28
そんなこんなで、達也は圭太の部屋で過ごした。
部屋から枕と布団を持って来ていたので、そこでゴロゴロしながらメモを手に、圭太と話をしながら時間を過ごして夕方まで居た。
だが、よく考えたら、他の人の話も聞かなければならない。
籠っていたら聞けないのだ。
なので、夕方5時を過ぎた頃には、リビングへと降りて行って、そこで誰か、居たら話をしようと思った。
リビングでは、相変わらず窓際の定位置に巽が座っていて、起きているのか寝ているのかわからない状態で、目の辺りにタオルを掛けてじっとしていた。
他には誰も居なかったが、もしかしたらキッチンの方には居るかもしれない。
なので、圭太と達也は、巽の邪魔をしないように気を遣いながら、キッチンへと入った。
すると、そこには仁、拓也、裕太、美加、早紀、廉が居た。
「…ここに居たのか。」達也は言った。「みんなどんな考えなのかなって圭太と上で話しててさ。巽さんはずっとあそこに居たのか?」
美加が、首を振った。
「わからない。私達が降りて来た時にはずっとああして椅子にもたれかかってて。寝てるのかどうかもわからないし、邪魔したら悪いなって。」
廉が、言った。
「あの人はいつもそうなんだ。何か考える時は邪魔されたくないから人を寄せ付けないんだよね。話したい時は自分から来るから、放って置いた方がいいよ。あの人、とんでもなく頭がいいんだー。僕、あんなに敵わないって思った人はこれまで居なかったぐらい。」
達也は、そういえば同じ職場と言ってたな、と、廉を見た。
「やっぱりあの人、頭が良いんだね。医者ってだけでオレ達とは違う人種だと思ってはいたけど。」
廉は、首を振った。
「一緒にしちゃいけないよ。あの人って、同じ研究医の中でも超有名な人だからね。子供の時から長く海外であちこち勉強してきて、最後に戻って来たんだって。」
圭太が、言った。
「じゃあ、英語もペラペラなんだろうなあ。廉もだろうけど。」
廉は、言った。
「僕は英語が母国語みたいなもんだからね。でも、僕は良いとこフランス語、イタリア語、ドイツ語、日本語ぐらいしかやって来なかったけどさ、あの人はマルチリンガルなんだ。まだ話せない言語を聞いたことないね。研究所にはたくさんの国の人達が居るけど、その人達の軽口だって聞き逃さないもんね。」
マジか。
というか廉も凄いな。
仁が、言った。
「でも、ならどうして部屋に入らないのかな?リビングは人が出入りするのに。」
廉は、ニタリと笑った。
「だって、あの人ああして居ても回りの会話は全部聞いてるもの。」え、と皆が驚いた顔をしたが、廉は続けた。「考え事してても、頭を何通りにも分けて考えられるから、外の会話も全部理解して聞いてる。寝てても側で話されたら頭に入って来てゆっくりできないって言ってたぐらいだもん。だから、誰かが離れて話してても、それ聞いてるよ。キッチンの中の会話までは聴こえてないと思うけどね。」
あの人、人間なんだろうか。
達也は思ったが、そう聞くと自分達など簡単に騙されてしまうような気がして来た。
仁もそう思ったのか、険しい顔をした。
「…ってことは、あんまり信用してもいけないな。もっともなことを言って、村を動かすなんてお手のものだろう。警戒した方がいいのかもしれない。これまで、真だろうと思って来たが。」
廉は、頷いた。
「僕もそれは思った。オレ目線じゃ翼さんは絶対偽だけど、他は全く分からないしね。巽さんの事は、だからどっちとも僕は言わないでしょ?あの人がめっちゃ頭が良いのを知ってるから、僕達の事なんか簡単に騙せるのを知ってるから。決定的な何かが無い限り、だから僕は真置きなんてしないよ?」
そこまで桁違いに頭が良いとは思わなかった。
達也と圭太は、顔を見合わせた。
すると、仁が深刻な顔で言った。
「…そうか。だからオレを遠ざけたのかもな。ずっと側に居たら、仲間と話もできないだろう。もっときちんと考えておくべきだった。」
達也は、ハッとした。
圭太が、言った。
