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村人かよー…。
達也は、がっかりした。
村陣営なら村陣営で、占い師なり霊媒師なり、村の役に立つ役職であって欲しかったのだ。
普段はゲームを楽しもうと思っているのでこの限りではないのだが、今回はなんとしても勝ちたい試合だった。
なので、自分が情報を多く持って率先して戦っていきたかった。
とはいえ、もう役職は配られたのだ。
崎原が、言った。
「…役職の確認ができましたでしょうか。画面から、役職その他の情報が消えます。」スッと、液晶画面から村人の文字が消える。崎原は続けた。「では、役職はランダムに配られております。これから、ルールブックをお配り致しますので、港に着くまでのお時間、そちらを読んでご確認の上、お過ごしください。では、どうぞ。」
また、先頭の席の達也の膝に、どっさりと多くの冊子が乗せられた。
達也は、それを隣りのクマ…仁にも手渡して自分も取り、後ろへと渡す。
そうやって、きちんと装丁されたルールブックが手元に来た。
映画のパンフレットのようにきっちりとしたカラーの表紙のそれを開くと、まず一ページ目には名簿があった。
1 かおる
2 圭太
3 朱理
4 利喜
5 仁
6 颯太
7 達也
8 庄治
9 泰裕
10 哲也
11 翼
12 拓也
13 裕太
14 巽
15 健斗
16 翔馬
17 早紀
18 美夢
19 簾
20 美加
…誰が誰だか全くわからない。
達也は、思った。
何しろ、皆のハンドルネームしか知らないので、名乗ってもらわないと分からないのだ。
それでも、こうやって名簿があるのは有難かった。
中身は、このゲームの役職と、その機能などがまず書かれてあった。
これまで見たものと、全て大差ない。
勝利条件は村陣営は狼と狐を殲滅すること、狼は狐を排除して村人と同数まで持ち込むこと、狐はゲーム終了時に生き残っていること、となっている。
とはいえ、人数が多いので、同じ百万円を分け合うのも、結局村人は損な気がする。
狐など、勝ち残ったら三人しか同じ陣営が居ないので、結構なお金になるのだ。
達也はため息をついて、役職の説明を見た。
人狼は、毎日必ず狼以外の誰かを襲撃しなければならない。
つまり、噛み無しは選択できないのだ。
そして、自噛みもできなかった。
ルール違反をした場合、容赦なく全員追放となってゲームを続行することができないらしいので、狼には絶対にこれを守ってもらわなければならなかった。
狂人は、狼が誰かを知らないが、狼の味方の役職だった。
狐は、狼に襲撃されても死なないが、占われたら次の日の朝に追放となる。
とにかく生き残ることが重要だ。
背徳者は、狐が誰かを知っている妖狐陣営の人だった。
占われても死なない上、白結果が出るので、背徳者の存在は狐には有難いはず。
ちなみに、最初は妖狐たちには背徳者が誰であるか知らされていないので、背徳者から接触しなければならないようだ。
次に、占い師だ。
占い師は、夜に一人、指定した人が狼か狼でないかと知ることができる。
狐を占えば呪殺できるが、その色は白と出るし、自分が呪殺したかどうかは通知されない。
状況を見て判断するしかない。
霊媒師は、その日追放した人が狼であったか狼ではなかったかを知ることができる。
狐も等しく白と結果が出るので、村人を追放してしまったのか、狐を追放できたのかは分からなかった。
狩人は、夜に自分以外の誰か一人だけ狼の襲撃から守ることができる。
同じ人を、二日連続で守ることができない。
俗に言う、連続護衛無しルールだ。
そして猫又だ。
猫又有りは珍しいのだが、これだけの人数が居たらそうなるのかもしれない。
猫又は、狼に襲撃されたら狼一人を道連れにすることができる。
だが、昼間に追放されたらランダムで一人、道連れにしてしまう。
村人であろうと狐であろうと狼であろうと、とにかくランダムなので誰が道連れにされるか分からないので、猫又は吊るわけにはいかなかった。
