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投票時間だ。

モニターには、腕時計の画像が出ていた。

『初日ですので投票の方法をご説明致します。腕輪の機能を使いますので、カバーを開いてください。』

皆がそれに従う。

液晶画面には、チカチカと『投票9分前』と文字が点滅している。

声は続けた。

『お時間になりましたら、投票してくださいという表示に変わりますので、すぐにテンキーにて投票したい番号を入力し、最後に0を三回入力してください。受け付けが完了しましたら、投票を受け付けましたと音声と文字表記でお知らせされます。エラー表示が出た場合、もう一度操作を繰り返してください。時間は、1分です。1分以内に投票完了しない場合、追放となります。』

丁寧にボタンを押さないといけないんだな。

達也は、その小さなテンキーを見つめた。

ミスらないために、小指で打つ方が良いのだろうか。

『投票5分前です。』

また、声がする。

どうやら、それは腕時計からも出ているようだった。

「…どこに入れるかまだ決めてない…。」

隣りで、庄治が呟く。

確かにそうだ。

達也は、後半位置の四人の顔を見つめた。

16の翔馬から、19の廉を除いて20まで、誰にしようか…誰が一番人外っぽいのか…。

みんな、ドングリの背比べだ。

翔馬は早紀にすり寄ってるようにも見える、早紀は翔馬が味方になったと思ったら手の平を返したような発言をするようになった、美夢は感情的だが的を射た発言をしていた、美加は流れに任せて美夢を怪しんで票を回避しているようにも見える…。

…誰なんだよ。

達也の指先は、震えた。

その時、表示が投票してください、に変わった。

と同時に、声が言った。

『投票してください。』

…もう、分からん!

達也は、一番上の翔馬の番号、16、と、押して0を三回押した。

『投票を受け付けました。』

達也はホッと肩の力を抜く。

『…もう一度投票してください』

隣りの腕時計から、声がする。

庄治が、焦ったように手をブルブル震わせていた。

「…なんだ?!何が悪い?!」

達也は、庄治を見た。

「落ち着いて!一個一個丁寧に押すんだ!」

庄治は、フウッと息を吐いて、言われるままに番号を入力した。

回りでは、同じようにあちこちから音声が聴こえていて、慌てている気配がする。

『投票を受け付けました。』

庄治は、額に浮き出た玉の汗を拭った。

「ふう…。危うく追放だよ。」

すると、モニターの表示が変わった。

『投票が完了しました。結果を表示致します。』

どうなった…?!

達也は、固唾を飲んでモニターを見上げた。

1(かおる)→18

2(圭太)→16

3(朱理)→18

4(利喜)→18

5(仁)→18

6(颯太)→18

7(達也)→16

8(庄治)→16

9(泰裕)→18

10(哲也)→16

11(翼)→18

12(拓也)→16

13(裕太)→18

14(巽)→16

15(健斗)→18

16(翔馬)→18

17(早紀)→18

18(美夢)→16

19(廉)→16

20(美加)→18

…二つに分かれてる…。

達也は、思った。

つまり、16の翔馬と、18の美夢で皆が悩んだ結果の投票だった。

だが、18の方が多かった。

『No.18は、追放されます。』

美夢は、翔馬を睨んだ。

「上手く騙したってことね?私は白よ、翔馬さんが絶対人外だと思うわ!だって狼の票が、きっと全部私に入ってると思うから!」

翔馬が、何か言い返そうと口を開いたその時、急に美夢が、カックリと目を開いたまま、椅子から崩れ落ちて床に突っ伏した。

…え…?興奮し過ぎて倒れたのか?

達也が思っていると、翔馬も呆然としていたが、隣りの早紀が慌てて言った。

「美夢ちゃん!」と、顔を覗き込んだ。「大丈夫?」

モニターから声が淡々と続けた。

『No.18は追放されました。夜時間に備えてください。』

そこで音声は途切れた。

「え…」達也は、椅子から腰を浮かせた。「追放?!どういうことだ?!」

早紀の反対側の隣りの廉が、黙って立ち上がると、美夢を上向きに寝かせた。

そして、顔を覗き込むと、その手首を掴んでじっと観察した。

「…え。死んでる。」

「ええ?!」

全員が叫ぶ。

「ちょっとごめんね。」

廉は、胸の辺りに直接手を押し付けて心臓の動きを確かめようとしていたが、巽を見て首を振った。

巽は、立ち上がって美夢の側に膝を付くと、その首に触れて脈を確かめ、瞳を覗き込んだ。

「…死んでいるな。呼吸も脈もない。」

庄治が、急いでやって来て美夢に馬乗りになると、心臓マッサージを始めた。

「何を落ち着いてるんだよ!蘇生は?!発作とかじゃないのか?!お前ら医者だろうが!」

廉が、言った。

「医者だからわかるんだけど、無理だよ。そんな簡単なことじゃない。痙攣も何もないじゃないか。多分、薬かなんかで止めた感じ。外から何の薬も器具もない中で何とかできる状態じゃないんだよ。」