「それ!オレ達もそれに気付いて、だからお互いに村人だって証明するために側に居るんだ。オレは達也のことを白だって知ってるけど、達也にはわからないから。」
そうだ。
達也は、そう思うと一気に巽が怪しく思えて来て、戸惑った。
廉が、笑いながら立ち上がった。
「まあ、真かもしれないけどね。フラットに見ておくほうがいいよ。じゃあ、僕はちょっと巽さんをつついて来るかな。」
廉は、そう言ってそこを出て行った。
美加と早紀が、廉が出て行ったのを見てどうする?と視線を交わしている。
どうやら、この二人は廉について回っているようだ。
怪しんでいると言うよりも、廉に別の意味で興味があるように見える。
二人は、結局立ち上がって、言った。
「私達も巽さんの話を聞いて来るわ。」
そうして、二人も出て行った。
それを見送って、拓也が言った。
「なんかさあ。廉と颯太のランなんだろ?なのにあの二人はもう、廉のことは怪しんでないようなこと、言ってたんだよね。オレはしっかり考えようと思って、だから廉の話を聞きに来てたのにさ。」
裕太が言う。
「廉はどうなんだろうな?翼さんと健斗、どっちが真だと思う?もしかしたら両方とも偽とか。」
拓也は、ため息をついた。
「霊媒だってわからないぐらいだぞ。オレは自分が真だと知ってるが、お前とかおるちゃん、どっちが相方なのか全くわからない。お前とはよく話すから、それは信じたいけどさ。こればっかりはなあ。どっちが真なんだろ。」
仁が、言った。
「…オレは、なんかこうして聞いてると翼のような気がしてきた。」
え、と皆が仁を見る。
「それはなんで?」
裕太が言う。
仁は答えた。
「オレ達は、今になってやっと巽さんを疑い始めたが、翼は今朝、もし巽さんが狐だったらとか、先に疑い始めていたんだ。翼目線じゃ、健斗が偽確定なんだから、圭太か巽さんが相方なわけだろう?オレなら安易にじゃあ巽さんが相方で、圭太が狐かとか思うところを、あいつはきちんと巽さんも疑ってた。今聞いてたら、達也と圭太はいつも一緒に居ると言ってるし、その行動は人外ならリスクが高い。だから圭太と翼が真なのかって、なんか今思ったんだけどな。」
達也は、目を丸くした。
「え、じゃあ廉が狼ってこと?」
仁は、頷いた。
「そう。颯太はわからないけどな。黒を囲ってたことになるから、恐らく健斗は狼だろう。となると、颯太は少なくとも黒ではなくて、真か狂信者か、狂人。」
拓也は、顔をしかめた。
「そうかなあ。廉と話したけど、颯太廉ほど考察伸びてなかったしなあ。オレには逆に健斗の方が真に見えてたけどなあ。」
達也は、考えた。
翼が真なら、圭太か巽、どちらかが偽になるのだが、今の話を聞いてしまうと、どうしても巽が偽に見えてしまう。
だが、今判断するのは難しかった。
「…それでも、オレは今夜は颯太に入れる。」え、と皆が驚いた顔をするのに、達也は続けた。「廉は黒だとしても飼えばいいけど、猫又COしてる颯太は対抗COが出てる限り絶対に精査しなきゃならなくなるんだ。完全グレーは6人でも、各占い師視点のグレーは9人も居るんだぞ。颯太を占ってる暇はない。護衛成功で縄に余裕があるんだから、ここは先に猫又の精査を始めておいた方が最終日困らなくて済む。最悪両方吊っても大丈夫なのは今だけだ。明日犠牲が出たら、利喜を吊って必ず1人外。猫又は吊れば真贋が付くんだから最悪霊媒噛みが起こっても平気だろう。だから、オレは今夜は廉と颯太の二択なら絶対颯太。利喜と颯太の二択だったらもうちょっと考えたけどな。」
仁が、黙り込む。
拓也が、言った。
「だな。仮に翼さんが真だとしても、狂信者か狂人の可能性もあるしな。廉は他の占い師に占わせることで残せる可能性もあるし。面倒な役職から行くのが確かに一番いい。オレもそうしよう。」
なにやら微妙な空気だったが、達也は自分は間違っていないと思っていた。
それで仮に颯太が偽で自分が道連れになっても、それはそれで仕方がないのだ。
村に勝ってもらって、確かに生き返ると信じるしかなかった。