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「いや、そうじゃないけど……」
「なら、さっそく人を集めて発掘してあげないとな。これは爺ちゃんから俺への遺言だ!」
埋蔵金伝説というのは全国にあるものだから慎重にならないと、と背中に投げかけたときには遅かった。
狭いコミュニティの中で噂はあっという間に広がり、地方のテレビ局の耳に入ったことで、忽ち全国に伝播した。地方都市のさらに外れにある街には、取材班や見物客が毎日のように押し寄せ、真はすっかり有名人となっていた。
「えー、お集まりしました皆さん、ついにこの日がやって参りました。数多のご声援、資金提供の甲斐がありまして、ひとつの重量箱が見つかりました。誠にありがとうございます」
銀山の発掘調査が行われて約一年。入り組んだ坑道の奥から木箱が掘り出されたことで、世間は騒然となった。後日中身が解禁されるにあたり、改めて調査団、考古学者、報道記者、埋蔵金ハンターなどが銀山の前に駆けつけた。
シャッターを切られながら、友信は隣に立つ真の腕を肘でつつく。大勢の人々に囲まれ、まさか本当に埋蔵金を発見して注目されるなど、思ってもみなかったのだ。
「……何で僕まで」
「古文書を解読したのはお前だぜ。それに、俺一人より見映えするだろ」
真は最前列にいる父親に手を振る。一般見物人の括りにいる彼は、三久田我蔵の子孫ということで頻繁にカメラを向けられていた。まんざら嫌そうでもない。
「では、いよいよ蓋を開けたいと思いまーす。みんな、瞬きするなよ」
真は拡声器を地面に下ろし、長机に追いた木箱に手をかける。回りは一斉に静まり、世紀の瞬間を逃すまいと固唾を呑む。真がゆっくりと蓋を上に開ける。一同の視線は、箱の中に注がれた。
「……なんじゃこりゃ」
目にも眩い金貨銀貨のおでまし――ではなく、誰がどう見ても石と砂の詰め合わせだった。お歳暮やお中元にしたって、こんなものは見たことがない。周りに流れる微妙な空気を感じとった友信は、何となく蓋をひっくり返してみた。人は窮地に立たされると、意味のないことをするものだ。
だが意外なことに、手紙のようなものが貼りつけられていた。友信はそっと剥がす。つづら折りにされた紙を恐る恐る広げると、豪快な文字である言葉が書かれていた。
「まんまと騙されおったな。こちとら赤字で財宝なんてないもんね。だから夢だけは残してやる。楽しかっただろ、わーいわい」
友信が震える声で読み上げると、真は我に返って声を張り上げた。
「これが五百年の時をかけて行われた、三久田家の壮大なエイプリルフールだ!」
皮肉にも、今日は四月一日だった。記者の一人がフラッシュをたくと、他の記者たちも揃って写真を撮り始める。盛大な拍手は止むことなく、季節外れの雪が肩を濡らした。