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不自然な表情




 由美たち女子グループとの会話を行った日の放課後、現在笑一は陽向と一緒に帰り道を歩いている。

 由美たちが陽向に接触を図り、危害を加える可能性がないとは言い切れないため、笑一が一緒に帰ることを提案したのだ。

 問題が解決するまでは、学校の行き帰りを笑一と二人ですることを陽向はひとまず了承した。

 笑一はこの提案をした時に陽向の顔が赤くなったことを疑問に思ったが、陽向にはぐらかされてしまった。

 そうして学校でのことを色々と話している間に陽向の家近くの十字路に着いたため、二人は立ち止まった。


「目的地に着いたようだな。昼に話したように、少しの間だけ行き帰りは俺と一緒に行動してもらうことになるからよろしくな」


「...分かったわ。だけど、やっぱり朝まで迎えに来てくれなくても良いのよ?綾瀬も大変だろうし、何よりわざわざここまで来てもらうなんて申し訳ないの」


「星宮は俺と一緒に登校するのは嫌か?まぁ確かに俺は何故か学校で腫れ物扱いされてるし、可愛いで有名な星宮に悪い噂が流れて嫌な思いをさせるかもしれないが...」


「嫌なんてっ!...ことはないわよ...」


「ありがとな。今日の朝のこともあるし、俺は星宮が心配なんだ。だから、俺のわがままに付き合ってくれないか?」


「(...もぅその言い方はずるいわよ。)分かったわ、それじゃあ明日からよろしくお願いね綾瀬」


「おう!」


 笑一は陽向と朝の集合時間を確認した後、ここまで押して歩いていた自転車に乗って今来た道の方へ戻っていった。


「...どうせ家はこっち方面じゃないくせに一緒に登下校するなんてほんとお人好しなんだから...ふふっ」


 陽向は笑一が帰って行った方を向きながら一人小さく呟いた。

 そして振り返り、自宅へ向けて足を動かし始めた陽向だったが、その顔は夕日に照らされているからか、耳まで真っ赤に染まっていた。


『可愛いで有名な星宮に悪い噂が流れて嫌な思いをさせるかもしれないが...』


(...さらっと可愛いとか言うなんて反則よ...バカ)


(それに一緒に学校に行けて嬉しいというか...って私何を言ってるの!?綾瀬はただのクラスメイト...そう!最近知り合ったちょっと優しくて良いやつなだけなんだから!)


 陽向は感じたことのない感情に頭を悩ませながらも、この不思議な感覚も悪くはないなと思い、軽やかな歩みで自宅の玄関扉を開いた。


 この時、陽向の頭には今朝の教室での出来事は頭になく、思い出すのは笑一の優しい笑顔だった___。







***







 次の日の朝、笑一は約束通り陽向と一緒に登校を行った。

 昨日の帰りはそうでもなかったが、今朝は多くの生徒の視線が笑一と陽向に集まり、通学路を賑わしていた。

 笑一が陽向と歩いていることを快く思っていない視線や声もあり、笑一は「まぁ当然の反応だわな」と平然としていたが、陽向は少し機嫌を悪くしていた。

 しかし、「もしかしてあの二人って付き合っているのかな?」という声が聞こえた時に笑一が陽向の方を向くと、陽向が何故か顔を赤くしてご機嫌になっていたのも事実だ。


 そんなこんなで無事に学校に到着し、チャイムが鳴ってお昼の時間を迎えた。




 現在、笑一は3年生の教室前廊下を歩いている。

 笑一の顔は3年生にも知れ渡っており、どうしてここに笑一がいるんだと廊下は少し騒がしくなっているが、笑一は気にも留めず目的の教室にたどり着いた。


「すんませーん、森下亮太先輩はここにおりますかー?」


 笑一が教室の扉を勢いよく開けて声を出すと、教室にいた生徒たちは驚きの表情をしていた。

 笑一がキョロキョロと教室内を見渡していると、後ろから声を掛けられた。


「僕が森下亮太だけど、何か用かなスマイルの綾瀬くん?」


 目的の人物と出会った笑一は、場所を階段の踊り場に移し、話を聞くことにした___。




「改めて、僕に何か用かな?」


「いきなりすんません先輩。ちょっと聞きたいことがありまして」


 笑一は目の前に立っている亮太を改めてじっと観察するが、第一印象は昨日女子グループが言ってたように《良い人》という雰囲気を不自然なほど完璧に漂わせている人物という印象だった。

