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てへっ




 陽向から屋上で話を聞いた笑一は、陽向が落ち着きを取り戻すのを待ち、二人で二限目の授業から遅れて参加した。

 屋上から教室に戻るまでの間、陽向は顔を赤らめて笑一から目線を外しながらそわそわとしていた。

 どこか体調でも悪いのかと笑一は陽向に尋ねたが、「な、なななんともないわよっ」ということだったので、不思議に思いながらも笑一は深掘りして聞かないことにした。

 教室に入る瞬間は体を強張らせていた陽向だったが、笑一が先に入って「一限サボるのって背徳感があってクセになるなー」と注目を浴びてくれたことで、思っていたよりも視線を集めることなく陽向は席に着くことができた。

 陽向は席に着くと自分の机が綺麗になっていることに気付き、笑一の方を向くと、笑一が親指を立てて笑顔を返してくれていた。

 笑一が屋上に来る前に机を綺麗にしてくれたんだと気付いた陽向は、何故か屋上の時から起こっている胸の暖かくなる現象を少し疑問に感じながら、少しの間頬を緩ませた。


 笑一は陽向が勉強の準備を始めているのを横目に見ながら、これから自分がやるべきことについて頭を働かせるのだった。




 昼休みの時間となり、早速笑一は教室を出て行動に移し始めた。

 教室を出てトイレ前の廊下を歩くと、由美たち女子グループが廊下で何やら世間話をして盛り上がっていた。

 そして笑一は、そのグループに何食わぬ顔で混ざり始めたのだった。


「でさ~昨日の新作コスメのやつなんだけどめっちゃ良くな~い?」


「分かる~あれ欲しいんだよね~」


「あーあれな、うんうん分かる分かる。可愛いから俺も欲しいと思ってたんだよなー」


「「「「!?」」」」


「あっごめんな、話全然分からんけど混ざってみた、てへっ」


 こうして笑一は今回の騒動の中心である女子グループに接触を図るのだった。







***







 笑一が会話に混ざるとすぐに「どうしてあんたがここにいるの!?」「会話に混ざってこないで!」など、予想通り散々な言われようだったが、笑一は気にすることなく話を続けた。


「いやー悪い悪い。ちょっとお前らに聞きたいことがあるだけなんよ」


「別にあなたに話すことなんてないわ」


「まぁそう言いなさんなよ。回りくどいのは抜きにして直球で聞くけども、星宮と何があったんだ?」


「なっなんであんたがそのことを!?」


「いや、クラスでも噂されてるし、何よりいつも星宮と行動してたお前らの態度を見りゃ、何かあったなんて大体予想は尽くしな」


「...それで?あなたは陽向の味方をしているのかしら」


「ん~まぁ今日のことも合わせると、スマイルとして星宮の方に付くのは普通だわな。過剰な無視に日直時の嫌がらせ...どっちが悪いかなんてもはや自明だろ?」


 今日の事と一緒に日直の黒板の件について話すと、女子たちの顔に動揺が見て取れたが、中でも一人真顔を貫いていた本条由美が笑一に話を続けた。

 由美は、濃い紫色の髪を肩まで伸ばし、左の目の下には泣きぼくろ、モデルのようにすらっとした容姿しており、陽向ほどではないがその大人びた容姿から男子たちの噂の的になることも多い。


「あら、私たちは陽向と距離を置いているだけで何かした覚えはないわ」


「...なるほどな。まぁ今はそのことについてとやかく言うつもりはないけどな。とりあえず、最初の俺の質問に答えてもらっても良いか?」


「...分かったわ。あなたに陽向がどれだけ最低な女か教えてあげる」


 そうして由美が中心となり、今回の騒動の原因について話を始めた。







***







 由美たちの話を一通り聞き終わった笑一だったが、陽向の語った内容とおおむね同じで目新しい情報はなかった。

 グループのチャットで由美の彼女である亮太と陽向が写った画像を目にし、陽向を糾弾したというのが話の主な内容だった。

 話を聞き終わった笑一は、気になることを由美たちに聞いてみることにした。


「話を聞いて思ったんだが、森下っていう先輩に非はなかったのか?」


「亮太先輩がそんな浮気みたいなことをするはずがないわ!」


 亮太の話を振ると、真顔を貫いていた由美の様子に変化があった。


「亮太先輩は真面目で、優しくて、義理堅い人なの!それに亮太先輩から私に告白もしてくれたのよ?浮気なんてするはずがないじゃない!」


「でもその画像じゃ、先輩が陽向の肩を支えてるんだろ?」


「どうせ陽向が亮太先輩を誘惑して、私から奪おうとしたに決まっているわ!」


 由美以外の女子たちからも亮太は《良い人》だという声が上がり、後は亮太本人に聞くしかないなと笑一は考えた。


 また、笑一はもう一つの気になることについて聞くことにした。


「ちなみになんだけど、その二人の写真を撮ったのって誰なんだ?」


「あたしだけど」


 そう答えたのは、女子グループの一人で、髪を金髪にした如何にもギャルという感じの横井梨沙よこいりさという女子だった。


「横井はその日たまたま近くを通りかかった時に二人を撮ったんだよな?」


「近くの服屋に行こうとした時に二人の姿が見えて、なんかヤバい雰囲気を感じたから咄嗟に撮ったんだし」


「写真を撮った後の二人を横井は見てたのか?」


「ん~と、陽向が急にこっち側に走ってきて、私は二人に気付かれないように物陰に隠れたし」


「...ふ~ん、なるほど。じゃあ横井は写真を撮って隠れた後、二人とは接触せずにそのまま帰って情報をグループに伝えたということで良いか?」


「そうだけど」


「オッケー。聞きたいことは聞けたし俺は教室に戻るわ。話してくれてサンキューな」


「聞いてどうするのかは知らないけど、陽向が悪いに決まっているわ。あなたも陽向には関わらない方が良いんじゃないかしら」


「善処させてもらうわ、んじゃ」




 そうして話を終えた笑一は、女子グループから離れ、教室に戻ろうと廊下を歩いている。

 話を聞いている際に、笑一はある会話の内容に違和感を覚えた。

 また、この件にはもっと大きな何かが隠されているような気がすると、笑一には感じられた。


 とりあえずできることから一つずつやっていくしかないと気持ちを引き締めながら、ポケットの中に片手を突っ込み、もう片方の手で教室の扉を開けたのだった___。


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