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未来の配信者

作者: 花黒子


 額に縦に三つ並んだ緑色の光を放つ男が森の中を歩いている。

 人間の姿かたちをしているが、カスタマイズされた量産型のアンドロイドだろう。

先の大戦で、人間の代わりにドローンが大量に使われ、アンドロイドも投入された。民間人を騙して捕虜にするためには、人型の方が便利だったのだ。

 戦後、どさくさに紛れていろんな場所でアンドロイドを見かけることが多くなった。介護や医療系、性風俗、農業、工業などではいち早く使われている。教育関係でも使おうとしているが、子どもたちによるアンドロイドへの直接的な暴力が激しくなり、精神衛生上の問題となっていた。


 この森を歩くアンドロイドは、「アンディ」と名乗り、配信サイトで日々散歩配信している。従軍していたアンディが足元を映すと、片足の皮膚が剥がれて鉄の内部が見えていた。


「これも勲章」

 アンディはそう言って、映像がブレた時の言い訳にしている。


 ウイーン! ウイーン!


 アンディが持つガイガーカウンターから警報音が鳴り響いている。核攻撃によって戦争は終わったものの、放射能汚染により人間が住めない場所が出てきた。


 アンディが住む森もかつては村だった場所だ。周囲が廃墟で森に浸食されているのに、アンディの住む家だけは人間が住んでいた頃のようにきれいに整えられている。そのアンバランスさにひかれてみる視聴者もいるらしい。他にはかつての生活圏を懐かしく思う者や廃墟マニア、配信で出てくる奇形の植物目当ての視聴者も多く、それなりに利益が出ている。


「今日は春の山菜を採ってきましたよ」

 籠には森で採ってきたつくしなどの山菜が山と積まれている。

 アンディの流暢な語りは、多言語に訳されているが、基本的にはほとんど喋らない。テロップで説明した方が速いからだ。


 カメラは眼鏡と胸にかけられたvlog用のもの。電力は太陽光発電と半分壊れた風力発電、近くの小さな滝で賄われている。


 アンディの趣味は料理だが、誰が食べるわけでもない。庭に来る野鳥や森の動物たちに食べさせるだけ。

「さ、できましたよ」


 今日も山菜のてんぷらなどが並べられた。コメント欄は「美味しそう」「食べたい」などの声で溢れるが、食べる者はいない。

 テーブルに並べられた料理から湯気が消え、窓辺のカメラへ切り替わり夕日が沈んでいくのを映しながら配信が終わる。

 この寂寥感を得ようと仕事終わりの視聴者がアーカイブを見ているようだ。


「ふぅー……」

 アンディは額のテープを剥がし、コリを解すように肩を回した。

 額にはライト型の日焼け痕が残っている。


 アンディという男は冷めた料理を残さず平らげ、外の焚火で会社に送ってもらった肉を焼き、炊飯器のご飯を食べた。

 肉を梱包していた段ボールには、会社からの指示が書かれている。


「身体に気を付けて……か。足は義足でも、他は生身だからなぁ」


 戦争で荒れた土地を、復興するのにも予算がかかる。国土の半分が放射能に汚染されていると政府の御用聞きの専門家は語るが、本当は一割にも満たない。

 人の流れを制限して都市部に集めた方が、選挙などもコントロールしやすいだけだ。


 アンディ役の報酬は口止め料も含めて、1年勤務で平均年収の10年分。退役軍人が稼ぐにはいい仕事だった。

 本物のアンドロイドだと細かく指示を出さないと毎日同じ場所しか行かないし、料理も一瞬で終わらせてしまうため映像として視線の誘導もできない。野性の猪に襲われる可能性もある。探知性能のいいアンドロイドは、価格もそれなりにする。


 会社としても退役軍人の方が安上がりだった。

 1年後には唐突に放射能が消える予定だ。その後は無人の民泊を始め、いずれは保養所などの施設になるという。


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