星々とキャットテイル
シュウクリムを食べようとした時、たまたま散歩中と思われる隣り近所にお住みの、若いのに食いしん坊で太ってしまったニャン太郎さに出会った。
ジッと僕を観ている。
視線を追うと…正確に言えば僕の手元のシュウクリムに視線がロックオンされているのが分かった。
途端に、彼から発せられた、光りを纏った星達が、パラパラと僕にぶつかって来たニャ。
それは、それは雨霰で綺羅綺羅で美しく、この僕の三角円錐のオーラの幕にコンコン跳ね返り散って消えていく。
ぶつかる度に、カコンカコンと火花のような光りが飛びて、なんて綺麗ニャー。
…今、当たっているのは、菓子に対するニャン太郎さの純粋な好奇心と思いが、光りの星粒となりて僕に注いでいるニャン。
…彼奴め、なんで菓子に対してだけは純粋で真摯ニャんだよ…呆れてしまう。
実は、生き物と生き物の間には、対象をみると、気持ちが光りの粒となりて移動していくのニャー。
物質文明を選んで、その感覚が退化してしまった人間には、ほとんど見えニャイけれど。
大昔は、人も近づけた手と手の間で、互いの思いを乗せた光りの粒を交換できたニャ。
僕ら猫も、互いに光りの星々を交換しあって、シンフォニーを奏で影響しあっているニャ。
それ程に親しくない相手ならば、傘を差してカコンカコンと弾くニャン。
ニャン太郎さが、僕を好意的な好奇心丸出しの笑顔で見て来るのは、僕がお姉さんから貰ったニューブリッジ土産のダブルクリーム入りシュウクリムなる西洋菓子を見てしまったからに他ならないニャ…。
…しまったニャ。
ニャン太郎さの瞳がキラリと光った。
(それ、なあに?美味しいの?くれるの?くれるの?それ、美味しいニャ?)
ニャン太郎さから、発せられた星粒が傘にカコンカコン当たる度に、その気持ちが伝わって来る。
その食欲と好奇心は、純粋で綺麗だけれども…はっきり言ってウザイニャ。
そして、このシュウクリムなる菓子は、僕がお姉さんから貰った大事な一個しかない有限なものであり、食べるとなくなってしまう貴重なモノなのニャン。
これは、断じて渡すわけにはいかニャいのである。
…カコン、カコン!
(でも、半分くらい、いいよニャ?…だって君と僕の仲だろうニャン?)
ニャン太郎さの、些かの悪気のない食べたい純粋な気持ちが、伝わって来る。
(そう言えば、昔、生き別れたお菓子に似てるニャよ。それって、もしかして…もしかしなくても僕のニャン?)
なんて奴ニャん…こいつ、スッカリ食べる気でいるニャ!?
しかも、自分に都合良く記憶まで捏造して、しかもそれを信じようとしているニャ。
…信じられニャい。
オマエ何言ってくれちゃっているの? そんな思いを乗せて、こちらからも星々を発射。
光りの乱反射、互いに撃ち出す光りの星の奔流が辺りを席巻する。
…
…
そしたら、ニャン太郎さは、埒があかないと思ったのか真面目な、賢し気な顔で僕に語りかけて来たのニャ。
「いやいや、僕も他猫の獲物を見たからといって、僕のモノと言う厚顔無恥な振る舞いはできないニャニャ。だから、ここは間を取って半分ずつにしようではないかニャ?」
…いやはや、何言ってくれちゃってるニャンよ。
あんた、もともと全く関係ないじゃんニャ。
それを、さも譲歩したかのような顔て、半分寄越せとか、盗っ人猛々しいにも程があるニャン。
僕のダークマター入りの暗き星がザワザワと湧き上がり、そ、れを撃ち出したけども、それらはニャン太郎さのバリアにカコンカコン当たって、全て弾かれ砕けてしまった。
コイツ、どうやら、聞き入れる気は全く無いらしいニャ。
しかしながら、僕は僕で考えたニャ。
ニャン太郎さは、隣猫ニャ。
彼奴の理屈は、異次元すぎて全く理解し難いけど、それでも、お隣猫ニャ。
日本にはお裾分けという、古来からの概念が存在するニャ。
それは決して貰う側から強要するのではなく、譲る側からの自己の幸せを周りに譲ることで皆んな幸せになる自他共栄の有り難き概念ニャ…ここはご先祖様に敬意を示して多少なりとも譲るニャ。
…
そう決めた途端、お腹やお胸が暖かくなって、何故かお腹一杯な幸せ気分でスッキリとした心持ちになったニャ?
その僕の気持ちは、ライスシャワーのように光の波となりニャン太郎さに降り注ぎ、大部分パチパチ跳ね返っていたけど…ほんの僅かな何粒かは、突き抜けて届いて、その度にニャン太郎さは不可思議な顔をしていた。
その後、仲良く食べましたニャ。
…
ニャン太郎さは、「ウにゃウニャ、コレは生地がモッサリしていて、折角の美味いクリームを活かしきれていない…普通のシュウクリムの方が完成されて、美味いニャ…ゲフ。」
などと、コメントを残し、だが、満足そうな様子でノタノタと去っていった。
…猫間においても、相互の理解はなかなか難しいニャンね。
そう思っていたら、…ニャン太郎さは振り返り、思い出したかのように「ご馳走様ニャ…。」と言って来た。
すると、…たった一粒の小さな弱々しい光りを放つ星が彼からヨタヨタと飛び立ち、僕にパチリと当たって吸い込まれるように消えた。




