20
結局、昼の議論はその後、翔馬、早紀、美夢、美加の四人の議論を聞く事に終始して終わった。
巽はというと、その間その四人よりも、他のもの達の表情をじっと見つめて何を考えているのか全く分からない様子で、時々フッと笑みのようなものが口元に浮かぶのだが、それが何を見て何を思っているのか、達也には皆目わからない。
廉も、それからは紐をもてあそぶのをやめて、じっと何かを観察しているようだったが、こちらは表情は全く変わらなかった。
この二人が、恐らくこの中では頭の良い人類代表のようなものなので、どうしてもその考察が気になって仕方がない。
達也は、早く今夜の投票が終わって、巽の話を聞きたいとそればかり思いながら、同じ事を繰り返して話す、四人の話を聞き流して、あまり意味のある会議ではなかった。
夜の会議は、もうこの調子でダラダラ続くのならしない方が良いと巽が言うほど、皆うんざりとしている様子だった。
とはいえ、投票は20時なので、それに遅れて誰かが追放になり、面倒が起こってもいけないので、19時半には全員が席についておくように、とのことだった。
そこで、最終的に占い位置などを確認して吊り指定された人達の話をもう一度聞き、そのまま投票へと進もうという事になったのだ。
なので達也は、15時の会議が終わってから少し部屋へと戻って、そこで昼寝することにした。
頭を使い過ぎて疲れていたところへ、ダラダラと言い合う四人の会話を聞き続けたことで、メンタルに来てしまったような気がする。
思っていた以上にいっぱいいっぱいだったらしい達也は、部屋へと帰ってそのまま爆睡してしまったのだった。
「達也!達也、飯は?」
ハッと目を開くと、薄暗くなった部屋の中で、圭太が顔を覗き込んでいた。
達也は、びっくりして起き上がった。
「え、圭太?!今何時だ?!」
結構暗い。
圭太は、答えた。
「大丈夫、まだ7時だよ。でもそろそろ飯食っとかないと、投票の後で巽さんが部屋に来るとか言ってなかったか?後で食う時間なさそうだけど。」
そうだった。
達也は、寝ぐせになった髪をせっせと撫でつけながら足をベッドから下してスリッパを履いた。
「ごめん、すっかり寝入ってた。てか、頭が疲れちまってさあ。今はスッキリしてる。」
圭太は、頷いた。
「だろうね。あれからずっと寝てたわけだしね。とにかく、早く飯行こう。準備に時間かかったら急いで食べなきゃ間に合わないぞ。」
達也は頷いて、圭太と一緒に急いで一階へと駆け下りて行った。
リビングには、もう結構な人数が居て、ソファの方へ座って何やら話していた。
恐らく、もう食事を終えて時間を待っているのだろう。
圭太と達也は、急いでキッチンへと駆け込んで、そこのテーブルに座って食事をしている哲也と利喜に気付いた。
「あれ。お前ら今から?」
利喜が言う。
達也は、頷きながら冷蔵庫を開いた。
「そう。オレ寝ちまってて。圭太が起こしに来てくれたんだ。」
見ると、鮭弁当がある。
達也は嬉々としてそれを手にした。
圭太も、後ろから覗いていて言った。
「あ、オレもそれにする。」
達也は、頷いて今手に持っている弁当を圭太に渡して、自分はもう一つを手に取って冷蔵庫を閉じた。
哲也が言った。
「昼議論疲れたよなあ。これが毎日かって思うと疲れ切ってしまうよな。朝の会議と夜の会議だけで良かったんじゃないか?もうさ、みんなグロッキーだったじゃないか。巽さんとか廉とか、聞いてるかどうかも分からないような状態だったし。昼間はじっくり考えて個別で話してさ、その結果を夜またじっくり話すって感じで投票へなだれ込んだ方が、効率的な気がするな。ダラダラしちまうし。」
電子レンジに二つの弁当を放り込んで温まるのを待っていた達也は、哲也を振り返った。
「ほんとだよ、その方が良いとオレも思う。提案しようか。でないと疲れちまうよ。まあ、初日だから人数多くて情報も少ないし、全員の発言を頭に入れるのに疲れるのかもしれないけどさあ。明日だって減ったところでまだ18人だもんなあ。」
圭太も、言った。
「この調子だと明日も同じ状況に陥るから、確かに哲也の提案は良いと思うな。ただ、呪殺が出始めたら一気に減ると思うけどね。狂信者は狐が二匹とも消えたら一緒に消えるし、一晩で最大三人消える可能性もあるってわけだろ?」
利喜が、首を振った。
「違う、猫又噛みがたまたまその時に入ってたら、最大四人が一気に消える。縄数が激減するってわけだ。まあ、猫又噛みが入ったら狼が道連れになるから、その時は人外三人が一気に消えるって事になるけどね。」
そうか猫又も居た。
達也は、息をついた。
