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朝の会議には、ポツポツとしか来ていなかった。
巽も遅れて来て心ここにあらずだし、廉も立ち話で発言しただけで、来ても黙って座っているだけだ。
やっと皆が集まったのは、もう9時なろうかという時間だった。
利喜が、言った。
「疲れて来て考えるのも嫌かもしれないが、今日は三択だ。」利喜も、疲れた顔で続けた。「狐だ。それを間違えたら村勝ちが失くなる可能性があるから、しっかり考えないと。仁さん、何かありますか?」
仁は、やる気がなさそうな顔で言った。
「…どうせ、オレか翔馬なんだろう?」と、皆を見回した。「巽さんが真なら、オレと翔馬が狼、健斗が真なら巽さんは狼か背徳者で狐がもう居ない可能性まであるが、オレの狐の可能性が高いと言うのだろう。背徳者だったら、廉は白だから圭太のグレーの翔馬しか黒はあり得ない。狼だったら、オレと翔馬で囲っているだろうから運ゲー。終わらなければ巽さんを吊って終わり。後は村の選択だ。オレからは翔馬に入れるしかないからな。考えるのことなどないんだよ。」
確かにそうなのかもしれない。
だが、意見は欲しかった。
「仁さん自身は内訳をどう考えているんですか?」
仁は、答えた。
「オレ目線ではやはり、オレは黒囲いされてない村人なので、巽さんは偽。背徳者か狼だ。翼があれだけ執拗に巽さんを攻撃したのも、今となっては不自然なので、巽さんと狼狼だった可能性もあると思っている。その場合でも翔馬は狐の可能性があるので、吊っておきたいと思う。」
仁目線ではそうなるか。
次に、利喜は翔馬を見た。
「翔馬は?さっきは視点破綻してたけど、落ち着いたか?」
翔馬は、頷いた。
「あの時は混乱して。まさか偽の巽さんに整理してもらって分かるとは思わなかった。そう、オレ目線でも巽さんは偽で、健斗が真なので廉は白だ。だから、オレから見たら巽さんが狼で、美夢ちゃんが背徳者、朱理ちゃんが狼で仁さんが狐だろうと思っている。最後、朱理ちゃんがやたら落ち着いてたのも気になるんだよね。巽さんを信じろって、説得されたからじゃないかなって思った。まさか狼が二人も占い師に出てるなんて誰も思わないじゃないか。翼さんのあの不自然な巽さん叩きも気になるだろ?あたかも敵陣営ですって村に印象付ける感じだ。仁さんを潜伏狐だって分かって黒打ったけど、吊れてない感じなんじゃないかなと思う。オレに黒を打ったのは、村人を悩ませるためなんじゃないかって、そうしないとこれまでの辻褄が合わないしね。」
翔馬目線は、そうなるのだ。
それぞれの考えがあって、村人はため息をついた。
とはいえ、巽が狼ならば最後に吊れば良いし、背徳者ならば狐を吊った時点で消えるので今夜は吊る必要はなかった。
それに、偽ばかりを追っているが、まだ真の可能性は残っているのだ。
達也は、それを捨てていなかった。
だが、廉が言った。
「みんな、そこまで巽さんが偽だと思ってるんなら、どうして巽さんを吊らないの?」廉は、不満そうに言った。「僕、気分悪いんだけど。狐だとか言われてさ。どうせ背徳者で仁さんを囲ってるか、翔馬を囲ってるかのどっちかなんでしょ?そもそも翔馬目線ってめっちゃ無理があるんだよ。真真狼狼なんて、ほんとにあると思う?妖狐陣営が完全潜伏って事なんでしょ?せめて背徳者が出てどこかで囲うのがセオリーじゃないの?僕は、朱理さんが狼で仁さんと翔馬のどっちかが狐、どっちかが狼だと思ってる。だから、間違って狼を吊ってしまったらマズいと思う。背徳者だって人外なんだから、ここは安定で巽さんを吊っておくべきなんじゃないか?いくら狐が居たら一緒に消えるからって、狼を吊り切ってしまったら負けなんだからね。巽さんは、それを狙ってるんじゃない?」
