35
結局、その重い空気は替わることなく、夜の議論も占い師の占い指定だけに終始して、裕太が吊られた。
満場一致で、裕太自身も自分に入れて、もう諦めたといった感じだったが、最後に翼に、狼を信じている、とだけ言い残して事切れた。
こんなのおかしいと言っていた朱理も、結局裕太に入れていたのでもう言い訳はできない。
やはり自分は、死にたくないのだ。
達也は、そこに綺麗事だけでは生き残れない、という巽の言葉の重さを知った。
誰もがもう、作業のように裕太を部屋へと運び込み、その日は終わった。
廉が、部屋に戻る前に言った。
「…かおるちゃんと泰裕だけど。」皆が、暗い目で廉を見る。廉は続けた。「やっぱり変わらなかったよ。死んでるんだけど死んでない。こんなに時間が経ってるのにそのまま。巽さんも一緒に見て来たから間違いないよ。」
巽は、頷いた。
「その通りだ。つまり、きちんと計器に繋いだらもしかしたら生きているのかもしれない。見た目には死んでいるだけで。とりあえず、それだけを君達に知らせておこう。」
朝から、かなりの時間が経過している。
なのに、あの二人は放置されたままでも変わらないのだ。
少しの希望が、皆の心に灯ったのか、目に力が戻るのが感じられた。
「…勝つしかない。」仁が、言った。「勝ってから結果が分かる。きっと生き返るのだ。というか、そもそも死んでないのかもしれないわけだろう。そう見えるだけで。」
廉は、頷いた。
「そうだね。ドアが開かないから他の人達はわからないけど、きっと初日の美夢さんも昨日の颯太も、同じじゃないかな。だから、やるしかないと僕も思う。」
利喜が、言った。
「じゃあ、今夜は巽さんは健斗、健斗は巽さんを占って、圭太は美加ちゃんか早紀ちゃん?」
圭太は、頷いた。
「グレーの潜伏位置を今夜は占っておこうと思ってて。女子はどうしても口数が少なくなるから、後々怖いだろ?白なら吊らずに済むから、それでもいいかって。早紀ちゃんは巽さんが占ってるから、どっちかというと美加ちゃんを占うかもだけど、まだわからない。」
利喜は、頷いた。
「任せるよ。とりあえず健斗か巽さんのうち、一人は真占い師だから、間違いなく狐が居たら呪殺できるはずだ。明日結果が出る。」
巽は、言った。
「…背徳者だったら結局わからないがね。そうなると、囲われているのだろうな。圭太も、私が狐陣営だと思うのなら、早紀さんを占っても良いかもしれないぞ?」
それを言うのか。
達也は、驚いて巽を見た。
そもそも巽の占い先は、達也、朱理、早紀で達也は確白、囲われているのなら朱理か早紀だ。
つまり、早紀は狐ではないのか…?
圭太は、答えた。
「…オレが死んでも、まだもう一人居るから。」圭太は、続けた。「健斗か巽さん。もう一人の呪殺はもう一人の真占い師に任せる。それで真を証明できるしね。」
巽は頷いたが、何を思ったのかわからない。
その夜は、哲也も利喜も達也に話に来ることもなく、達也は孤独に夜時間を迎えたのだった。
次の日の朝は、ハッキリと目が覚めた状態で達也は廊下へ飛び出した。
圭太は、生き残ったのだろうか。
それが気になって仕方がなかったのだ。
達也の心配を余所に、2の部屋の扉は開いて、圭太が出て来た。
「圭太!」達也は叫んだ。「良かった、生きてた!」
圭太は、苦笑した。
「昨日は残るよ、だって狩人が居るし。オレ真確してるからね。狼も縄が増えるのいやだから、噛んで来ないだろ。」
頷いて廊下を見ると、五人が出て来ているのが見えた。
この階で生き残っていたのは昨夜の時点で七人だったので、全員居ることになる。
「…全員居る。」仁が、言った。「三階か?」
仁は、階段を上がり始めた。
達也と圭太も、急いでそれを追って階段を駆け上がって行った。
三階では、バラバラに皆が立っていたが、脇の15の部屋の方を皆が向いていた。
扉が開いていて、最後尾に立っていた、美加が振り返って言った。
「…健斗さんなの。」
健斗?!