巽は、頷いた。

「倒れた時の様子でも、胸を押える様子も何も、とにかくいきなりスイッチが切れたような不自然な様子だったし、心臓だけが問題の倒れ方ではない。目を閉じる暇もないほど、いきなりにこんな様子になるのは、特殊な薬品でも使ったとしか、考えられない。設備のある病院に居たとしても、何かできるとは思えない状況だ。CTかけて血液検査をしてと、それを待てる様でもないしな。手の打ちようはない。」

庄治は、それを聞いて手を止めた。

見下ろした美夢は、まだ何も映していない瞳を開いたまま、宙を見ている。

マッサージをしていても、それに反応する様子は全くなかった。

「そんな…!これが追放?!殺すってこと?!それとも、睡眠薬でも投与しようとして、それが合わなくて美夢ちゃんがこんな風になったってことか…?そもそも、どうやってそんな薬品投与したって言うんだ?もう、分からない!」

達也は、それを聞いてハッとした。

「…もしかして、腕時計。」皆が、え、と自分の時計を見る。達也は続けた。「…こんなピッタリくっついてる。この中に、何か薬が仕込まれてて追放になったらそこから刺して注射するとか…?」

それしか、考えられない。

腕輪の厚みはそこそこあるが、この中に何かを仕込まれていたとしたら…。

「…取れないな。」巽は、自分の時計を見ながら言う。「おかしな気がしたのだ。最初に振ってみたら、微かに液体の揺れるような音が聞こえたので、時計に液体とはなんだと。」

それを聞いて、全員が耳に時計を当てて振ってみた。

…小さく、ちゃぷちゃぷと聴こえる気がする。

達也は、愕然とした。

つまり、自分達の命は、このゲームを主催した誰かの手中にあるのだ。

睡眠薬であろうと何だろうと、投与されて目の前で死んだ美夢を見てしまったのだ。

「…睡眠薬じゃないと思うよ。」廉が、暗い顔で言った。「こんな死に方する薬品なんて聞いた事ない。そもそも、少しは苦しむんだよね、睡眠薬だろうと他の毒だと言われる薬品であろうと。でも、美夢ちゃんはまだ、死んだことにも気付いてないんじゃない?それぐらい、一瞬だったよ。僕、こういうの見た事ないけどなあ。僕は研究医だから臨床医と違って人とはあんまり関わっては来なかったけど、実習でもこんなの無いもん。そもそもが不可能だからね。手首からでしょ?どんな劇薬なんだって感じ。」

巽も、ため息をついた。

「確かに。苦しませず一瞬で全ての機能を停止させるのは、理論上無理だからな。だが、実際にそうなっている。」と、美夢を見下ろした。「私達の命が、風前の灯火だということが分かった。まさか命懸けのゲームをさせられるとは思っていなかったが、嫌な予感はしていたのだ。皆、ルールブックは見たか?勝利陣営は、帰って来られるという文言が、最後に書いてあった。」

仁が、それには眉を寄せた。

「…え?そんな事が書いてあったか?」と、尻のポケットに突っ込んでいた、ルールブックを引っ張り出した。「…最後…最後…これ…か…?」

皆が、一斉にそれを覗き込んで仁の回りは人だかりになった。

確かに、そこには追放された方々も、勝利陣営ならば戻って来られます、と書いてあった。

「…勝利陣営ならって…じゃあ負けたらどうなるんだ?」

利喜が、小刻みに震えながら言った。

仁も、さすがにルールブックを持つ手を震わせながら、首を振った。

「分からない。確かにこんな書き方はおかしい。戻って来られる、という事は、戻って来られない事もあるということなのか。それは…。」

仁が、混乱した様子で言葉に詰まる。

巽が、言った。

「私は、最初これを見た時、まさか負けたら帰れないのか、と思った。だが、今はそれどころではなく、追放されたら死ぬと分かった。ということは、勝ったらこうして追放されて、死んだ者達も戻って来るということなのかと今、私自身も混乱しているのだ。負けたら死んだ者達は戻って来られない、だが、勝ったら死んだ者達も戻って来られる、と。だが、美夢さんは完全に死んでいて、今現在も細胞は崩壊して行っているだろう。ここから生き返らせるなど普通に考えて無理だ。無理なのだが…」

廉が、それを引き継いだ。

「…こんな薬品見た事ないし、もしかしたらこれは仮死状態で、生き返らせる薬品もまた存在するかもしれないって考えてしまうよね。」

巽は、頷く。

「その通りだ。あくまでも推測でしかないし、このルールブックの文言を、そのままに信じるのならといことならなのだ。そもそもこんなことを公然と出来る輩が、信じられるのかというと怪しいがね。」

逃げるしかないのか…?

だが、ここは孤島だ。

回りは海で、腕には取れない腕輪が付けられている状態。

逃げようとしたら、追放処分と言われて殺される。

「…いやー!!」

同じ事を理解した、女子の悲鳴が聴こえる。

達也は、騒然となったリビングで、ただ頭を抱えて座り込むしかできなかった。

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