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プロローグ

よろしくお願いします。




「秋山さんっ!僕と付き合ってください!」


「片山くん、こちらこそよろしくお願いします」


 空の色がオレンジ色に変わる頃、校庭に二人の男女がいる。

 二人は想いを通じ合わせ、晴れて恋人同士になれたようだ。


 そんな二人を陰から見守る男が一人いる。


「これにて一件落着だな」


 今回の依頼は、想いを寄せている女の子に最近元気がないため、その原因と解決に付き合ってほしいというものだった。

 その原因について調べていくと、どうやら女の子は大切にしていたキーホルダーを学校のどこかに落としてしまったらしく、見つからなくて困っているということだった。

 そこから男は依頼者と一緒に学校内を捜索し、三日目にしてそのキーホルダーを中庭の植木近くで見つけた。

 そのキーホルダーは依頼者がその女の子と二人で水族館に行った際に、依頼者がプレゼントしたものであったらしく、自分がプレゼントをしたキーホルダーがなくなったことでその女の子が元気を失くしていたことに気付いた依頼者は、これを渡す際に告白もするということで今に至っている。


 案の定、告白は成功し、幸せな時間を共有させてもらった男は、二人の笑顔を眺めながら、満足げに校庭を後にしたのだった___。







***







 海明かいめい高校は県内でも有数のマンモス校であり、多くの生徒に加え、多くの部活動が存在している。

 数ある部活動の中で校内一と言っても良いほど、多種多様な評判を耳にする部活動がある。

 それが『みんなを笑顔にするための同好会』、通称『スマイル』だ。

 『同好会』とあるように、このスマイルに所属する生徒はほとんどいない...どころか、たった一人の部員で成り立っている同好会なのである。

 その部員兼部長がスマイルを多種多様な評判の渦に巻き込んでいる元凶であり、彼が校内一の変人と噂されている所以ゆえんでもある。


 その男の名前は綾瀬笑一あやせしょういち


 ボサボサの髪で目元を隠していて、身長も平均くらいの一見クラスの端にいるような冴えない男だが、性格や態度は冴えないという印象からはかけ離れ、物怖じしない言動を行い、急に会話に混ざってくるなど、不思議な男である。

 その見た目とのギャップと、奇妙な部活動を創設したということから周りからは腫れ物扱いされ、学校の生徒たちから変人認定をされているというわけだ。

 本人は全く気にしておらず、どうして周りが自分に話しかけてこないのか不思議がっているくらいだが...


 現在は休み時間ということもあり、多くの生徒が束の間の休憩時間を友人たちとの雑談などに使っている。

 そんな2年7組をぐるりと自分の席から眺めていた笑一は、ふとクラスの一角に目を向けた。

 そこでは一人の女子生徒がぽつんと自分の席で俯いており、その顔からは暗い雰囲気が漂っている。


「みんなを笑顔にするのが俺の役目だもんな、母さん...」


 そして笑一は、その女子生徒とどうやって話そうかと考え始めたのだった。







***







 放課後、笑一は玄関で一人の女子生徒に声を掛けた。


「星宮、俺と話でもしないか?」


「は?なんで私がアンタと話さなきゃいけないのよ」


 笑一が声を掛けたのは、休み時間の際に一人で席に座っていた女子生徒である、星宮陽向ほしみやひなただった。

 陽向は、街を歩けば誰もが振り返るほどの整った容姿、モデル顔負けのすらっとした身長、クリーム色の髪を肩の少し下くらいまで伸ばし、緩く巻いてある綺麗な髪をシュシュで結んでポニーテールにしている。

 制服は軽く着崩し、スカートも短くして、いかにもギャル風な装いだが、実際クラスでもカースト上位に位置しているギャルグループのメンバーであり、またその容姿から高嶺の花として男子からの人気も凄まじい。


 そんな普段は周りに取り巻きが大勢いる陽向が、今日はずっと一人でいたことが気になり、笑一は陽向に声を掛けた。


「今日はいつも周りといるのに一人だったろ?それって何かあったからなのか?」


「っ!...あんたには関係ないでしょ!」


 笑一の言葉に動揺を見せた陽向だったが、会話を終わらせ一人で帰って行ってしまった。

 これは話してもらえるところから始めないとな、と笑一は苦笑した。

 というのも、陽向は男子には一定の距離を取っていることで有名で、告白をするほとんどの男子たちは陽向の冷え切った様子を見て告白の勢いを失くし、最後まで気持ちを伝えられないそうだ。

 そんなクールな陽向のことを学校では『氷姫こおりひめ』と呼ぶ者もおり、果たして事情を話してくれるまでの仲にはなれるのだろうかと笑一は思った。

 そうして思案に耽っていると、玄関に聞き覚えのある集団の声が聞こえてきたため、笑一は下駄箱の裏側に移動して耳を傾けた。


「陽向、今日は私たちにハブられてずっと一人だったよね~」


「ほんとそれな~。ハブられて当然のことをしたんだし自業自得って感じ~」


「由美の彼氏取ろうとしたんだから当然だよねー、由美」


「陽向があんな最低な女だったなんて思わなかったわ、だから私は当然のことをしたまでよ」


 キャッキャと笑い声を上げながら女子集団が遠ざかっていくのを笑一は確認した。


「これはかなり根が深そうだ」


 大変な問題に首を突っ込んでしまったという自覚はあるが、笑一の頭には暗く沈んでいた陽向の顔が思い浮かんでいた。


「でも...俺は必ず星宮の笑顔を取り戻す」


 決意を新たにした笑一は、これからの予定を考えながら帰路に就くのだった___。


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