

 が、医師に話を聞こうとしたとき、医師の次の言葉は私に今までで最大の衝撃を与えた。


「見真さんですよね。おめでとうございます。赤ちゃんは無事です」

「あ、赤ちゃん!?」

「ええ、早生まれで少し低体重でしたが──」


 私が何か言いたそうにしているのを見て、医師は私の心配事を誤解したのか、専門用語を口にしたが、今はそんなことは気にならない。

 医師がそうおっしゃるのは、私には子供がいるということ?おなかの中からが……。

 お腹を触って、お腹の中にかつてあったものを考えると吐き気がする。


「—、見真さん?大丈夫ですか?」


 ようやくそれを抑えて顔を上げると、医師が心配そうな顔でこちらを見ていた。


「大丈夫です……あの、赤ちゃんのこと、ちょっと見に行ってもいいですか」

「それは……ですがあなたの身体は」

「大丈夫です。ちょっと見に行くだけです。いいですか……?」

「……ええ、わかりました」


 しばらく考えていたが、医師は私の申し出を認めてくれた。


「これが私の……赤ちゃん?」

「そうですよ」


 看護師さんに案内されて、病院の新生児集中治療室らしいところに行き、ガラス越しに保育器の赤ちゃんを見ていた。

 生きている命を目の前にして、「これがあなたの子供です」と言われても、実感がわかない。

 でもそこまで言われるなら本当だろう。なら、逃げるわけにはいかないな……。


「おい-見真!」

「あ、仁くんたち……」


 隣の廊下で声がしたので振り向くと、淳くんと仁くんがこちらへ歩いてくる姿が目に入った。彼らはしばらくここにいたようだ。


「体大丈夫か?」


 寄り添うと仁くんにそう聞かれ、大切にされているという感じに心が温かくなった。


「大丈夫です、それより、赤ちゃんのことですが……」

「そうよ、あんたの体より、突然子供ができたのはどういうことだ!妊娠したなんて、全然聞いてないよ!」

「ええ、俺たちびっくりしたよ」


 隣に立っている淳くんが不満そうな顔で私を見ているし、仁くんも困った顔をする。


「ごめんなさい、まさかこんなことになるとは……」

「ちっ、まさか。都合のいい言葉だな」


 カッとなりそうな淳くんを見て、私は慌てて口を開く。


「いや、でもこんなことになっても、私たちが力を合わせれば、なんとかなるんですよ!」

「そうなのか……あ、わかった!子供を置き去りにしたらどうだな!?」

「淳くん!?」


 淳くんは私と仁くんの呆れた顔など見ていないように、続けた。


「どうせ誰も気がつかないだろう」

「そんなこと──」

「あのさ、そんなの犯罪だろ、淳」


 頭壊れているのか?そう言って仁くんがため息をつくと、淳くんは怒って彼を見つめた。


「あんたはもっといい方法があるのか?」

「……怒らないでよ、仁くんの言うとおりです。そんなことしちゃダメなんです。子供は、みんなで育てていけば──」

「はあ!?なんで俺が育てなきゃいけないんだよ?」


 そう提案すると、淳くんが私を睨んだ。彼のそんな冷たい顔を見たことがないので、私は体が震えた。


「ですが……」

「あいつが俺の子供だとは限らないだろう。見真、その子供が誰の子かわかる?」

「それは、私も……」


 淳くんが指さす赤ちゃんを見て、私は言葉を失くした。父親が誰なのかは、私にもわからない。


「親子鑑定に行ったらどうですか?」

「はあ?それは高いだろう?なんで俺じゃないかもしれない子供のために、お金を使わなきゃいけないの?」

「……でも、それは淳くんの子供かもしれませんよ」

「俺の子供だからといって何だろう。俺に責任を取れというか?ふざけるな、この若さで結婚なんてしたくないよ!」

「け、けど淳くんは私のこと好きだから結婚したいって言ってたでしょ!?それ全部嘘だったの!?」


 信じられないと淳くんを見ていると、仁くんがひどいねと笑って私たちを見ていた。


「あんたのことが好きで結婚したいとは言ったが、子供が好きというわけじゃない……ちっ、ちょっとタバコ吸ってくる」


 淳くんは面倒臭そうに頭をかきながら、私たちを置いて病院の出口に向かって走り出した。淳くんの背中を見ていて、どうしていいかわからなかった。


「仁くん、どうすればいいんですか……」

「さあ、どうしたらいいか俺もわからないね~」


 二人とも答えが出なかったので、淳くんが戻ってくるのを待って話を続けようと思ったのだが、思いがけないことに──それが淳くんと会った最後になった。


「遅い」


 いつまで待っても淳くんが帰ってこないので、何か問題があるのかどうかはわからない。

 そのとき、廊下の向こうから足音が聞こえてきたので、淳くんが戻ってきたのかと思って振り返ると、思いがけない人がいた。


「あんた、一体何やってるの!」


 思いがけない怒鳴り声。私の両親である。病院は何かの手段で両親に知らせてくれたようだ。


 ここに着いた両親は私と仁くんを今まで見たことがないほど怒鳴り散らした。

 最初は父親は仁くんが子供の父親だと思っていたが、淳くんも子供の父親である可能性があると聞いて、すぐに顔が青くなって人を探しに出かけたが、どこを探しても淳くんは見つからなかった。

 そこで父親は仁くんに責任を求め、捕まった仁くんは責任を取るしかなかった。


 ──その後、先に学校に帰るつもりだったが、どこから私が子供を産んだという噂が流れたのか、最後学校は私と仁くんたちを退学した。

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