それもあった。
皆は、顔をしかめた。
しかし達也は言った。
「何度も言うけど、まだ巽さん真だってあるんだぞ?巽さんを吊るなら、明日廉で呪殺が出ないのを見てからでも遅くはない。みんな巽さんを疑うけど、人外に上手く利用されてるんじゃないのか?巽さんが真だったら、完全に狼は詰みだし狐だって呪殺されて村勝ち確定なんだぞ。それじゃ出来すぎてるから、おかしいって?オレ、初日から見てるけど、巽さんの発言でおかしい所なんかなかったのに。」
廉が、言った。
「なんだよ、達也だって疑ってたのに。今になってそんなこと言うの?圭太の白でなかったら疑うところだよ。」
達也は、反論した。
「巽さんが偽でも狼か背徳者でしかない。だからこそ、今夜は翔馬と仁さんから選ぶべきなんだ。より狐らしいところを吊るんだ。そして、廉を占ってもらう。今日巽さんを吊ってしまったら、廉が狐だった時に勝てなくなる。吊りが最後になって、気が付いたら終わってたってことになるからな。オレは、廉が巽さんを吊り推すのを見て占われたくないからじゃないかって今、思った。だから、今夜は翔馬か仁さんだ!」
達也の強い様子に、皆が顔を見合わせる。
『投票10分前です。』
聞きなれた声が、シンとしたリビングに響き渡った。
達也は、もしも巽が偽だった時のために、必死で考えた。
…投票は…翼さんは何と言っていたっけ?何かヒントがあるはずだ!
達也は、腕時計を睨んだ。
4(利喜)→5
5(仁)→16
7(達也)→16
8(庄治)→16
10(哲也)→16
14(巽)→5
16(翔馬)→5
17(早紀)→16
19(廉)→5
20(美加)→16
『No.16が追放されます。』
「なんでオレ?!」
翔馬が叫ぶ。
達也が、言った。
「…翼さんが黒打ってたのを思い出したから。どっちかが狐だったら、翔馬の方かって。」
他の村人が、驚いた顔をする。
翔馬は、言った。
「…そうか…なら、仕方な…、」
翔馬は、動きを止めた。
『No.16は追放されました。夜時間に備えてください。』
仁は、ため息をついて立ち上がった。
「…忘れてた。そうだな、翼が黒を打ってた。なのに巽さんは翔馬に黒だって?矛盾してないか。」
巽は、答えた。
「私にそちらの事情などわからないが、翼は黒囲いしていたのだろう。私に黒囲い黒囲い言うのは、狼がそうしていたからなのではないのかね?とはいえ、私にとりどちらを吊っても同じ。なぜなら、両方共狼だからだ。私目線、美夢さん背徳者で健斗が狐でもう狐は居ないか、廉が狐かのどちらかだ。今夜それが分かる。まあ、私を吊りたがったので廉だろうなとやはり思っているよ。」
相変わらずの自信。
だが、巽が偽だとしても今9人、恐らく明日8人、あと3縄もあるのだ。
仮に護衛成功が出たら、偶数進行の今縄が増える。
明日次第だったが、恐らく今夜は哲也が噛まれるのだろう。
達也は哲也、利喜と仁、庄治と共に、重い翔馬を運んで行ったのだった。
次の日の朝、七日目だった。
達也が重苦しい気持ちで、パンツが乾いているのかどうかも確かめるのを忘れて、廊下へと出た。
この階に残っているのは、もう5人だった。
哲也が襲撃されたのではないかと思ったが、哲也は無事だった。
達也は驚いた顔をして哲也に駆け寄った。
「哲也!てっきり昨日の夜は襲撃されたと思ってた。」
哲也は、頷いた。
「オレも。目が覚めてびっくりした。オレ、生きてるって。」
仁が、言った。
「とにかく三階へ行こう。誰が犠牲になってるのか気になる。」
達也は頷いて、他の人達と共に三階へと駆け上がって行った。




