『軍人殺し』
或る国の或る軍隊に一人のスナイパーが所属していた。
彼の弾は百発百中。狙った部位に必ず当たる。
一度そのスコープ内に入ってしまったのなら最期、
敵兵の兵士生命はそこで終わった。
――故に付いた異名は『軍人殺し』。
しかしそんな彼に不幸が訪れる。
敵国のスパイ容疑で憲兵に捕まったのだ。
勿論それは事実無根の冤罪事件。
だというのに、戦友は誰も彼の擁護をしなかった。
部下も上官も同期までもが彼を疑い離れていく。
やがて彼は無実の罪にて処刑された。
戦後、彼の墓の前には毎日のように参拝者がやってきた。
そのほとんどは彼に狙撃された元敵国の退役軍人。
彼らは挙ってこう告げる。
――貴方のお陰で生き残れた、と。
軍人を続けるには困難となった膝を撫でて、
車椅子や松葉杖を突きながら。
彼の異名は『軍人殺し』。心優しき非国民。