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「…もう行かねば。」達也が答えに困っていると、巽は立ち上がった。「達也、もしかしたら狼は私を襲撃するかもしれない。狩人は、霊媒師を守るだろうと思われるし、最悪私は明日、居なくなる。そうしたら噛まれた私は真と判断され、君は確白扱いになるだろうし、村に意見が通り易くなる。しっかり自分で考えるのだ。」
達也は、え、と驚いた顔をした。
「占い師噛み?!でも、人外達は?!占い師に二人出てるのに!狼はそれでも噛むって言うんですか?!」
巽は、頷いた。
「噛む。初日の今だからこそ、真置きされそうな占い師は噛んで来る。狐だったら噛めないが、それが狐だと判断できるしな。三人残っても一人は真なので、絶対にまだローラーは掛からない。最悪、狂信者だったと言って真が二人残っていると主張し始めるかもしれない。そうなったら君は狐扱いだが、真占い師にでも君は呪殺できないので大丈夫だろう。狼にとって、二人も占い師が居るのは負担だからな。まあ、順当に霊媒噛みかもしれないが。なので、そんなに悩むことはないのだ。」
達也が、思った以上に悲壮な顔をしているので、巽はそう付け加えた。
達也は頷いたが、しかし巽が居なくなることで真が分かって、恋しく思ってももう遅いと思うと、何やら落ち着かなかったのだ。
しかし巽は、自分が襲撃されるかもと言いながらも、特に気にする様子もなく、さっさと達也の部屋を出て行ったのだった。
結局、巽が考えていることの一部を教えてもらっただけで、他は定かではないと言って、全部は分からなかった。
だが、あの様子だと全部教えてもらったとしても、達也の頭に入り切ったかどうかわからない。
そもそも、時間が無かった。
それに、巽自身も言っていたが、明日になれば状況も変わる。
あくまでも、今の時点ではそう見える、という事を、巽は教えてくれていたのだ。
…もし、圭太がオレに黒を打って来たら。
達也は、思った。
そうしたら、達也から見て間違いなく圭太は偽なのだが、それを信じてもらうためには、圭太と戦って最後には圭太を吊るしかない。
だが、そんな事が自分にできるだろうか。
何しろ、このゲームでは追放=死なのだ。
達也が苦悩しているうちに、またガツンという音が聴こえて来て、扉に閂が刺さったのが分かった。
…これで、朝まで何が外で起こっているのか分からない。
達也は、ため息をつくしかなかった。
次の日の朝は、達也はしっかり起きて、鍵が開くのを待っていた。
悩んでも仕方がないので、早く寝て、5時頃目が覚めたのだ。
それから、トイレに行って寝癖を直す時間まであった。
きちんと着替えて例によって洗ったパンツの乾き具合を見て、達也は扉の前で待機した。
すると、6時きっかりに、パシンと音がして鍵が開いたのが分かった。
途端に、達也は部谷を飛び出した。
「わ!」
目の前に、かおると圭太が見えて、思わず驚く。
二人も、達也が凄い勢いで出て来たので驚いた顔をしていた。
…圭太は生きてる。
達也は、廊下を見た。
「みんな無事か?!全員居る?!」
遠く、向こうの端の颯太が答えた。
「見たところみんな居るみたいだよ!」
達也は、数を数えた。
1…2…3…。
10人居る。
ということは、この階はみんな無事だ。
「みんな無事だ。」仁が言った。「上か?三階はどうだろう。」
「行こう!」
達也は、階段を駆け上がった。
巽の消息が気になって仕方がないのだ。
三階へと駆け上がると、三階でも全員が出て来て、集まっていた。
その中に、巽の顔を見つけた達也は、ホッとした顔をした。
「…良かった。巽さんは無事。他は?」
巽が答えた。
「誰も居なくなってはいないな。19の部屋は鍵が開いていないので美夢さんがどうなったのかわからないが、その他は居る。」
…どういうことだ。
狼の襲撃が通らなかったのか?
