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哲也は、廉と共に対戦型のゲームをしていた。
他の人達は、眠気に勝てないと早々に部屋に戻ってしまって、今は広いリビングに二人きりだ。
また一ゲーム終わって、廉が言った。
「わーい、また僕の勝ち!」と、画面を見上げながらカーソルを動かした。「次はステージどうする?もう結構やってるよね。」
哲也は、目をシパシパさせながら、言った。
「…だな。」と、眠気を振り払うように頭を振った。「次は、もっと凝ったステージにしよう。眠気も吹っ飛ぶくらいの。」
廉は、チラと哲也を見ながら、言った。
「…いいよー。でも、もう10時だよね?ここんとこ早寝早起きだったから、もう眠いんじゃない?無理してない?」
哲也は、引き続き瞼を必死に何度も瞬かせながら、首を振った。
「…いや…まだいける。」
だが、哲也はもう半分以上寝ているような感じだ。
廉は、画面を見た。
「そう?なら始めようか。じゃあ、ステージは…これにする?」
カタン、と、哲也の手からコントローラーが落ちたのが見えた。
廉が振り返ると、哲也はソファにぐったりと倒れて寝息を立てていた。
「…だよね。いくらなんでも薬には勝てないと思うよ。」
廉は言って、コントローラーを操作して画面を閉じた。
そこへ、三原が入って来た。
「ジョシュア?もうその検体だけだぞ。君が相手をしているから待ってたが、埒があかないので一気に眠らせた。」
英語だ。
ジョシュアと呼ばれた廉は、ため息をついた。
「他は処理が終わったの?」
三原は、答えた。
「今やってる。颯さんが来てるんだ。だからもうすぐ終わるだろう。明日には全部忘れて楽しかった記憶しか残ってない。君のことも、顔すら覚えていないだろうよ。」
わらわらと他の研究所員が入って来て、哲也を担架に乗せてさっさと運んで行く。
廉はそれを見送りながら、寂しそうな顔をしていたが、大袈裟にため息をついて見せた。
「せっかくたくさん友達ができたのにさあ。みんな、もう何も覚えてないんだね。なんだか、無駄な時間だったなあ。」
三原は、顔をしかめた。
「最初からそのつもりだったじゃないか。覚えててもいいことなどない。ジョンの指示だ。君もそろそろ準備をしておいた方がいいよ。皆が問題なく処置を終えたら、先にヘリでここを発つんだろう。ジョンはもう荷物をまとめていたぞ?」
廉は、またため息をついた。
「OKOK、分かったよ。」と、リビングの扉へと足を運んだ。「もう夢は終わったんだね。」
廉は、帰り仕度をしに部屋へと向かった。
まだ10時だったが、昼間の喧騒が嘘のように、建物の中はシンと静まり返っていたのだった。
次の日、達也は久しぶりに良く寝たなとスッキリ目が覚めた。
どうしてそう思ったのか分からなかったが、何やら6時に起きていないといけないような気持ちになって、慌てて時計を見る。
時間は、もう8時を過ぎていた。
「…めっちゃ寝てる。」
思わず飛び起きて寝癖のままで廊下へ飛び出すと、たまたま出て来て来た向かいの部屋のかおるが、驚いた顔をした。
「達也さん?どうしたの?」
達也は、声を掛けられてハッとした。
「…ええっと…みんな、起きてる?」
かおるは、答えた。
「どうかな、私はもう朝ごはん済ませて来たのよ。着替えて先に荷物をまとめておいて、それから遊ぼうかなって。人狼やる?みんなが集まったらやる人だけでやろうよって早紀ちゃんが言ってて。帰るまでまだ時間があるから。」
人狼…。
達也は、何やら頭の中がごちゃごちゃして、頭を掻いた。
「…そうだな、今起きたばっかで。後から考えるよ。何かボーッとしてて。」
すると、かおるが顔をしかめた。
