嘘
___その解釈が全部間違っているって言ったらどうする?
と笑一が告げると、由美だけでなく、亮太も驚いたような顔を浮かべた。
「間違ってるってどういうことだし!?」と女子グループの一人である横井梨沙が笑一に問い掛けた。
「そのまんまの意味さ。星宮が森下先輩を誘惑したという解釈が間違っているってことだよ。それじゃあ一つずつ真実を解き明かしていこうか」
そして笑一は視聴覚室にあるプロジェクターの電源を入れ、一枚の画像を映し出した。
「この画像は、駅と星宮たちがいた喫茶店の周辺を映したものだ。喫茶店がこの位置で、二人が写っている写真が撮られたのはこの辺りだから、ざっと歩いて10分くらいってとこだな」
「この画像が何だっていうのよ。位置関係を把握したところで陽向が悪いことが覆るわけではないわ」
「まあそう慌てなさんな本条。俺が注目したいのは、この二人の写真がホテル前のこの場所で撮られているってことなんだ。つーことで、これを聞いてくれ」
笑一はある音声を流し始めた。
それは笑一が今週の月曜日に由美たち女子グループたちと話した時の音声であり、どうしてこの音声が...と女子グループの面々は驚いていた。
「すまねえな。俺は部活の内容上、普段から役に立ちそうな会話は録音してるんだ。もちろん今回の件が終われば削除するし、ネットに晒すとかいうこともないから安心してくれ」
そうして笑一は目的の箇所まで音声を早送りして、その部分を流した。
『横井はその日たまたま近くを通りかかった時に二人を撮ったんだよな?』
『近くの服屋に行こうとした時に二人の姿が見えて、なんかヤバい雰囲気を感じたから咄嗟に撮ったんだし』
『写真を撮った後の二人は見てたか?』
『ん~と、陽向が急にこっち側に走ってきて、私は二人に気付かれないように物陰に隠れたし』
『...ふ~ん、なるほど。じゃあ横井は写真を撮って隠れた後、二人とは接触せずにそのまま帰って情報をグループに伝えたということで良いか?』
『そうだけど』
この部分を流した後、由美は「今の会話が何だって言うのよ」と笑一に尋ねた。
「今聞いてもらったように、ホテル前での写真はそこにいる横井が撮ったものだが、どうして横井はそこで二人の姿を見ることができたんだろうな?」
「な、何が言いたいんだし!」
「いや、横井は『近くの服屋に行こうとした時に二人の姿が見え』たんだろ?よ~く前の画像を見てみろよ。喫茶店やこのホテルの通りがある駅の西側周辺には...服屋なんてないんだよ」
「「「「「「!?」」」」」」
笑一がそう言い放つと、それぞれは驚愕の表情を浮かべ、梨沙は少し顔を青くさせた。
笑一が言ったように、ファッション店が多く入った大型のショッピングモールを中心に、学生を中心に若者のほとんどが目的とするお店のほとんどは駅の東側にある。
西側は駅近くに今回の喫茶店やレストランが数件ある程度で、そこから奥はほとんど住宅街が中心となっている。
「少し調べさせてもらったが、横井はこの駅の一本前が最寄り駅だよな?だからこの駅の西側に家があって東側の服屋に行く道中で二人を見たっていうことは絶対にない。だって服屋に行くためには東側に降りないといけないからな。つまり横井は二人がホテルに来るのを分かっていてそこにいたっていうことになる」
笑一がそう告げると横井は「そ、そんなことあるわけがないし!」と慌てたようにそのことを否定し出した。
由美たちは「ど、どういうことなの梨沙」と状況を理解できないでいるようだ。
「横井は二人のことをたまたま見ただけで、二人がホテルに来るのを分かっていたっていうことを否定しているが、もう一つ証拠を出そうか?」
笑一は新たにプロジェクターで映像を映し出した。
その映像を見て、梨沙は「えっ...うそ...」と小さく声を出した。
「そう、この映像は喫茶店の防犯カメラの映像だ。そして今画面の右下に映っているのが星宮と森下先輩だな」
「...綾瀬、もしかして昨日の午前に学校を休んでいたのは」
「この映像を喫茶店に確認しに行ってたからだな。おっ、もうそろそろだな」
笑一がもうそろそろと言った直後、亮太が席を立ちあがり、陽向の肩を支えながら喫茶店を出ていく様子が映し出されていた。
「私、こんなの知らないわ...」と陽向が呟いているように、やはり陽向にはこの時の記憶がぼんやりとしてよくは覚えていないのだろう。
そして二人が店を出た直後、画面の右上から一人の客も席を立ちあがり、店を出ていった。
その客を見て、梨沙以外の女子グループと陽向は驚きで固まっており、亮太は真顔から一瞬目を細めた。
「今見てもらった通り、横井は二人と同じ喫茶店にいたんだ。まるで二人を尾行するかのように」
「...」
「横井が意図的にあの写真を撮ったとなれば話が変わってくる。なぜなら、誰かが星宮を陥れ、非難されるこの状況を作り出した奴がいるってことになるからな...ねっ、そうでしょ?森下亮太先輩?」
「ははっ、いやだな~綾瀬くん。僕がそんなことするわけがないじゃないか」
亮太がそのように答えると、亮太に同調するかのように由美が声を荒げた。
「そ、そうよ!どうして亮太先輩がそんなことをするのよ!」
「それにね綾瀬くん、君は僕が今回の騒動の火種となるようにホテル前に行ったって思ってるかもしれないけど、何回も言うように僕は星宮さんが急に体調を崩したから、どこか休憩場所を探そうとした時に星宮さんに誘導されて、たまたまあの場所に行っただけだよ?だから綾瀬君の話は違うんじゃないかな」
亮太の言い分に由美は「やっぱり亮太先輩は何も悪くないわ」と言い、亮太とも言葉を交わしている。
しかし笑一はニヤリとした表情を浮かべ、更に話を続けた。
「森下先輩はあくまで自分はホテル前に行ったことに関与はしてないってことっすよね?じゃあ、先輩が星宮の頭をわざとボーとさせてホテルに連れていきやすくしたと言ったらどうします?」
「...どういうことかな?」
「先輩のことも調べさせてもらいましたけど、先輩の実家って診療所ですよね?ならありますよね、睡眠薬の一つや二つ」
「っ!」
「薬を処方する際には、誰にどの薬を処方したのかを詳細に記録する必要があると聞きました。だから、今月の処方履歴を調べると必ず出てくるはずなんすよ、睡眠薬の実際の処方数と先輩が今回のことで勝手に持ち出した数の誤差が」
「...確かに、先輩と話をしている時にミルクティーを飲んでから、急に眠気が襲ってきたわ。まさか睡眠薬が原因だっただなんて...」
「...う、嘘よ!そんなの嘘に決まっているわ!ねっ?亮太先輩、先輩が陽向をホテルに連れて行こうとしたなんて、そんなことするはずがないですよね?」
由美が期待を込めて亮太の方を向くと、由美はこれまで見たことがないような雰囲気を亮太から感じて寒気がした。
そんな亮太は優しそうな印象を与える表情を歪ませて、笑一に問い掛けた。
「...もしそれが本当だとして、どうして僕は星宮さんに睡眠薬を飲ませて、僕たち二人の写真まで撮らせる必要があったのかな?」
「あ、えっ...?りょ、亮太先輩...?」
由美は亮太の口から否定とも取れない言葉が出てきて動揺を隠せずにいる。
笑一は亮太の問いに答えるため、その口を動かした。
「それじゃあ、そろそろこの事件も終わりにするとしますか」
そうして笑一はこの事件の真実を解き明かし始めた___。