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持ち込まれたお弁当を配られて、それをゆっくりと食べて回りを見ると、船内は来た時より和やかな様子だった。

座席は、よくよく数えてみると七列あり、それが左右二列に並んでいた。

つまり、定員からすると余裕のある造りにはなっているようだった。

20人はあちこちに固まって話していたが、そろそろ他のもの達の正体も確かめておきたい。

さっきから、仁が話している二人も気になった。

達也は、圭太に言った。

「なあ圭太、他の人達のことも誰なのか知っときたくないか?まだ今、4時にもなってないだろ?あと四時間以上このままなのに、自己紹介ぐらいしときたくないか?」

圭太は、弁当の蓋を閉じながら言った。

「まあ確かになあ。ちょっとクマさん、いや仁さんに話して来ようか。みんなを誘ってくれたのは仁さんだし。ゴミ捨てに行くから、声掛けて来るよ。」

圭太は、手際良く達也と利喜の空になった弁当箱も集めて、船首に置かれてあるゴミ袋の方へと歩いて行った。

利喜が、言った。

「圭太はめちゃ気が利くタイプみたい。営業やってるって言ってたから、そのせいかな。」

圭太は営業職なのか。

IT技術関係に進もうと思っていた達也には、普段関わりのないタイプの人間らしい。

だが、圭太は確かにさっさとフットワークも軽く、頼りになりそうな明るいタイプだった。

「…オレ、どっちかって言うと陰キャかもだし。あいつみたいにサクサク交流できるかなあ。」

利喜は、驚いた顔をした。

「え、いつもめっちゃ的確に発言してるのに?オレなんかいつも負かされてるじゃないか。」

達也は、苦笑した。

「あのアプリは発言ターンが回って来るから話さずにはおられないだろ。クロストークだから、今回はオレも緊張してるんだよ。」

利喜は、うんうんと頷く。

「確かにちゃんと発言できるかなあ。オレも不安だけど頑張るしかないよね。」

そんなことを話しながら見ていると、圭太が仁に話し掛けている。

そして、他の二人とも何やら和やかに話して笑い合ってから、こちらへ戻って来た。

「…で?どうだった?」

圭太は、笑いながら椅子に座った。

「うん、仁さんが話してくれるって。自己紹介しようって。あ、一緒にいた二人は、人狼カフェの知り合いだからアプリ仲間じゃないらしいぞ。」

そうか、参加申込みした最初の三人のうちの二人なんだ。

達也は、合点がいった。

だから、仁はあの二人と共に居るのだ。

あの二人は、他に知り合いが居ないからなのだ。

合点がいったと一人頷いていると、仁がパンパンと手を前で叩いた。

「ちょっとみんな良いか?」皆が、スッと黙って前を向いた。仁は続けた。「みんな知り合いなのに、まだ名乗ってないから誰が誰か分かってないだろう。ここは、まだ到着まで時間があるし、ややこしいから番号順で。ちなみにオレは5番、クマ。本名は仁だ。それから、ここに居るのはオレの人狼カフェの友達で、こっちが巽、そっちの若い方が廉。他はみんなアプリ仲間だろう?1番から順に頼む。」

すると、慌てたように向こうの窓際の女子が立ち上がった。

可愛らしい見た目で、少し茶色い髪はストレートでとても若そうだった。

「ええっと、1番、私は違うよ、です。」と、照れたように笑った。「変な名前付けてたから、自己紹介とか恥ずかしい。本名はかおるです。大学一回生です。よろしくお願いします。」