「…狐噛み…?」仁が言った。「それとも狩人が護衛に成功したのでは。襲撃しなかったことはないだろう、そうしたら全員無事ではないだろうから。ゲームが終わる。」
廉は、言った。
「だよね。狼は噛んでるけど、狐だったか護衛が成功したんだ。ということは、やっぱり霊媒噛みなのかな。狩人の護衛先が聞けないのは痛いよね。」
巽は、言った。
「昨日達也が言ったように猫又が出てくれたら分かる道筋もあるが、無理に出すのもな。霊媒を噛んでいたとして、狼は誰が狂人なのか分からず噛んでいるだろうし、それで真が確定するわけではない。ここはとりあえず、結果だけここで言うか。私は朱理さん白。」
朱理が、ホッとした顔をした。
溶けていないので、朱理は巽目線村人だ。
圭太が言った。
「オレは、達也白。無事だから狐でもない。」
翼が、言った。
「…オレは、廉が黒。廉は人狼だ。」
廉が、フンと息を吐いた。
「言うだろうと思った。それで僕目線分かりやすくなったよ。」
健斗が言う。
「オレは颯太黒!颯太は人狼だ!だから今夜は颯太吊りしかない!」
だろうな。
達也は、ため息をついた。
どちらにしろ、囲っていたと言いたいのだ。
仁が、言った。
「…じゃあ、霊媒か?結果を一斉に言うんだぞ?遅れたら偽物だと決める。せーのっ、」
「「「白!」」」
三人の声が叫ぶ。
ちょっとバラバラしたようには聴こえたが、完全に合わせるのは無理だろう。
つまり、美夢は村人か狐だったのだ。
達也的には、狐であって欲しかった。
少しは罪悪感が減るからだ。
哲也が、言った。
「…とにかく、黒が出てるし話し合いだな。昨日と同じ、8時に一階へ。そこで話し合おう。で、今日は昼間はみんなそれぞれ単独で話して、夕方また会議にしよう。みんな疲れてダレるから。それでどうだ?」
巽が、頷く。
「それでいいだろう。とりあえず、結果は出揃った。昨夜の犠牲者はナシ。それで議論を進めて行こう。8時にリビングで。解散。」
言った巽は、さっさと自分の部屋へと入って行った。
取り残された皆は、顔を見合わせたが、準備をしなければならないと我に返って、それぞれ動き出す。
そんな中でも、廉と健斗、そして翼と颯太の二組の空気は今、最悪だった。
「…達也。」後ろから声を掛けられて振り返ると、圭太だった。「行こう。準備しないと。」
達也は頷いた。
「そうだな。」と、階段を降りながら、言った。「圭太は、やっぱりオレを占ったのか。」
圭太は、バツが悪そうに下を向いた。
「…ごめん。信じたかったけど、どうしても確信が欲しかったんだよ。でも、これで達也と安心して話せる。達也から見たら、オレの事は分からないのかもしれないけど。」
達也は、首を振った。
「いいや。オレはどっちかって言うと、巽さんと圭太を信じてる感じかな。何しろ、健斗と翼さんがあまりにも真っ向から対立しててさあ。怖いっていうか。もちろん、これからしっかり考えるけど。オレに白打ってくれてるから、オレから見て心象がいいってのもあるけどな。」
圭太は、頷いた。
「そうだよな。でも、もし巽さんが偽だった時…あの二人の内の、どっちかが真占い師なわけじゃないか。しっかり見ておいた方がいいよ。」
達也は、圭太を見て苦笑した。
「まあ圭太が慎重になるのは分かる。そうだな、確かに巽さんが偽だったら恐ろしい事になるし、オレもしっかり聞いて考えるよ。それにしても、今日は誰で護衛成功が出たんだろうなあ。狼から見て、いくら適当でも真かもしれないって思った所を噛んだと思うんだよ。その一人が分かったら、ちょっとは進むような気もするんだけどね。」
圭太は、うーんと眉を寄せた。
「そうだよなあ。でも、狩人を出すわけにはいかないんだし。猫又が出てくれたらちょっとは議論も進みそうなんだけどな。」
達也は、頷いた。
「オレもそう思う。でも、猫又は出るつもりはないんだろう。こんな状況で…噛まれも吊られもしないんだから、それならオレなら村が許してるんだし真っ先に出るけどな。でも、確かに噛まれてくれたら狼が一人減るんだから助かるんだけどね。」
圭太は、頷く。
圭太も、恐らく同じ考えなのだろう。
二人は、追放のことは考えないように、話題に挙げないようにしながら、部屋へと帰ったのだった。




