40
三階にはもう4人しか残っていなかったはずだが、廊下へと到着すると居たのは二人だった。
美加が、こちらに気付いて振り返る。
「…廉くんなの。」と、ハッとした顔をした。「あれ、哲也さん無事なの?!」
哲也は、苦笑した。
「そう。オレもびっくり。」
すると、巽が部屋から出て来た。
「廉が死んでいる。」と、哲也を見た。「哲也?無事なのか。」
哲也は、もう誰に言われても傷つかないと思いながら、頷いた。
「無事ですよ。ってことは、巽さんが呪殺を装って噛んだ可能性があるな。」
巽は、驚いた顔をしたが、クックと笑った。
「…そうか、君は私がそうするかもと予想して廉を守っていなかったのだな?」哲也がグ、と黙ると、巽は続けた。「まあ良い。これで8人、後3縄だ。翔馬は処理されたから、今日は村目線でも仁一択。何故なら、圭太のグレーで君達目線、狐の可能性があるからだ。私は狐だけはないわけだろう?健斗に占われているから。翔馬が吊られて生き残っている以上、私は背徳者ではない。圭太のグレーが処理されてゲームが終わっていないので、私か仁にまだ狼は残っている。仁で終わらなければ私を吊るが良い。必ず終わるがね。もう、村は勝ち確定だ。縄が足りる。仁は最後の足掻きで廉を噛み合わせて来たようだが、結局勝ち筋はない。」
仁は、巽を睨んだ。
利喜は、言った。
「…巽さんの言う通りだ。」皆が、利喜を見る。利喜は続けた。「巽さんは、あって狼。仁さんが狐の可能性が残っている。だから、巽さんが狼であっても今日は仁さんから吊るしかない。もう議論の必要はない、ここからは作業ゲーだよ。どちらにしろ、村は勝ち確定だ。」
巽は、フフンと笑った。
「良かったな。本来なら明日帰る予定だっただろう?間に合ったではないか。今夜で終わる。必ずな。」と、仁を見つめた。「それより、仁は投了しないのかね?そうしたら早く終わるので、無駄な時間を過ごさず済むのだがね。」
無駄な時間…。
達也は、さすがに言った。
「巽さん、いくらなんでも仁さんを吊るってことは、死ぬんですよ?心の準備の時間も要るじゃないですか。巽さんから見たら、敵陣営なんでしょう。勝たないと、帰って来れないって…。」
巽は、言った。
「君は考えたことはないか。この人数が経験して、見て知っている殺人を、これを主催しているもの達が本当にやると?」
皆が、え、と目を丸くした。
「え、でも現に死んでて…勝利陣営は、戻って来られるとしか…。」
巽は、ため息をついた。
「敗者が戻って来られないとは書いていなかった。」皆、ますます目を丸くする。巽は続けた。「私が思うに、これは私達に真剣に勝負させようとわざとやっている事ではないか。そもそも、こんな大量殺人が許されると思うか。私はそうは思わないがね。」
仁が、やっと口を開いた。
「…では、君は皆が戻って来ると?」
巽は、頷いた。
「勝者が戻るのなら、敗者戻ると思った。何度も言うが、皆見た目は死んでいたのに死後の変化が何時間経っても現れなかった。あれは死んでいない。触診ではどう見ても死んでいたがね。」
皆が、顔を見合わせる。
しばらく黙った後、仁が、言った。
「…オレが、ラストウルフだ。」え、と皆が仁を見る。仁は続けた。「仲間は、翼、颯太、翔馬。狂人は裕太。噛めたし健斗が背徳者だろう。最初は、颯太に黒を打って来たので真だと確信して、噛めなかった巽さんが狐だと思っていた。だが、巽さんは狐らしい所を全く囲っていない。段々に詰まって来て、巽さんが真だと分かった。となると、もう巽さん狼で押すしかないと思った。廉を呪殺することは分かっていたし、噛み合わせたがもう手詰まりなのは昨日の時点から分かっていたのだ。縄が足りている。全ての敗因は、初日に巽さんを噛めなかったことだ。噛めていたら、圭太を飼ってキリの良いところで襲撃して終わるはずだったのに。あれで一手遅れて、霊媒も面倒なことに。」
