居場所
……それから日が経ち、天啓さんが消えてから、三ヶ月ほどが経った。
その間、私も止まることなく、健くんのそばにい続けた。
遊園地でも海でも水族館でも、どこに行っても一緒だ。そばにいるだけで、この上ない幸せを感じて、毎日ふわふわしているようだ。
時間が経つにつれて、健くんが私を好きになってきたのを感じることができる。そして、今日になって……。
「純ちゃん、今日やるでしょう、がんばってね」
「あの鈍感男をものにしよう~」
「一気にやろう」
放課後、友達が私を応援してくれた。
「ありがとう、頑張ります!」
今日は健くんともう一度ホテルに行く約束をしている。
きっと成功するだろう。そんな予感がする。今度こそ前回やり残したことを全部やる!
そして、みんなに励まされて、私と健くんは帰り道を歩いた。
「じゃあ健くん、予定通り一度家に帰りますよ」
制服を着て鞄を持っているのはいろいろな意味で不便なので、昨日はそれぞれ先に家に帰ってからホテルに行くと約束した。
「え、健くん、家はこっちじゃないんですよ?」
「……家に帰る前に、ちょっと寄り道して近くの広場で人と会う予定だ」
「人と会う予定ですか……そうか、じゃあ、私も一緒に行きましょう」
「話に時間がかかるかもしれないから、ついて来なくてもいいよ」
「大丈夫ですよ。時間をかけてもいいですから」
広場は自宅からそう遠くない場所にあるから、往復するのにそれほど時間はかからないはずだ。
ちょっと考えてから、健くんの後を追った。
「ところで、会う相手は誰なんですか」
普段、健くんはわざわざ人と会う約束をしないので、好奇心からその人が誰ですかと聞いてみたが、意外な名前が出てきた。
「天啓だ」
「え……?」
その名前を聞いて、私は立ち止った。
「何ですか?」
天啓さんって、どういうこと?どうして、ここに天啓恵の名前が出てくるの?
聞き間違いかな?きっと聞き間違いよね?
「昨日天啓から連絡があって、話があるというから、広場で会うことになった」
間違えた、そう応えてほしかったが、健くんは立ち止まって振り向き、また天啓さんの名前を口にした。
「て……天啓さんはもういないじゃないですか?どうして健くんと連絡を……もしかしてあなたたちはこの3ヶ月間ずっと連絡を取り合っているのですか?」
顔から血の気が引くのを感じた。私の問いかけに、健くんは否定した。
「いえ、彼女昨日になってから連絡があった」
「昨日になってから連絡があった……どうしてこんな時に、あなたに会いに来たんですか?」
「彼女は、先に大事な話があると言っていたんだが、できなかったことがあって、今やっと連絡が取れたから、すぐにでも説明したいという」
説明したいこと……天啓さんは私の過去を健くんに話したかった?今、この時──!?
「大事なことのようだから、長く話し合いがあるかもしれない。待ちたくなければ、先に家に帰って準備──」
「ダメー!!!」
健くんがそう言いながら前に進むと、私はすぐに彼の行く手を阻むように両手を広げた。
「ダメ、会いに行っちゃダメ!!」
「……」
健くんは立ち止まって黙っていて、目で私になぜ行けないのか尋ねた。
「天啓さんは大事なことを言うんじゃなくて、健くんに私の悪口を言おうとしたんです!」
「悪口?」
そう言うと、健くんの目に不審の色が浮かぶ。
「そう……実はあの日、天啓さんは私にたくさんの悪口を言っただけじゃなく、健くんに私の悪口を言うつもりだと言いました……今頃この時健くんに会いに来たのは、きっと私の悪口を言いたかったからに違いありません!」
「……天啓がこんな人だとは思わない。彼女がそんなことをする理由はない」
健くんは信じられない顔をした。本当のことを言っているのに……!
「それは天啓さんが私のことを好きではなく、そして健くんのことを好きから。彼女は私たちが一緒にいてほしくないから、そうしようとしたんですよ!」
「……そうなんですか」
そう説明すると、健くんはついに行かせたくない理由がわかったようだ。が──、
「──もし本当そうなら、彼女と話して、何が言いたいのか聞いてみるべきだった」
健くんはそう言いながらまた歩き出した。
「ダメ!」
私は健くんの服をつかんで、必死に止めた。いけない、絶対に天啓さんのところへ行かせては──!
「大丈夫です。私は何を言われても気にしません。だから健くんは行かなくてもいいんです!」
「だが……」
「お願いですから、行かないで……」
あと少しでハッピーエンドになるところだったのに、どうして今頃天啓恵に会いに行くの?
手を放せば、今までの幸せが遠ざかっていくような予感に戦慄し、足が震えた。
心臓が不安で高鳴る。同時に強烈な痛みが頭を襲う。
「わ、私は、健くんはそばにいてくれるだけでいいけど、他はどうでもいい──それだけで私は幸せですよ!」
──ああ、そうだ。
思えば健くんのそばにいてこそ、私は幸せであたたかい気持ちになれる。
彼のそばにいてこそ、本当の幸せを感じることができ、彼がそばにいてこそ、本当の喜びを感じることができるのだ。
それを理解したからこそ、過去に戻ることを選んだのだ。
健くんと一緒にいるだけで、私は幸せになれる。
そんな願いを抱いているからこそ、私はここに来て、健くんに好きになってもらう努力を続けていた。だから……、
「お願い…!行かないで……!」
健くんの手を掴んで、そう懇願した。
「……」
返事がなく。だんだん息が苦しくなってきて、健くんの顔を見るのが怖くてうつむいてしまう。
液体が地面に落ちる。頭を下げると同時に涙が落ちて、この時涙を流していることに気づいた。
涙を流していることに気づいた瞬間、力が抜けて膝から崩れてしまった。
「私は何でもしますから。だからお願い、私の居場所を奪わないで……!」
そう言うと、全身の力を使い果たしたかのように、私は膝をついて泣き出した。
「う、う、うう……うああああ……」
「……見真……」
顔を上げると、健くんは何か言いたげな顔をしていた。
「俺は──」
「──ダメだ!この女を信用してはいけない!」
健くんが口を開いたとき、私の後ろから声が聞こえた。健くんは顔を上げ、私も彼の視線を追って前を見た。
──その前には、天啓恵が立ったまま私たちを睨んでいた。