声がかわいいと思ってたけど、顔までかわいい。

達也は、身悶えしそうだった。

次に、達也の隣りで圭太が立ち上がったので、何事かとギョッとしたが、よく考えたら圭太は2番だ。

圭太は、言った。

「2番、声が老けてる又沼です。でも、25歳、会社員。本名は圭太。よろしくお願いします。」

女子達からも、男子からも少し笑いが漏れた。

本当に圭太は、見た目と声が釣り合っていないのだ。

すると、また女子が立ち上がった。

「あの、私は3番、シュリです。本名も朱理なの。かおるちゃんと同じ大学一回生です。よろしくお願いします。」

女子は若いなあ。

達也は、ラッキーだったと内心物凄く喜んでいた。

次に立ち上がったのは、利喜だった。

「3番、ゼットです。本名は利喜です。オレも大学一回生。よろしくね。」

あっさりと終えて、ストンと座る。

5番は仁なので、6番の札をつけた男が立ち上がった。

「オレは6番、明日考えるです。本名は颯太。24歳会社員です。よろしく。」

ということは、圭太と年が近い。

達也は、ハッとした。

よく考えたら自分は7番だ。

急いで立ち上がると、言った。

「ごめんボッとしてた。7番、ナナシです。本名は達也。大学四回生です。よろしく。」

そして、座る。

何か気の利いたことを言おうと思っていたのだが、慌てたせいで無理だった。

すると、次は落ち着いた感じの、結構歳上のがっつりした体型の男が立ち上がった。

「8番、滝本商店だ。本名は庄治(しょうじ)。もしかしたら最年長かな?34歳です。」

すると、仁が言った。

「ああ、オレ36だから。」

庄治は、お、と仁を見た。

「お、マジで?良かった、同年代が居て。以上です。」

声は若いんだよなあ。

達也は、いつも思っていたのと同じ感想だった。

次は、またそこそこ落ち着いた感じの男が立ち上がった。

「9番困惑陣営です。本名は泰裕(やすひろ)。オレは31なんで三十代陣営だな。よろしく。」

結構三十代も居たんだなあ。

達也は、それで自分の人狼仲間の年齢を初めて知った。

というか、ゲームしていると年齢など全く関係ないのだ。

次は、少し若い感じだが同じように落ち着いた雰囲気の男が立ち上がった。

「10番三十代陣営です。というのは冗談で、てつやです。本名も哲也。30なったばっかだからギリギリ三十代だ。よろしく。」

あーてつやも歳上だったかー。

達也は、同年代のノリで話していたもの達が、次々に年齢をカミングアウトして行くのを、不思議な心地で見ていた。

それでも、声は知っているので違和感はない。

てつやはてつやなのだ。

次に、やはり落ち着いた風の男が立ち上がった。

「はい、オレも三十代陣営。つばさです。本名なんだよ、翼。親があのアニメの世代でね。34歳、独身です。女子達、どうですか?そこそこ給料もらってるよ、SEだから。興味のある人は後で連絡先ください。以上です。」

アプリで繋がってるだろうがよ。

皆は笑ったが、達也も思わず心の中で突っ込みを入れながら笑った。

翼は、同じIT関係でも明るいタイプらしい。

次の男が、やりにくそうに立ち上がった。

「え、オレも独身です。というか、12番伊十院です。本名は拓也。27歳会社員です。よろしくお願いします。」

独身CO要る?

達也は思ったが、前の翼があんなことを言うので焦ってつい口から出たのだろう。

苦笑していると、若そうな男が立ち上がった。

「13番ラストウルフです。いやこれ名前で今回は狼じゃないよ。本名は裕太(ゆうた)。25歳会社員です。よろしく。」

ラストウルフも歳上なんだなあ。

達也は思った。

14は、あの仁の友達だ。

だが、律儀に立ち上がった。

「私は、仁の友達の(たつみ)という。歳は言うべきなのか?36だ。仁と同じだよ。研究医をしている。以上だ。」

医者…?!

達也は、一気に緊張した。

もしかしたら、この中で一番頭の良い人かもしれない。

…敵だったら手強そう。

しかも、36だと言っているが、顔立ちがあまりにも端正で、しかも表情が動かないので年齢不詳な感じだった。

女子達も、何やらヒソヒソ話して微笑み合っている気がする。

…あの歳で医者なんだからもう結婚してるよきっと。

達也は、そんなことを思っていた。

「はい、15番、ラングレです。」空気が変わっていたのが、元に戻る感じになった。ラングレは続けた。「オレは健斗だよ。20歳大学三回生です。よろしく。」

ラングレ、歳が近い!

達也は、一気に親近感を持った。

だが、次に立ち上がった男は、かなり若かった。

「16番、アクセル全開です。よろしくお願いします。本名は翔馬なんだ。大学一回生だよ。だから女子達と話が合うかも。よろしくね。」

とにかく若い。

というか、かわいい。

そんな感じなのだ。

そういえば、クマ達との村を観戦した時、狂人で狼吊って焦ってミスして最速負けしたあのプレイヤーが翔馬だった。

…憎めない感じだよなあ。

達也は思った。

しっかりしてそうな女子が立ち上がった。

「はい、17番長生きしたいです。本名は早紀(さき)。翔馬君、狂人で私を吊り殺したの忘れてないよー?ちなみに私は大学一回生です。以上です。」

アプリの発言ターンみたいになってるな。

達也は、その話し方で思った。

翔馬が、顔をしかめる。

「ごめんって。あれはマジでオレの汚点なんだからやめて。」

皆が笑う。

また、女子が立ち上がった。

「はい、18番まみむです。本名は美夢(みむ)。私も大学一回生なの。皆さんよろしくね。」

偶然とはいえ女子達はみんな同い年なんだろうか。

達也は、思った。

とりあえずまみむも可愛かった。

次は、仁のもう一人の友達だ。

そちらは若かった。もしかしたら十代かもしれない。

髪もサラサラで、愛らしい見た目だ。

翔馬と良い勝負だった。

「はい。僕は(れん)。仁さんと巽さんに誘われたのー。巽さんは同じ研究所の上司なんだよ。僕も研究医なんだー。」

え、と皆が目を丸くする。

医者?医者にしては若すぎないか。

と、皆の目は言っていた。

廉は、フフフと笑った。

「なに?おもしろーい。みんな驚いてるー。」

仁が、見かねて言った。

「君の歳がわからないからだろう。説明してやればどうだ?」

廉は、頷いた。

「あ、そうだね。僕は24歳だよ。海外でずっと勉強してたけど、こっちに戻って来たの。僕、あっちで育ったんだー。お父さんは日本人だけど、お母さんがアジア系アメリカ人でね。日本語ワカリマセーンだったの、お父さんも英語しか話さないし。3ヶ月前にこっちに来ることになったから、アニメで日本語勉強したよ。だから、もしかしたら君達が何言ってるかわからない時があるかもだけど、許してね。」

一体何のアニメで勉強したらこうなるんだろう。

てか、3ヶ月でこれは凄くないか。

達也が思っていると、美夢が言った。

「何のアニメ?」

廉は答えた。

「アンパンマン。」

アンパンマンか。

そのチョイスはどうしてなのだろう。

思ったが、それ以上は突っ込まないでいた。

「ええっと、私20番、らむらむです。本名は美加(みか)。大学一回生です。だから女子はみんな同い年ね。よろしくお願いします。」

これで最後。

達也は、ホッと皆を見回した。

初めて会ったが、顔と名前が一致して来たので、なんだかこれまでとは違って、何やら親近感が湧いていた。

これから、みんなで一週間、もしかしたらそれ以上一緒に過ごすのだ。

そう思うと、なんだかワクワクして来たのだった。

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