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颯太は、時間が迫って来ても来なかった。
夕飯の前に議論してしまったせいで、全員が一気にキッチンになだれ込むことになり、二つある電子レンジは大忙しで混雑して皆の食事の時間が押して、19時には全員が集まれない状態になってしまったのだが、遅れてバラバラと急いでリビングの椅子へと座って行く中でも、颯太だけは現れなかったのだ。
仁が、呼んで来ると言って上がって行ったのだが、まだ戻って来ていない。
達也は、ハラハラしながらリビングの扉を見つめて、言った。
「…ヤバいんじゃないか?」と、立ち上がった。「ちょっとオレも言って説得して来るかな。」
巽が、そんな達也に言った。
「仮にこちらへ来なくても、全員が投票したら追放されて結局死ぬ事になるから、万が一にも生き残りたいなら戻って来た方が良いと言っておいてくれ。そもそも、投票しなければ結局ルール違反で追放だぞと。自分で自分の首を絞めているのだ。」
確かにそうなんだけど。
達也は、言い方もあるだろうと思ったが、仕方なく頷いて、颯太の6号室へと向かった。
二階の部屋へと向かうと、6号室の扉は少し開いていた。
達也は、その扉へと歩み寄って、中へと声を掛けた。
「颯太?仁さん?もうすぐ時間だぞ。弁明だけでもしないと、もしかしたら巽さんの意見だけだし、みんなの意見は利喜かもしれないだろ?来なかったら利喜の話しか聞けないからみんなが颯太に入れる事になるぞ。」
颯太は、言った。
「…どうせ、みんな死ぬんだ。もういいよ、オレの気持ちは誰にも分からない。」
仁が、それを聞いてため息をついた。
「それでも、このままじゃ自分が偽だと言ってるようなものだぞ。真なら、真らしくしないと。勝ったら戻って来られるんだ。それを信じようって話したじゃないか。」
颯太は、仁を見上げた。
「…だけど…。」
仁は、じっと颯太を見つめている。
颯太は、目を潤ませたが、下を向いた。
「…分かったよ。行くよ。村のためにオレが白だって証明しなきゃならないんだな。でないと、明日霊媒の偽の色結果が通ってしまうかもしれないってことだ。」
達也は、頷いた。
「そうだよ。さあ、行こう。颯太の気持ちは無駄にしないようにするから。それに…巽さんは真っぽい発言するけど、ちょっとみんな疑ってるところがあるんだよね。めっちゃ頭が良いって聞いて。もしかしたらって…騙されるんじゃないかって。だから、全員が颯太にって思ってるわけじゃないと思う。結構ばらけてると思うんだ。ここで、颯太がしっかりしないと、真なら吊られ損になるぞ?」
颯太は、驚いた顔をした。
「え、仁さんもそれは言ってたけど、そんなにたくさんが巽さんを偽かもって思ってるのか?」
達也は、首を振った。
「違うんだよ。偽かもっていうか、真っぽいんだけど、騙されてるかもしれない、って感じ。だから、誘導されてるように感じるんだ。それが強い人ほど、多分颯太に入れないんじゃないかな。ただ、猫又からっていうのはみんな賛成みたいだったし、多分今日は、廉じゃなくて対抗は利喜だと思うよ。颯太が来ないから議論が進まないし、みんなちょっとご飯食べるの遅くなって今やっと揃ったところだから、今なら間に合うよ。」
颯太は、少し目に力が沸いて来て、頷いた。
「分かった。別に死んだとしても良いし、やるだけやるよ。」
達也は、頷いた。
強い意見の役職に疑われて、ほぼ自分が吊られると思われる真役職の気持ちはどうなんだろう。
それとも、颯太は狼で、もう負けだと絶望してしまっていたのだろうか。
分からなかったが、こうして個人的に話してしまうと、投票するのが気が退けてしまう自分が居て、達也は困っていたのだった。
颯太が仁と達也と共にリビングへと入って行くと、皆がホッとした顔をした。
これで全員が揃った状態で、颯太は言った。
「…ごめん。真なのに人外に黒を打たれたからって理不尽だって、もう自暴自棄になってた。でも、明日からのためにもオレは最後にしっかり話しておかなきゃならないな。オレが吊られることで犠牲になる誰かには悪いが、オレの真証明のためだ。オレと一緒に死んでくれと言っておくよ。とにかく、結局今夜は猫又のランになったんだろ?」
哲也が、頷いた。
「そうなんだ。でも、廉が黒だと思うなら廉でも良いって感じで。猫又のランにしたい人は猫又から、黒先からと思う人は黒先からってことになってる。他の二人からはもう話は聞いたんだ。もう時間がない。颯太は何か言いたいことはあるか?」
颯太は、頷いた。
それと同時に、パッとモニターが点灯した。
『投票10分前です。』
…話せて10分。
達也は、他人事なのに焦って来た。
だが、颯太は覚悟を決めたのか、慌てることなく言った。
「もう、こうなったら足掻くのは止めるよ。でも、本当に巽さんは真かな?」と、巽を見た。「自分が占ったわけでもないのに、オレに黒が出ているからって猫又のオレを吊り推すのを見て、そう思ったよ。なんか、良いように転がされてるような。確かに、猫又精査をしなきゃならなくなるのは面倒だから、猫又から吊るのは分かる。でも、しっかり発言を聞いてどっちか決めて欲しかったな。黒が出てるからだなんて、あんまりにも安易過ぎて…そもそも、本当に死ぬのに。道連れになる誰かのことも考えてあげてない。だから、そういうところがおかしいと思ったかな。真占い師の一人とか、霊媒とか狩人が連れてかれたら最悪だ。でも、村がオレって言うなら仕方ない。道連れの誰かも一緒に死んでくれるんだと思って、溜飲が下げるよ。必ず勝って、オレが復活するのを願っててくれ。」
もう、吊られるつもりでいるようだ。
達也は、険しい顔でそれを聞いた。
落ち着いた様子で言われると、真に見えて来るから不思議だ。
村の人達も、躊躇うような顔をした。
何しろ、颯太が真だったら、もしかしたら自分が道連れになるかもしれないのだ。
『投票5分前です。』
モニターが告げる。
時間がなくなって来る。
「…オレが真だ。だから颯太を吊っても誰も道連れにはならないよ。」
利喜が言う。
恐らく、皆の空気を察してつい、口を出したのだろう。
颯太は、言った。
「お前が道連れならいいな?オレはそう思ってる。でも、オレの真が確定して明日はお前が吊られるぞ。怯える時間が長くなるだけ、お前には同情するよ。」
どっちかが嘘を言っている。
だが、こうなって来るとどちらが偽なのか、分からなくなっていた。
だが、利喜はきちんとノートに書いて、考察していた。
その時は、話を聞いて確かに利喜が真だと思った。
だが、颯太の必死さも、真なのではないかと思わせるなにかがあるのだ。
もう諦めて、こうして落ち着いて話されると、余計に感情的に揺れた。
それは、他の皆もそうのようだった。
何より、猫又に手を掛けて間違えた時には、誰が道連れになるのかわからないのだ。
それが人外なら良いが、そう上手くいくとは思えなかった。
それに、投票で道連れが出ると、その色が分からなくなる。
人外だったのか狐だったのか、それとも村人だったのか狩人だったのか、全く分からなくなるのだ。
…間違えられない。
達也は、思った。
どっちに入れたら良い?どっちに…。
巽は、颯太だと言う。
達也は、迫る投票時間に額から汗が流れて来るのがわかった。
『投票してください。』
声が告げる。
全員が、一斉に腕時計に向き合った。