あの日は霊媒で勝負するべきだった。
達也は、感想戦のようになって、心の中でそう思った。
巽は、頷いた。
「その通りだ。あれだけ霊媒霊媒皆が言うので、私を噛めると思ってもおかしくなかった。そう考えると、哲也は初日よく私を守ったものだ。あれで縄が増えたし、霊媒も一日生き延びた。とはいえ、少しイレギュラーもあったがね。かおるさんが、本当なら結果を残せなかったはずなのに。リアル人狼の醍醐味かもしれないが、狼には気の毒なことだった。」
仁は、ため息をついた。
「本当にな。もしかおるちゃんが噛めなかった時のために、翼が人狼COして巽さんを道連れにすると決めていたのだ。だから、翼が出た。裕太には可哀想な事をしたよ。だからこそ、勝とうと思っていたのに…どうにもならなかった。圭太を後一手早く噛みたかった。全てが後手後手になったのが敗因だと思っている。」と、皆を見回した。「それで?巽さんの言う事を信じたわけじゃない。どうせ言わなくてもオレが今夜吊られてゲームは終わると思ったからこうして告白したが、どうなるのかな?オレのこと殺されて、やはり帰れないのか。夜まで待つか?」
すると、仁の腕時計から声が流れた。
『投了しますか?』
皆が、顔を見合わせる。
仁は、一気に緊張した顔をした。
「…どうせ勝てない。時間短縮だ。投了する。」
すると、しばし時間があって、全員の腕時計が言った。
『No.5は追放されます。』
途端に、仁はグラッと倒れて来た。
「うわ!」達也は、急いで手を出した。「おおっと、危なっ!」
見ると、巽も支えてくれている。
そして、そのまま廊下へと一旦寝かせた。
『No.5は追放されました。村人陣営の勝利です。』
やっぱりラストウルフだった。
達也は思って一気に肩の力を抜く。
その場に居た巽以外の全員が、廊下の絨毯の上にヘタヘタと座り込んだ。
「巽さん?」達也が、仁を見ている巽に言った。「皆と同じですか?」
巽は、首を振った。
「いや。気を失っているだけだろう。」と、達也を見た。「普通に呼吸もしているし、脈もある。」
え、と皆が急いで這って仁に寄ると、確かに仁の胸は上下していて、眠っているだけに見えた。
『ゲームが終了致しましたので、皆様リビングにお集まりください。準備のできたかたから、順次戻って参ります。』
準備…?
皆が思っていると、目の前で仁がカッと目を開いた。
「!!」
皆が仰天して仁を見つめていると、仁は飛び起きた。
「…なんだ?!あれ、廊下?まだ追放されてないのか?」
呆然としている皆に、巽が仕方なく言った。
「ゲームは終わったのだ。準備のできた者から順に戻って来るから、リビングへ行けと言われたよ。」
仁は、目を丸くした。
「なんだって、終わった?オレは?」
「…寝てた。」達也が、答えた。「急に倒れたけど、見てみたら寝てるだけで。アナウンスが終わったら目が開いて。」
仁は、びっくりした顔をした。
「え、寝てたって?今?」と、怪訝な顔をした。「…手首がチクとしたと思った瞬間、今だったけど。」
やっぱり一瞬なのだ。
巽は、息をついた。
「とにかく、言われた通りにしよう。下に降りて、待っていよう。全員戻って来るのではないか?仁がこの様子だし。」
皆は戸惑いながらも頷いて、そうしてまだわけがわからない顔の仁を連れて、一階のリビングへと向かったのだった。




