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そんなこんなで、そこからは楽しく皆であっちこっち移動しながらワイワイ過ごした。
時間は長かったし、途中暗くなって来て外が真っ暗な海しか見えない状況になって少し、緊張したが、そうこうしているうちに、遠く光が見えて来た。
近付いて来ると、それが島で、上に大きな建物が建っていて、そこから灯りが漏れているのが分かった。
…あの島なんだ!
達也達がワクワクしながら外を見ていると、船はその島を目前にスピードを落とし始めたと思うと、完全に停止した。
え、と思っていると、崎原が上から降りて来て、言った。
「はい、皆さんここから小さな船に乗り換えて上陸します。ここの桟橋は小さいので、この船は乗り付けられないんですよ。迎えの船が来ています。十人ずつに分かれて、上陸します。」
マジか。
達也は、急いで荷物を持った。
崎原に案内されて行くと、確かにこの船の横に、小さな船が乗り付けていて船員らしい人がこちらを見上げている。
達也は、船の横に設置された小さな階段を、ゆっくりと降りて行ってそこへ乗り込んだ。
「はい、座って。」船員の男が言う。「端から詰めてください。」
言われた通りに船に乗り込むと、二列しかない長椅子の端に達也は座った。
次々に乗り込んで来て、まだ余裕はありそうだったが、船員が言った。
「はい、では島の桟橋までお連れ致します。到着しましたら桟橋を渡って上陸して、そこで待っていてください。残りの人達をまたお連れしますので。」
皆は、うんうんと頷く。
船は、唸りを上げて結構なスピードで島へと向かった。
島からは、木の桟橋が出ていて波に揺れている。
そこへ乗り付けた船員は、素早くロープを引っ張って固定すると、言った。
「はい、ここから順番に。足元に気を付けてください。」
とりあえず、水銀灯の灯りが向こうにあって夜なのにその辺りは明るい。
なので、慎重に降りたら大丈夫そうだった。
まず巽が軽々と降りて行き、それに廉が続いている。
仁も、負けじとそれを追って降りて行ったが、自分の番になってみて、案外揺れて大変な事実を達也は知った。
「…危な!」達也は、桟橋に降りて後ろの圭太に手を出した。「圭太、掴まれよ。」
圭太は、頷いてその手に掴まって船を降りた。
「うわ、ほんとだマジで揺れてるー!」と、後ろの利喜を振り返った。「利喜、ほら!」
利喜は、その手に掴まった。
「大揺れ。次の船の女子達大丈夫かな。」
女子達は、後ろに固まっていたので次の船なのだ。
達也が、言った。
「ここで待ってるわけにも行かないしな。来るまでにオレ達海に落ちてるかもしれない。とにかく陸へ行こう。」
三人は頷き合って、先に行った仁達を追った。
巽、廉、仁が建っている砂浜へと到着すると、砂に足が沈んで歩きづらかった。
後ろからは、拓也と裕太、颯太、翔馬が追いかけて来ていた。
「ここは足場が悪いし、もう少し上に行こう。あの階段を上がれば舗装された所に出る。」
巽が言う。
見ると、確かに砂浜を囲むようにコンクリートの低い枠のようなものがあり
その向こうは舗装されているのが水銀灯の灯りに照らされているのが見えた。
小さな階段をほんの五段ほど上がると、そこはきちんとアスファルト舗装された道になっており、その道は、ずっと上に向かって坂になっていて、上に立つホテルの方へ行けるようになっているようだった。
「うわ、めっちゃ坂ですね!」圭太が、その道を見て言う。「これを登るのかあ。」
確かにこれから結構な重労働だ。
巽が答えた。
「こういった島は嵐の時など水位がかなり上がって来るし、できるだけ上に建物を配置した方が安全なのだよ。私はむしろ、この方が安心だなと思うがね。」
言われてみたらそうなのだが、かなり長い坂に見えた。
ここからだとグーッとカーブしていて門は見えないのだが、そのせいで先が見通せないのだ。
目の前の海では、また乗ってきた船が向こうに到着して人々を乗せているのが見えていた。
到着したとはいえ、かなり疲れるなあと達也はここまで船に乗っていただけなのに、内心ため息をついていたのだった。
全員が揃って、迎えに来てくれた船員が皆を誘導して坂道を上がって行った。
崎原は居らず、その船員は三原と名乗って、ここでの案内を担当するのだと言う。
坂道を回りながら登って行くと、高い塀に大きな高さ5メートルはあろうかという鉄の扉が目の前に現れ、三原が脇のボックスを開いて操作すると、ギギギと大きな音を立てて向こうへと開いた。
「ここらは台風など来たら大変ですからね。」三原は言った。「水が万が一来ても中に入れない構造になっているんです。」
台風かあ。
達也は、ふと思った。
そろそろ台風の季節なので、また南で台風が発生しているとか、ニュースで言っていたのは記憶の隅にある。
頑丈な塀は、有り難かった。
「わあ!」
女子から、声が上がる。
ハッとして門の中を見ると、中はそれは美しいイングリッシュ・ガーデンになっていて、石畳を強いてあった。
その曲がりくねった先に、この建物への入り口が見えていたが、洋館のような感じで女子にはたまらないのだろう。
ここまで登って来た疲れも忘れて、一同はその庭を眺めながら建物入り口へと向かった。
三原がまた脇のボックスを操作すると、扉は今度はこちら側に向かって開いて来た。
木製だと思っていたが、かなり分厚いようで、恐らく木ではない。
三原は、言った。
「どうぞ、中へ。」
足を踏み入れると、スーッと空気が涼しく快適になった。
床は全面高そうな絨毯敷きで、高い天井には大きなシャンデリアが吊り下がっている。
正面には女優でも降りて来そうな大きな階段があり、それは上へと回り込んでいた。
古い洋館のような造りだったが、全ては美しくて古そうには見えない。
何より人狼ゲームをするには、絶好の雰囲気を醸し出していた。
そのエントランスホールに全員が入ったのを確認した三原は、扉を閉じて言った。
「こちらは、エントランスホールです。」と、向かって左側の廊下を示した。「そちらへ行けば突き当たりにリビング、その隣にダイニングキッチンがございます。後でご説明致します。階段を上がって頂くと、二階には皆様の居室、1番から10番までがございます。三階には11番から20番までの居室がございます。四階以上には立ち入らないようにしてください。基本的に入ってはいけない場所には鍵がかかっておりますので、無理にこじ開けたりしないようにお願い致します。これから居室にお荷物を置いて頂き、その後ダイニングにてお食事を済ませて、ゲームのご説明を致します。皆様、リアル人狼ゲームにご参加ということで間違いないですね?」
全員が、頷く。三原は続けた。
「では、そのように進めされて頂きます。まずはお部屋にお荷物をお持ち頂いて、用を済まされたらそちらのリビングの方へお集まりください。」
達也は、隣に立つ圭太を見た。
圭太は、その視線に気付いて言った。
「じゃ、行こうか。オレ2番だから二階。達也もだよね?7番だし。」
達也は頷く。
「そう。利喜は…4番だな。行こう。」
利喜も頷いて階段へと歩き出す。
全員が、長い坂道を登り切って膝が笑い出しそうな中、階段を上がって行った。
「ねえ、凄くない?こんなホテルに泊まれるなんて。」
かおるが言っている。
早紀が答えた。
「ほんと!雰囲気バッチリだよねー。でも遠かったかな。船の中でゲーム何戦もできそうだったじゃない。」
言われてみたらそうだ。
達也は思いながら、二階へと上がったのだった。