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自分の幸せ

「――え、あれ?」

「どうした、遊びに来るって言っただろ?」


 片隅でカラオケボックスの賑やかな様子を眺めながら少し呆然として呟いた。

 悪意を持って何かされるのかと思ったのだが、ボックスに案内された後、私はそのまま放置された。

 ボックスには他のクラスメイトもいて、本当に遊びに来ているようだった。

 まさか私の勘違いだったの?彼らは本当にいい人なの?


「それとも気分が悪いの?気分が悪ければ、帰ってもいいぞ」


 本当に悪気はなさそうだったので、悪意的に人を疑っていた私はいたたまれなくなった。


「いえ、こんなところは初めてなので……ちょっと緊張したんですけど……」

「え、マジ!?」


 誤魔化すために適当なことを言うと、怪訝そうな目を向けられた。


「初めてのカラオケなんて……そんなに可愛いのに、誰も誘ってくれなかったの?」

「いえ……」


 健くんはこんなところに来ないので、クラスメイトと出かけたことはなかった…これって大変なことなの?


「どうやら本当に初めてらしいな。じゃカラオケ初来店おめでとう」

「ハハ、おめでとう~この機会に思い切り歌って、真宮のことは忘れよう」

「えっ、なんで健くん……真宮くんの話が出てくるんですか?」


 私がそう聞くと、相手は困ったような顔をした。


「だって、真宮に振られたでしょ、まさか一生彼に付きまとうのつもり?」

「一度きりの人生だよ。一度きりの貴重な青春をこのまま彼に費やすの?そんなことをするより、俺たちみたいに人生を楽しんだほうがいいよ」

「人生を楽しみ……?」


 人生を楽しむなんて、まったく考えていなかった……。


「そうよ、まだ経験していないことが沢山あるだろう。この後みんなと遊びに行くのはどうだ?もっと面白い初体験ができるよ~」

「……」


 返事に迷っている私を見て、相手はこう言って……でも人生を楽しむことなんかよりも、私を動揺させたのは次の一言だった。


「それに、真宮のやつと一緒にいて果たして幸せになれるのか疑問だったな」

「幸せ……?」

「だって彼はあんたのことが嫌いなんだろ。だったらお前も自分の幸せを求めたほうがいいじゃ。男は真宮一人じゃないんだから」


 自分の幸せを求めた方がいい……か?

 健くんが私のことを好きじゃなくて一緒にいられなかったら、私も自分の幸せを探してみるべきなんじゃないでしょうか……。


「えと……あの、今後、このような集まりに参加してもいいですか」


 長い沈黙の後、私は口を開いた。


「ええ、もちろん、大歓迎だよ」


 そして、私もその後開催されたパーティーに参加した。同時に、二人の男子がそれぞれ淳と仁と呼ばれていることも知った。

 淳くんは背が高くてがっしりしていて、仁くんのテクニックもすごい……彼らに導かれて、たくさんの面白いイベントを経験して、たくさんの面白い初めてを経験した。

 そんな経験もあってか、最近調子もよくなり、空が暗くなく、世の中が明るくなったような気がする。

 淳くんたちが言っていたように、健くんに告白して以来、改めて楽しさを感じている……いや、健くんといるより楽しいかもしれない。

 それが幸せというものなのかもしれないと思う。健くんがいなくても、私は幸せになれた――!


「それじゃ、真宮に話しに行こう」


 淳くんたちにそう提案されたから、彼らを連れて近くの公園で健くんに会いに行く。そして――、


「ごめん、健くん、私、その人たちと一緒にいることに決めました」


 という言葉が出てきた。

 この言葉を口にするとき、私はいったいどんな返事を求めているのでしょうか。失望したり後悔したり、とにかく反応してほしかったのだが、


「そうか。わかった」


 眼鏡をかけた少年は軽くうなずいた。私と後ろの二人を見ている、眼鏡の奥に隠された顔には何の表情もない。

 こちらの感情のこもった言葉とは違い、冷たい返事は夕食に何を食べるかを決めるように。


「おえ、純、あんたたち、本当に幼なじみなの?」


 私の後ろにいた淳くんと仁くんも怪訝そうな顔をして、しかもこいつはちょっと冷たいんじゃないか、幼なじみって言うんだから、面白いものが見られると思って来たのに、というような発言をした。


「……」


 こんな短い返事をするとは思っていなかったけど、実は心の中ではこうなることはわかっていたんだ。ただ、認めたくなかっただけ。


 ――ああ、やっぱり私のことは彼にとってはどうでもいいね。やはり健くんは私のことが好きではない。


「……」


 短い沈黙が私たちの間を支配する。何も言わない私を見て、口を開いたのは健くん。


「話は終わりよね。じゃ、お先に」


 話が終わったことを確認し、私たちが見守る中、健くんは悠然と公園を後にした。


「チッ……なんなんだよ、あいつ」


 去っていく健くんの背中を見て、淳くんは顔をしかめて舌打ちをする。


「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。あんな奴に怒っても何の得にもならない。これで純は彼と縁を切ったことになり、おめでたいことだね」

「おめでたい……ですか?」

「そうよ、あいつはあなたには向いていない。あなたのことを好きになってくれない奴と一緒にいても不幸になるだけよ。これでやっとあなたは自分の幸せを追求できるね」


 健くんとの関係を置き去りにしているのはうれしくもなく、むしろ胸が苦しいような気がする。が、仁くんの言うとおりかもしれない。これで私は自分の幸せを追求することができる……!


「どう、いいことでしょう?」

「真宮のやつより、俺たちはお前のことが本当に好きなんだよ」

「……ありがとう」


 淳くんと仁くんにそう言われて、私は心の中で感動した。そう、健くんは私を好きじゃないけど、私は愛されていないわけじゃない、私には淳くんと仁くんがいる。


「じゃあ、お祝いに行こうか!」


 そう言って、私たちは一緒にお祝いに行った。

 そして、夢のような日々が始まった。私は淳くんと仁くんと一緒に毎日楽しく過ごしている。 遊園地に行ったり、海に行ったり、いつでも一緒に。

 そんな状態が1年ほど続いた。そのせいで生活リズムが乱れ、成績も下がった。けど一応持ちこたえている。

 このまま日々が続いて、もっと良くなっていくと思っていたが、それが悪夢の始まりだったとは…… 。

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