「飲み過ぎじゃない?別に飲むのはいいんだけど、ゴミは片付けておいてよね。朝、朱理ちゃんと早紀ちゃんと一緒にリビングに放置されてる空き缶片付けて回ったんだよ?男子で盛り上がったって圭太さんが言ってたけど、私達そんな世話までしないよ?もう。」
そうだったかな。
達也は、ぼんやりする記憶で、思わず謝った。
「ごめん。」
かおるは、気が済んだのか表情を緩めた。
「ま、良いよ。もう今日帰るんだものね。それにしても、おもしろかったね!一瞬だったー。」
かおるは、楽しげに階段の方へと去って行った。
…みんなで、遊んでたんだったか。
達也は、考え込みながら部屋へと帰った。
すると、いろいろな記憶が頭に浮かんで来た。
プールで圭太達と遊んだこと、ビーチを見に行ったこと、リビングで集まって人狼ゲームに興じたこと…。
…そうだ、人狼三昧で時々息抜きに水遊びとかゲーム機でゲームしたりしてたんだった。
達也の頭には、総勢18人での楽しかった日々がハッキリと、出て来た。
…忘れてた。飲み過ぎだな、こりゃ。
達也はウキウキと楽しかった記憶に体も軽くなりながら、帰り仕度を整え始めたのだった。
階下へと向かうと、もうみんな居た。
哲也はまだぼんやりとしながらコーヒーを飲んでいたが、他は全員元気そうだ。
達也は、言った。
「ごめん、めっちゃ寝てて。哲也は二日酔い?」
哲也は、頷いた。
「なんか記憶がハッキリしなくてね。いくらなんでも飲み過ぎたな。ゲームも、誰と何をやってたのかも思い出せないぐらいだよ。」
達也は、苦笑した。
「オレも起きた時はそんなだったよ。何してたんだっけかって頭がハッキリしなくてさあ。人数も…何でだろ、もっと居たような気がしてね。」
仁が、それには頷いた。
「達也もか。オレもなんだよ、オレと歳が近い人が居た気がして。ま、仕方ないよな。」と、大きな紙袋を出した。「あ、これ。報酬だと三原さんから預かったんだ。何でも、今回はモデルケースだったらしくて、オレ達がたくさん人狼してリゾートで遊ぶ様をモニターしてて良いデータが取れたから、その謝礼らしい。」
紙袋から、仁は封筒を出した。
そして、一人一人に配って歩く。
先に受け取った圭太が、中を見て思わず叫んだ。
「え!凄いぞ、1、2、3…10万円ある!」
「「「ええ?!」」」
全員が急いで中身を確認している。
哲也も、ダルそうにしていたのに飛び起きて封筒を仁から引ったくるように受け取った。
「…ホントだ。やった!オレ欲しいゲーム機があったんだよ!これで買える!」
達也も、中身を見てにんまりと笑った。
ここへ来て遊んでいただけなのに、なんてラッキーなんだろう。
翼が、言った。
「…なんだろ、もらえるの知ってたような気がする。」と、首を傾げながら、何もない左手首を擦った。「…朝から手首が気になるし。何もないのにさあ。記憶が混乱してるみたいな感じ。」
美加が、それには頷いた。
「それは何かそうなのよね。左手首は、ずっと何か巻いてたみたいな気持ちになるの。でも、何もないよね。おかしな気分。」
早紀が、言った。
「だからお酒はまだ早いって言ったのに。私達二十歳になってないからね?男子達とは違うのよ。昨日美加ちゃんだけ、缶チューハイこっそり持って来てたでしょう?やめた方がいいって言ったのに。」
美加は、顔を赤くした。
「もう!バラさらないで、そんなに飲んでないんだからね。」
やっぱり飲んだからおかしいのかなあ。
達也は思ったが、もらった報酬の使い道を話したり、また出発時刻まで人狼ゲームをしたりと和気あいあいとしていたら、もうそんなことはどうでも良くなって、ただ楽しかったという思い出と共に、この旅を終えたのだった。




