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一階へと降りると、そこには三原が居て、笑顔で迎えた。
「ああ、皆様お疲れ様でした。お楽しみになりましたか?」
まるで、アトラクションにでも乗って来た後のような気軽さだ。
達也が面食らっていると、巽が言った。
「…他のもの達は?」
三原は、場違いな笑みを浮かべて答えた。
「はい、もう降りて来られると思いますよ。あちらでは一喜一憂して大変観戦を楽しんでおられましたが、一昨日辺りから人外の方は何やら暗いお顔をなさっておられました。先が見えておりましたのでね。運営としても、かおる様の襲撃後の結果残しは、少し人外に不利であったなと。そこはフェアではないという判断になりまして、全員に10万円ずつ賞金をお渡しすることに決定致しました。」
哲也が、パアッと明るい顔をする。
「え、じゃあ村陣営で勝利した時の一人頭の取り分より多い!」
確かにそうだ。
達也は、それよりも追放されたもの達が、観戦していたと事実に困惑していた。
「…みんな見てたんだ。なんだよ、こっちは必死だったのに。」
そこへ、かおるが先頭で飛び込んで来た。
「みんなお疲れ様!やったね、でも巽さんが真だったのにみんな疑い過ぎ。巽さん軸に考えたらめっちゃ楽だったのに!」
そんなことを言っても。
後ろから、わらわらと追放された人達がなだれ込んで来た。
「達也!」
圭太だ。
達也は、言った。
「圭太!」と、駆け寄った。「良かった、なんともないか?!お前死んでて…どこもなんともないか?!」
圭太は、苦笑した。
「なんとも。だってさ、夜中になんかチクッとしたと思ったら次に目が覚めたら四階に居てね。お疲れ様でした、皆様観戦なさっているのでどうぞとか言われて、何のこっちゃかわからないままだったよ。美夢ちゃんとか颯太とか、先に追放された奴らがお菓子食べながら四階のリビングで集まってモニターで見てたんだよね。暇だから、ゲーム機あるしゲームやったりして時間潰してた。普段は隣りの北館と四階から通路で繋がってるから、そっちで過ごして島の裏のプライベートビーチとか行ったりしたよ。暑いからすぐ戻って来たけどね。」
言われて見ると、確かに何人かは日焼けして健康的な顔色をしている。
追放された方が楽しんでいたようだ。
仁が、眉を寄せた。
「…なんだよ、こっちは命が懸かってるから必死だったのに。追放された方が自由にリゾートしてたのか。」
翔馬が、バツが悪そうな顔をした。
「いや、まあそうなんだけど。オレ達だってホントに死ぬと思ってたから。死んでみたらそっちのが楽だったってだけで。」
三原が、まあまあと割って入った。
「とにかく、お疲れ様でした。ただいま賞金のご準備をしておりますので。予定通り明日、昼頃に迎えの船が参りまして、午後2時出発予定です。最寄りの駅には午後8時頃に到着予定です。乗船まではお部屋の鍵もかかりませんので、ご自由にお過ごしください。もし、引き続きこちらに滞在してお楽しみになりたい場合は、一泊139800円でお泊まりになれますので、お申し出ください。もちろん、送迎はさせて頂きます。」
いや、高い。
一泊でそれなのか。
「いや、帰ります。」達也は即、言った。「というか、次にこれに参加する時は七日間で19万とか聞いてたんですけど。」
三原は、困ったように笑った。
「それは、人狼イベント特別価格で。破格になるように、運営がご支援させて頂いてのお値段ですので、リゾートを楽しまれるだけなら正規のお値段になりまして。」
やっぱり高級リゾートだったのだ。
ふと、利喜が言った。
「…待て、廉は?あいつ今朝呪殺されてただろう。」
そういえば、廉の姿がない。
三原が答えた。
「廉様はまだ処置が終わっておりませんので。ですが、午後には降りて来られるかと思いますよ。」と、何やら箱を差し出した。「人狼ゲームのカードです。良ければまたゲームをされる際にお使いください。」
皆は、顔を見合わせる。
達也は一応受け取ったが、もうしばらく人狼はしたくなかった。
三原は、笑顔で言った。
「では、明日の昼まで自由行動ですのでご自由になさってください。北館は閉鎖されますので、ビーチをご利用の際は正面玄関の方のビーチをご利用ください。プールもご利用可能です。では、これで失礼致します。」
そう言って、三原はそこを去って行った。
巽は、言った。
「…では、私は朝食を摂ったら部屋に帰って休もうかと思う。君達は、遊びたいなら遊ぶといい。私はリゾートには興味はないのでね。」
そう言って、キッチンへと歩き出す巽を、達也は急いで追い掛けた。
「巽さん!」後ろから圭吾もついて来る。構わず達也は言った。「あの、すみません。最後まで信じなくて。」
巽は、首を振った。
「そんなことはいい。君達を信じさせることができなかった私が悪いのだ。それでも勝てるように進めていたので問題はない。」
達也は、巽と一緒にキッチンへと入りながら、言った。
「でも…巽さんは最初から最後まで間違ったことは言ってなかったのに。」
巽は、苦笑した。
「だから良いのだよ。仮に人外でも私は同じように振る舞ったしな。そこは計算していたので、気にしていない。仁に聞けば分かるが、人狼カフェでやる時もこんな感じなのだ。真であったら初日に噛まれることが多く、生き残ったら疑われることが多くてね。まあ、それでも生き残れたら勝つので特に心配してはいなかった。」
この感じだとそうなるのかもしれない。
わらわらと他の皆もキッチンに入って来る中、巽はさっさとカロリーメイトを手にして、ペットボトルのコーヒーを冷蔵庫から出した。
達也はそれを見て言った。
「巽さん、それで良いんですか?」
巽は、頷く。
「準備が面倒でな。廉が居たら分かっているのであれこれ準備するが、今は居ないので。昼には戻るようだし、またその時にしっかり食べるつもりだよ。」
廉が巽の世話をしていたのか。
よく考えてみると、食事時はいつも廉と一緒に居た気がする。
だからだったのだ。
「その人は自分であれこれやらないよ。」ハッとして振り返ると、青い顔をした廉が立っていた。「人に命じてやらせることに慣れちゃってるからね。」
「廉!」達也は、急いで廉の腕を持った。「大丈夫か?真っ青だぞ。」
廉は、頷く。
「まだ横になってろって言われたけど、この人の食事が気になったから。別にちょっとフラフラするだけで問題ないよ。」
巽が、言った。
「なんだ、無理をすることはなかったのに。朝ぐらい食べなくても支障はない。」
廉は、むっつりと言った。
「颯さんに怒られるんですって。今回、僕が付いて来ることになったけど、ホントは颯さんが来たかったみたいですからね。あなたがR77138Cから目を離すなとか言うから。」
巽は、椅子にそっくり返った。
「あれはいつも私について回るのだ。そこまで心配しなくても、私は父とは違う。ある程度は勝手にやる。それより研究の方が大切だろう。」
廉は、ヨタヨタしながら冷蔵庫を開いた。
「親戚なのにどうしてこんなに違うんだろ。颯さんはとってもいい人なのに。」
達也は、わけがわからないながら、廉は巽を心配する親戚の一人に、巽の世話を頼まれて仕方なくやっているということは分かった。
「手伝うよ。言ってくれたら。廉は座ってて。」
廉は、ホッとしたように達也を見た。
「ホント?ありがとう。じゃあ、僕が言う物を揃えて。」
達也はごちゃごちゃしているキッチンの中で、他の皆に紛れながら、廉の指示通りに完璧な和朝食を巽の前に揃えて言ったのだった。




