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変な奴




 亮太と昼に会話をした日の放課後、笑一は「急遽先生から呼び出しを受けたから、申し訳ないけど先に帰っててくれ」と陽向に告げ、とある部屋を訪れていた。


 そうして部屋の中の人物と会話をし、用事を済ませて玄関に向かうと、陽向の姿がそこにはあった。


「どうしてまだ学校にいるんだ?今日は遅くなるから先に帰った方が良いって言ったろ?」


 そう言うと陽向は頬を少し膨らませながら「...一緒に帰るって約束したじゃない」と呟いた。

 そんなどこか拗ねているような様子の陽向を見た笑一は、学校中で『氷姫』と呼ばれる印象とはまるで違うなと感じながらその顔に笑みを浮かべ、「そっか、待たせてごめんな。それじゃあ今から一緒に帰るか」と陽向に声を掛けた。

 その言葉を聞いた陽向は先ほどとは打って変わって嬉しそうな表情を見せながら頷いたのだった。







***







 次の日の朝も、笑一は陽向と一緒に学校へ向かった。

 周りの生徒たちの視線は相変わらずだったが、二日目ということもあり、二人は特に気にならないようになっていた。

 通学の途中、陽向が少し顔を赤らめながら「綾瀬って...その、女の子の好きな髪型とかあるの?べっ、別に、深い意味とかはないわっ!」と尋ねてきた。

 急な質問だったこともあり、笑一は質問の意図が分からなかったが、「そうだな~、ショートボブとか短めの方が好きかもなぁ」と素直に答えておいた。

 「そ、そうなのね。ありがと...」と陽向は話を終わらせたので、笑一は首を傾げたが、

陽向が違う話を始めことでその疑問は頭から離れていった。

 

 そうして学校に到着した後、笑一は陽向に話しかけた。


「星宮、急用を思い出して俺は今から行かないといけない場所があるから、ちょっと学校サボるわな」


「...えっ?今登校したばかりなのにもう帰っちゃうの?」


「いや、おそらく昼には戻ってくるから午後からの授業には参加できると思う。だから、今日も一緒に帰れるから安心してくれ」


「い、一緒に帰れないことを残念に思ったりなんかしてないもんっ!」


「あははっ!つーことで、一応昨日午前中は休むことを先生に伝えてはいるけど、もし授業で俺のことを聞かれたら午後まで来ないと伝えておいてもらえると助かる」


「...もぅ、分かったわ」


「あんがとな、そんじゃ行ってくるわ!」


 そうして笑一は自転車に乗って駅に向かい、電車に乗り込んで目的の場所へと向かうのだった___。







***







「はぁ...」


 今は四限目の授業中だが、陽向はちらちらと誰も座っている人がいない窓際の席を見ながら、今日何度目かも分からないため息を吐いた。

 陽向は授業に耳を傾けながらも、頭では綾瀬笑一という男について考えていた。

 陽向の笑一に対する最初の印象は、周りの生徒たちと同じように《変な奴》という印象だった。

 『みんなを笑顔にするための同好会』という変な同好会を生み出し、根暗な見た目とは裏腹に、良くも悪くもみんなが一目置くほどの存在感を持っている、そんな変な奴だった。

 だからこそ、陽向は急に笑一から声を掛けられた時には警戒をして、かなり冷たい態度を取ってしまった。

 同時に、陽向は笑一が由美たちとのことで悩んでいることを見抜いていたことにも驚いた。

 そこから毎日笑一が事あるごとに話しかけてきた。

 最初は警戒心から無視を決め込んでいたが、笑一は踏み込むラインを弁えており、話しかけにはくるものの、他の男子たちのように嫌な感じはなかった。

 そして黒板の作業をきっかけに、笑一と話すようになった。


 あの日のクレープは美味しかったからまた一緒に食べたいな...と陽向は頬を緩めた。


 その日から、陽向の中で綾瀬笑一という男がみんなや陽向自身が思っていた印象とは全く違うということに気付き始めた。


 中でも劇的な変化が訪れたのが週明けの朝の出来事だ。

 あの日、陽向は机に書かれた誹謗中傷の言葉を目にし、今すぐここから逃げ出したいという気持ちに駆られ、無我夢中で教室を出た。

 「どうしてこんなことになってしまったの...」と思いながら屋上で丸まっていると、後ろから笑一に声を掛けられた。

 始めはどこかまだ笑一に心を開けていなかった陽向だったが、


『当たり前だろ。今から俺はどんなことがあっても星宮の味方だ』


 という笑一の言葉を受け、笑一にならこの胸の内にある悩みを打ち明けても良いと感じ、陽向は笑一に悩みを話した。

 話を終えると、笑一は優しい表情で陽向の思いを受け止め、背中を撫でながら自分に任せて欲しいと言ってくれた。

 普段は苦手で距離も取っている異性に体を触られたということでびっくりしたが、陽向はどうしてか笑一が触れたことを嫌だと思うことはなかった。

 その後、笑一は陽向の依頼をスマイルとして引き受けてくれたが、その時の笑一の笑顔と優しく頭を撫でてくれた状況を陽向は鮮明に思い出し、授業中にも関わらず顔だけでなく耳までも真っ赤にさせた。

 あの時から、陽向は笑一のことを考えると胸がドキドキするようになり、笑一と一緒にいると周りから距離を置かれている今の状況にも関わらず、嬉しい気持ちが溢れてくるのだ。

 家に帰っても笑一のことが頭から離れず、毎晩ベッドの上で枕に顔を埋め、ジタバタと悶えている陽向だが、この感情の正体に段々と自分でも気付きつつあった。


 しかし、この気持ちに向き合うのはこの件が解決してからにしようと陽向は自分に言い聞かせ、黒板に目を向けノートに文字を走らせた。







 そうして四限目の授業が終わり、昼休憩の時間が半分を過ぎた頃、ガラガラと教室の後ろの扉が開いた。

 陽向が扉の方に目を向けると、そこには待ち人の姿があった。


「ただいま星宮。約束通り昼には戻ってきたろ、あははっ」


 陽向は「おかえり」と声を掛け、椅子とお弁当を持って笑一の机に移動をし始めた。


 移動をしながら笑一の元に向かう陽向の胸は、ドキドキと高鳴っていたのだった___。


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