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健斗は、言った。
「…オレは、自分が呪殺を出したかった。泰裕がなんとなく潜伏しているように見えたから、できたら自分が占いたかったんだ。オレ目線じゃ、圭太か巽さん、どっちが真なのか分かってなかったからね。人外に占わせて囲わせたくなかった。結果、圭太が相方だったから良かったけど、もし狐だったら囲われてたところだよ。初日から占いたいとか言ってたし、囲うつもりでいるのかなって、内心勘繰ってたから。圭太が真だった以上、翼さんも偽だし巽さんだってオレ目線じゃ偽確定だ。だから、翼さんが黒でも巽さんが狐だって発言は、本当のことだと思う。」
哲也が、ため息をついた。
「…で、翼さん。理由は?巽さんが狐だっていう。やっぱり初日に噛めなかったからか?」
翼は、頷いた。
「護衛は霊媒に入っていると思っていたし、次の日はそう確信した。そう思って見ていると、動きが狐な気がして来たんだ。詳しいことは言わない。お前達にあまり情報を渡したくないからな。信じる信じないは、お前達次第だ。健斗を疑うなら疑えばいいし、圭太に占わせてもいいんじゃないか?」
こんなに自分が疑われているのに、巽は何も言わない。
ただ、興味深そうに聞いているだけだ。
利喜が、言った。
「ここまで聞いて、巽さんは何か反論がありますか?」
巽は、首を振った。
「いいや。私は真占い師だし、呪殺が出た以上圭太が真の相方だと分かった。なので、村が私を信じられないのなら私を圭太に占わせて、その間にまた各占い師にグレーを占わせたらどうかね?村は、私を狐、達也を背徳者だと思っているのだろう。私を占って、狐であったならその夜達也諸とも消える。健斗にはグレーを占わせて、色を出させて行けばいい。私もグレーを引き続き占う。結果は落とせる。何故なら私は呪殺などされないからだ。私目線では、健斗が狐陣営だ。背徳者か狐本体かは、私にはわからない。グレーで呪殺が出た時分かるだろう。背徳者なら健斗も消える。」
どこまでも自信たっぷりだ。
拓也は、言った。
「…巽さんのことは本当にわからないんだよな。」拓也は、顔をしかめて言った。「真のようにも見えるけど、翼さんは狼COしてまで告発する何かがあったんだろ?占う指定も、結局自分と背徳者だけ生き残れば、いや最悪一人でも勝てるって自負してる気がする。自信満々だし…頭がめっちゃ良いって聞いてるし。」
達也は、息をついた。
そう、誘導されているように感じてしまって、信じるのが怖い。
だが、泰裕が呪殺された今、巽が狐ならたった一人なのだ。
それで、圭太に占わせようとするだろうか。
皆は達也を背徳者ではないかと疑い始めているので、しかし達也はそれを口にできなかった。
廉が、言った。
「…で、とりあえず報告しとくね。」なんだろうと皆が廉を見ると、廉は続けた。「泰裕のことだよ。みんな忘れて部屋に戻ったじゃないか。でも、僕と巽さんで見て来たけど、泰裕もかおるちゃんと同じだったよ。死んでるけど、死後の変化がなかった。ちなみに泰裕は、何も口に入れてなかったし、かおるちゃんと違うのは、涙の跡があったことかな。死ぬ前に、めっちゃ泣いてたみたい。圭太に占われるって、怖かったのかなって同情しちゃった。」
泰裕は、やっぱり狐だ。
翼がCOした以上、疑っていたわけではないが、呪殺を恐れて涙に暮れていたのだろう。
そう思うと、何やらしんみりとした。
村人が勝利した後、負けた狐と狼は、どうなるのだろうか。
達也は、思った。
自分達は村人だった。だから勝とうと正義のように頑張っているが、人外に当たった人も同じくたまたま人外だっただけで、生きて帰りたいはずなのだ。
達也は、またため息をついたのだった。
利喜が、言った。
「とりあえず、一昨日美夢ちゃん、昨日颯太、そして今朝かおるちゃんと泰裕で今残ってるのは16人だ。あと吊り縄は7縄、少なくとも狼4、狂人1、狐2人、背徳者1の8人外の内、狼1と狐1は居なくなってあと最大6人外だと分かっている。圭太は真占い師だが、まだ健斗と巽さんがわからない。ここは、健斗と巽さん、両方がお互いを占って呪殺を目指して真を確定させるために指定して、圭太にはグレーに色をつけてもらおう。で、翼さんが翔馬に黒を打ってるが、ここはどうする?今夜は裕太、翼さん、翔馬のうち、誰かを追放する必要がある。」
仁が、言った。