「そうだよなあ。いつものゲームと勝手が違うし、縄数間違えないように気を付けないと。勝って賞金欲しいしなあ。」
電子レンジがチンと鳴った。
圭太と達也は、弁当を持ってテーブルについた。
哲也が言った。
「だよな。分けたら減るけどさあ、踏ん張って生き残ったらちょっと色付けてくれないかな。」
オレと同じ事を考えてる。
達也は、弁当を口へと運びながら言った。
「それ、オレも思った。生き残ったらちょっと多めにして欲しいよな。初夜トンされたら残念だけど、最後まで生き残って頑張たらその分増えると思ったら、生き残ろうと必死になるよな。」
利喜が、苦笑した。
「だから。みんながみんな生存意欲高かったら怪しまれるだろうが。賞金多めに欲しいんですって、それで村が攪乱されたらやってられないぞ?勝たなきゃ意味ないんだからな。」
それはそうだけど。
達也は、ため息をついた。
でも、最初に消えた人とこんな面倒を最後までこなして勝った人とは、やっぱり同列なのはおかしい、とは思っていた。
そこからは、達也と圭太は怒涛の勢いで食事を済ませて、哲也と利喜と共にリビングへと向かったのだった。
リビングでは、さっきは窓際のソファにバラバラに座っていた人達が、今は椅子に座って待っていた。
時間は、もう25分を指している。
急いで席についた達也は、言った。
「すいません、遅れてしまった。」
だが、仁は首を振った。
「いや、まだ時間前だ。これでみんな揃ったな。」
そこで、哲也が言った。
「じゃあ、やっぱりあの四人が投票指定先で良いよね?他に怪しいとか、この人は白いから省いて欲しいとかないよな?」
皆が、顔を見合わせる。
もう、ここまで来たらそれが決定事項だから仕方がない。
今さら別の人など、言っても混乱するだけなのだ。
達也は、言った。
「…今さらだぞ?どうしたんだよ、哲也。」
哲也は、言った。
「この中に役職が居たらまずいじゃないか。だから、最終確認しておくかって。もちろん、この中に居ても吊られないって思ってるなら出なくて良いけどね。猫又と狩人、どっちも吊ったら大変だろ?だから聞こうかって思ったんだ。君達の中で、役職COはないな?」
四人は、顔を見合わせた。
「…私は素村。」早紀が言う。「でも、生き残ったら強いから私が狩人でもそう言うだろうとは思うけど。今の時点で出てないんだから、狩人は居ても生き残れると思ってるってことでしょ?これ以上は良いんじゃないかな。」
仁も、それに頷いた。
「オレもそう思う。吊られないと思ってるんなら出なくて良い。出たら初日から狩人を失って大変なことになる。」
巽は、言った。
「吊るよりはマシだとは思うが、ならばもし四人の中に狩人が居るのなら、追放が決定されても決してCOしないことだ。黙って消えてくれ。後が大変になるからな。猫又だけは呪殺とややこしいので言って欲しい。」
確かにそうだが、猫又ならもう、この際COして欲しい。
狼を道連れにできなくなるが、噛まれることもないし、確定したら噛まれず村の進行を任せられる唯一の人になるからだ。なので、達也は言った。
「…猫又はその中に居たら言って欲しいよ。」皆が達也を見ると、達也は続けた。「怪しく思われても言うけど、猫又は吊られるぐらいならCOして村の進行を担ってもらう方が良い。狼を道連れにできなくなるけど、確定したら噛まれないし確定村人として信用できるじゃないか。もし護衛成功しても、今の状態だとどこで成功したのか、狩人は言えないんだ。自分が噛まれるから。でも、猫又が確定村人だったら、猫又に言える。普通のゲームじゃないからさ、隠れて知らせるってことができるからね。狩人が守り先を言えるのは強いよ。呪殺のことも分かりやすくなるかもじゃないか。」
皆が、目を瞬かせた。
どうやら、それに今、気付いたらしい。
哲也が、言った。
「…お前めっちゃ白いな。確かにそうだよ、猫又の使い方ってそれもできるじゃないか。この村には共有者が居ないから、進行を安心して任せられる人が居ないもんな。猫又は噛まれないし、絶好の位置だ。いっそもう、指定先以外でも出した方がいいか。」
だが、利喜が言った。
「…とりあえず、この四人の中に居ないなら今夜は様子を見たら?」皆が利喜を見た。利喜は続けた。「狼が噛み先に迷うだろうし、もし白先とかに居ても人外占い師が黒打って来るかもじゃないか。必要そうな時まで、猫又COは待った方がいいよ。それに、騙りが出るかもだしね。」
四人は、顔を見合わせている。
どうやら、この中に猫又は居ないように見えた。
『…投票10分前です。』
突然、天井から吊り下がるモニターが点灯して声が聞こえた。
皆が、一斉に緊張した顔をした。