最後に、村人だ。
村人は、夜に全く何も情報を得ることができない。
それぞれが出す情報をもとに、しっかり推理して村を勝利に導くのが役目だ。
達也は、そこまで読んで息をついた。
…この人数で騙りも多そうだし、めっちゃ大変そう。
しかも、村陣営は全員で12人も居る。
百万円を獲得したとしても、一人8万円ぐらいしかない。
…最後まで生き残って勝利に導いたヤツには、やっぱり少し色を付けて欲しいよなあ。
達也は、まだ自分が生き残って勝ったわけでもないのに、そんな事を思った。
次のページをめくると、ゲームを進めるに当たり、どう生活するのかという、タイムスケジュールが書いてあった。
どうやら、リアル人狼ゲームというのは、本当にリアルな時間で行動して、その間に駆け引きを楽しみながらやるゲームになるらしい。
ということは、かなりの長丁場になりそうだった。
…20人村だから縄は9本。お盆の間に終わるのかな。
達也は、そんな事を思った。
一週間だと聞いていたし、確かに島なので海の状況で船が出せない場合は予定が延びる場合がある、とは聞いていたが、これでは最初から予定が延びる格好ではないだろうか。
それとも、狐の呪殺や猫又噛みを考慮されててこうなっているのだろうか。
うーんと唸りながらその事に対して聞こうか聞くまいか悩んでいると、バスの窓から海がいきなり、大きく見えた。
「わあ!もう海だ。」
後ろから、女子達の声が聴こえて来る。
達也は、もう到着するし後でいいか、と、ルールブックを閉じて段々に近付いて来る港を見ながら、バスに揺られていたのだった。
港に到着すると、そこには観光船ぐらいの大きさの船が準備されていた。
乗り込む時にチラと見た所、定員50名、と小さく書いてあったので、全員が乗ることは可能だったが、中には船首を向いた座席が二列並んであるだけで、後方にお手洗いの表示があるだけの、シンプルな作りだった。
船首の壁にはテレビモニターが設置されてあって、一応退屈はしないようだったが、この場所だけで6時間は長いなあと達也は思った。
「ナナシ、いや達也、どこに座る?一緒に座ろう。」
又沼…いや、圭太が話し掛けて来た。
声は聞きなれていたので違和感がないのだが、何しろ顔を見たのが初めてなので、慣れるのに時間が掛かる。
達也は本来、あまりガツガツ交流するタイプではないのだ。
それでも、頷いた。
「圭太。なんか又沼って呼びそう。」
圭太は笑った。
「みんなそうだって。オレ、バスで隣りになったのがこいつ」と、脇に立つ十代かというほど若い男を見た。「誰だと思う?」
誰だろう。
胸には、4利喜と書いてある。
「誰だろ?利喜?」
その男は口を開いた。
「オレ、ゼット。まだ19だから、圭太から子供だとか言われてさあ。」
そうだ、この声はゼットだ。
「なんだ、ゼットなのか?こんな若かったのかよ。」
圭太が、何度も頷いた。
「そうなんだよ、オレもびっくり。まあ、オレが言えたことじゃないけどな。」
お前こそびっくりだよ。
達也は内心思ったが、回りを見回した。
「…じゃあ、こっちに座るか?そうだ、クマ…仁さんは?」
ふと見ると、仁は同じくらいの年頃に見える一人と、若い二十代ぐらいに見える一人と共に立ち話をしていた。
その二人が誰だかまた分からなかったが、もう良いかと達也は圭太と利喜と並んで座ることにした。
この椅子は、長椅子で三人座るには余裕があるが、4人だとぴったりという感じの広さなのだ。
回りでは、二人で座っている人達も居るし、三人の人達も居る。
達也は、とりあえず座って出航を待つことにした。
崎原が、最後に入って来て人数を数えると、言った。
「では、出航します。最初は揺れますから、着席してください。」
まだ立っていた人達が、急いで手近な椅子へと腰掛ける。
崎原は船首にあるマイクのようなコードのついている物を手にして、何か言った。
途端に、船はこれまでのアイドリングの音から、頑張る感じの音へと変化して唸り声を上げ、そうして船は、シズシズと進み始めたのだった。