第十話 可笑しな人達
牢の中であれやこれやと考えていれば、正気は直ぐに戻ってきた。僕は、やっぱりこの家の人は自分には何も興味が無かったんだと改めて確信する。薄々感じていた疎外感。ちょっと飾られた見た目ばかりの小屋を用意され其処で自由に暮らせだなんて、扱いが良いように見えて本当は雑にされていたんじゃないかとは思っていた。…当時は、自分の気の所為だと、聖なる王家を疑うべきでは無いと、上手く誤魔化していたけれど。
けれど今は違う。麻薬の件もそうだし、王が亡くなってからの王家からの明らかな対応もそう。こいつらへの信頼の根拠なんてこれっぽっちも感じられない。さっきまであった筈の安心感がボロボロと崩れ落ち、今度はシドルヴァに対する信頼の方が勝ってくる。ある意味僕は壊れてしまったのかもしれないなと自覚すると同時に、さっきの怒りも段々形のある感情になってきた。
ふと僕は、隣の牢で鼻歌を歌いくつろいでいるケルトを見る。やっぱり連れてきたのがこいつで良かった。もし誤ってお嬢様をこんな目に合わせてしまっていたら、僕は罪悪感で押し潰されるだろう。丁度こいつだからこそ、僕の心は全く傷付かなかった。
「はぁ…、」
「何溜め息吐いてんのさ、楽いだろーが。」
「何処が?!え、待って楽しんでたの?紛らわす為の笑顔じゃないの?」
そう僕が言うと、何言ってんだお前とケルトは眉をひそめた。まさか本当に楽しんでいるんだろうか。僕の中で、彼に対する認識のヤバさが増した。
「こんな所にいれば、一生他所の情報も入ってこない。飯は用意してくれるし、手洗いもちゃんとある。」
「でも狭いし床が硬いし空気も冷たい。それはどうなの?」
「嫌じゃないって言ったら嘘になるけど、別にそんな贅沢望んでない。」
当たり前の生活が贅沢なのか?だとしたらお前はどんな気持ちであの屋敷にいたんだよ、変な奴だな。
「…でも、君が此処を出たいってんなら考えてやっても良いぞ。」
目の前の護衛が去ると共に、ふとケルトがそう呟く。
「へ?」
「ん?」
「ぇ、今なんて?」
「だから、貴様が外に出たいというなら手伝ってやっても良いぞって。」
僕は考えた。どうせこいつの事だから何かの冗談だろう。じゃなきゃ人はこんなに自信を持てないもの。あと関係ないけど、今の顔すっごい腹が立つよ。
「…出られないよ。君は知らないんだ、この地下牢が如何に厳重かが。」
「バーカ、誰が地下牢からって言った?違ぇよ、この王家から出るんだよ。」
「へ?」
どうしてくれようってんだ、余計意味が分からなくなった。
「名を売れってことだよ。こんな可笑しな王家の血筋なんか捨てちゃって、貴様もシドルヴァ家に来い。今なら雇ってやらんでもない。」
名を売るって、そんな簡単にできるものなんだろうか。そもそも、雇うかどうかは執事のお前が決める事じゃ無いだろう?
僕がどう答えて良いのか分からないままあたふたしていると、突然何処かで大きな爆発音が聞こえる。
「っ?!!!」
ケイトを見ると、彼は笑っていた。
「…さっきね、君の護衛兵が言ってたよ。“やっぱりあいつは引っ掛かったな、中心人物っつったら王か王女の方だろう。あいつ誰を連れてきたんだと思う?執事だってさ!”…だってさー。面白いよね、此処の人達。」
それを聞いても、僕は何も言えない。だって執事を連れて来たのは僕だし、もし気が付いていたとしても僕は執事を連れて来る。
「お嬢様なら、此処に居るのにね。」
…へ?
僕が意味も分からずケルトを見ると、彼は笑っていた。