 亮太は茶髪で、人当たりの良さそうな優しい表情を浮かべ、整った容姿をしている。

 亮太に話を聞くと、亮太はハンドボール部に所属しており、由美もハンドボール部のマネージャーをしているそうだ。

 部で交流を重ねるうちに由美に惹かれていき、今年の3月に亮太からの告白で付き合い始めたらしい。

 そして、付き合い始めて一ヶ月の記念にプレゼントを渡そうと思い、由美の友人であった陽向に相談をしようとして今回の出来事が起こったそうだ。


「そのことについてもう少し聞きたいんすけど、相談相手はどうして星宮だけだったんすか?他にも本条には仲の良い女子がいると思うんすけど」


「それは由美と特に仲が良いなと思ったのが星宮さんだったからだよ。去年から由美と一緒に話しているところをよく目にしていたし、僕が由美のお友だちの中で一番話したことがあるのも星宮さんだったからね」


「なるほど。それじゃあ、どうして先輩は星宮を支えて駅とは真逆のホテル方面に行ったんすか?」


「その日星宮さんと話していると、急に星宮さんの体調が悪くなってね。どこか休める場所に連れて行かないと、と思ってホテル方面に行ったんだ。だから休ませることが目的で向かっただけだから他意はないよ」


「でも星宮は先輩の手を振り払ったんすよね?」


「ははっ、どうやら星宮さんが周りを見て変な勘違いをしてしまったんだろうね。僕の気遣いで勘違いをさせてしまったことを謝りに行かないといけないね」


「本条たちにこのことを話したりはしたんすか?」


「僕は星宮さんといたことに他意はないって伝えているんだけど、どこか由美と食い違っている気がするんだよね。由美は僕のことは悪くないと言って、星宮さんのことを悪く思っているようなんだ。そこの食い違いは彼氏としてもっと根気強く説明するつもりさ。星宮さんとの仲違いも早く終わってくれれば良いんだけどね」


「...へぇ」


「他に何か聞きたいことはあるのかな?僕は部活動のみんなとお昼ご飯を食べる予定があるからね、用が済んだのなら早く移動したいんだけど」


「じゃあ最後に一つだけ...先輩は本条のどこを一番好きになったんすか?」


「...ははっ、照れくさい質問だね。色々あるから迷うけど、そうだね...やっぱりマネジャーとして、そして彼女として僕を支えてくれる由美の優しさかな」


「...時間取らせて申し訳ないっす。話してくれてありがとうございました」


「いえいえ、僕の方こそ彼女が迷惑を掛けてるみたいで申し訳ないね」


「また何かあれば話を聞くかもしれないんで、そん時はよろしくお願いします。それじゃあ失礼します」


 そうして亮太に背を向けて歩き出すと、亮太から「綾瀬くん」と引き留められた。


「すまない、僕の方からも一つだけ良いかな?どうしてこの件に関わろうとするんだい?僕が言えたことではないかもしれないけど、君には関係ないだろう?君が無理に関わる必要はないんじゃないのかな?」


「ご忠告感謝します。でも...悲しんでいる顔をしている生徒を笑顔にするのがスマイルの役目なんで」


「...そうか。引き留めて悪かったね」


 そうして亮太と別れた笑一は、今亮太と話した内容を確認しながら、亮太のどこか違和感のある不自然な表情を思い浮かべていた。


(森下先輩の笑顔は、何か裏に隠しているような、そんな作られた感じがするんだよな)




 また、教室に戻りながら笑一は感じていた___この件、かなりきな臭くなってきたと。


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