達也は、驚いて言った。
「え、じゃあ昨夜呪殺?でも…三階には犠牲はなかったんだよ。」
美加が、驚いた顔をした。
「え、じゃあ襲撃なの?」
狩人の護衛は、圭太に入っていたはずだ。
圭太が襲撃されていて、護衛成功して巽が呪殺、ということも考えられた。
だが、狼が噛めないのを分かっていて圭太を噛むだろうか。
部屋の中から、巽と廉が出て来た。
「…死んでいる。私が呪殺したのか、それとも狼が噛んだのかわからないが、とにかく健斗が死んだ。私は健斗を占って健斗は白だった。圭太は?」
「美加ちゃん白。」圭太は言ってから、続けた。「これって呪殺?襲撃?狼目線じゃ必ず狐と真が居たから、両方殺そうと思って真だと主張してた健斗を噛んだってことになるよな。でも、健斗が真なら巽さんは生きてるし、人外だとしても背徳者だ。裕太が狂人COしてるから。」
拓也が言った。
「分かってると思うけど裕太白。でも、巽さんが背徳者だったら昨日みたいな発言すると思うか?囲ってないから?…でも、まだグレーに仁さんと哲也が居るし、昨日占われてもおかしくなかったのに、一人も囲ってないなんて考えられるか?」
巽が、言った。
「他に犠牲は?」
仁が、首を振った。
「なかった。だから皆混乱しているのだ。」
巽は、頷いた。
「だったら、呪殺ではない。」え、と皆が目を丸くすると、巽はうんざりしたような顔をした。「まず、美夢さんが背徳者でなかった限り、背徳者はまだ残っている。健斗が狐ならば、呪殺された時点で背徳者も死んでいるはずだ。たった一人の犠牲だったということは、これは狼の襲撃だ。私目線、背徳者だった健斗が死んだことになる。」
翼が、フフンと鼻で笑った。
「上手いこと言うな。てっきり巽さんも共に呪殺されると思ったのに、簡単には死なないか。巽さんは背徳者だったんだろう。ということは、囲われているんじゃないのか。早紀さんか、朱理さんの中に。」
哲也が、翼を睨んだ。
「…健斗を襲撃したのか。」
翼は、哲也を見た。
「こっちも仲間の命が懸かってるんでね。真占い師には消えてもらわないとな。」
利喜が、言った。
「そこまで健斗を真だと思う理由は?初日の襲撃は、狩人の護衛が入っていたしどちらにしろ入らなかったんだぞ。真が巽さんである、可能性も狼目線あるはずだろう。」
翼は、言った。
「別に。これ以上の情報は出さない。オレはあくまでも、狐の処理のために手を貸すだけだ。」
翼は敵。
皆が、翼を睨みつけたが、巽が言った。
「ああ、別に情報など要らない。」皆が、え、と巽を見ると、巽は言った。「今露出している翼を合わせて、2狼1狂人、1狐1背徳者が私目線では消えた。私のグレーは後仁、哲也、翔馬、廉の4人。圭太が占った先は白だから占わなくていいしね。その中に、残りの人外が居るのだ。つまり、2狼1狐が、4人の中に居るのだ。もし狩人がこの中に居たらもっと楽になる。残りは全て人外だからだ。圭太目線でもかなりクリアだ。朱理さん、仁、哲也、翔馬、早紀さん、廉の中に多くて4人。つまり、私目線ではもう背徳者は消えているが、圭太目線では必ずしもそうではない、まだ私が背徳者の可能性があるわけだろう。私を含めて7人の中に最大4人外。今夜の占いで結構な確率で人外を引き当てることができるだろう。今日は、翼を飼うならグレーから吊ろう。圭太の占い幅を狭めるのだ。初日の美夢さんから今朝の健斗まで6人が居なくなって今14人、吊り縄は6。圭太目線が村目線だから、人外が4人だから余裕だろう?」
グレー吊り。
確かに、言われてみたら人外は追い詰められて来ている。
圭太の真が確定しているので、もう一人の人外が分からなくても詰めて行けるのだ。
だが、健斗に呪殺されなかった巽が背徳者だとしたら、狐本体が吊られたら共に自滅の道を辿る事になる上、吊られなくても圭太の占い先に入る可能性がある。
それなのに、グレー吊りを推すのか。
達也には分からなかったが、皆も同じようで、顔を見合わせるしかなかった。