「それは、翼が黒を打ったのは狼COの前だし、翔馬は入れる必要はないだろう。翼か裕太のどちらかにするのが良いと思うがね。」
哲也が、言った。
「でも、狼COしたのは間違いなく夜に話し合っていたからだと思うし、翔馬が黒囲いされたとしてもおかしくはないから、皆の判断次第じゃないかな。それとも、今夜は圭太に翔馬を占わせるか?それで色が確定して後々悩まなくて済むし。」
圭太が、言った。
「オレとしては翼さんが狼だったんだから、そこを飼っている間に他を占って黒を探して潰して行きたい。翔馬は黒から遠い位置だと思うから、グレーから選びたいんだけどな。」
利喜は、言った。
「まあ、それは圭太に任せる。真占い師が確定した以上、圭太に残された時間は少ない。狩人は連続護衛ができないし、腕の見せ所だが…」と、皆を見回した。「オレは真猫又だから、狩人はオレにも正体を明かして欲しい。いつでも良いから。一緒に護衛先を考えよう。今また偶数進行になったから、一グッジョブで縄が増えるしな。それで行こう。」
誰も頷かないが、それは正しい判断だった。
ここで、狼に狩人を知られるわけには行かない。
翔馬が、言った。
「…人外が確定してるのは翼さんと裕太だよな?でも、美夢さんが狐でなかった限り、まだ一狐残ってる。ここは狼確定の翼さんは残して、裕太吊りかな。」
利喜は、ため息をついた。
「そうだな。狐が全員居なくなると必ず背徳者も居なくなるはずだが、まだそんな動きはない。美夢さんは恐らく素村だったから、狼は飼っておかないといけない。裕太は、翼さんが諸とも破綻して吊られるのが分かっていて狼COしてるのを見ても、恐らく狂人だが、ここは安定で裕太が妥当だろうとオレも思う。」
裕太は、ブルブルと震えながらそれを聞いていたが、言った。
「…何でみんなそんなに冷静なんだよ?!」いきなり、裕太は立ち上がって叫んだ。「なんでだよ!みんなでオレを殺す話をしてるのに、落ち着いて話して!確かにオレは人外だったけど、たまたま引いただけだ!村人の奴らは、オレ達を殺そうとしてるんだ!自分だけ生き残ったら良いのか?!オレの命なんか、どうでも良いのか?!翼さんも、なんでオレを道連れにしようとしたんだよ!オレは間違えなかったのに!だったら今日、オレは黒を打った!だって拓也が自信満々で、黒だったんだろうって気取ってたから!酷いよ、オレは死にたくない!」
裕太からみたらそうだろうな。
達也は、気の毒になりながらそれを聞いていた。
皆、神妙な顔をしていて、中には苦しげな顔をしている女子もいて、空気が一気に緊張する。
翼が、言った。
「すまない、裕太。オレらから見てもまだ、狂人がどこに居るのか分からなかったし、先に知らせることもできなかったんだ。真霊媒が噛めたかどうかもわからない状況で、巽さんの狐だけ分かっていたしな。だったらもう、狐を糾弾してオレが犠牲になることで、残った狼に頑張ってもらうことを考えた。どうせオレも吊られる。勝てば良いんだ。仲間を信じろ。」
裕太は、涙を流した。
それを見て、朱理が言った。
「…そうよ、こんなのおかしい。ゲーム放棄したら殺されるから、必死に考えないでいたけど、人外の人だって好きでそれを引いたわけじゃないのに。私達は毎日人を殺してるのよ?強制されていてもそれは変わらないわ!毎日誰を殺すか冷静に話し合って…おかしいわよ!」
美加も、早紀も涙を浮かべる。
巽が、言った。
「…では、ここに居る全員で心中するかね?」え、と皆が巽を見た。巽は呆れたように椅子にそっくり返って続けた。「死にたくないのは誰も同じ。今訴えていた裕太も、ずっと誰かに投票し、嘘の結果を落として村を騙し、生き残ろうとしていた。美夢さんはそれで殺された。かおるさんは襲撃された。二人共村人だった。人外はこの二人を殺している。それなのに、自分の番になったら否と?結局、初日だけが誰もがゲームに参加せずに死ぬ事を選べたのだ。今となっては、全員共犯だ。今さら何を言っても、これは覆せない。異論があるなら今夜は投票せずにいるが良い。そうしたら、もうこれ以上関わらずに死ねるぞ?助かる道が、それしかないから皆、この残虐なゲームに参加しているのだ。お互い様だ。綺麗事だけで、生き残れるのならそうしている。」
共犯…。
達也は、胸がチクりと痛んだ。
共犯なのだ。
殺されると分かっていて投票している時点で、皆保身に走っている共犯なのだ。
重苦しい空気の中で、朝の議論はそれ以上続けられなかった。




