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2:クズ令嬢、戸惑う。

 王子殿下からご指名された私は、あまりの驚きに声も出なくなってしまっていました。

 ……これは何かの間違いですか? 夢ですか? どなたか夢って言ってください。


 戸惑う私に対し、公爵令嬢リーズロッタ様と聖女ダコタ様が、同時に怒声を上げられました。


「まぁっ、なんてこと!?」

「げ、あのクズ令嬢を!?」


 こんな公の場で悪口を言うものじゃありませんよ、ダコタ様。

 リーズロッタ様も私への侮蔑の色が濃すぎてバレバレです。


 二人の令嬢がスペンサー殿下を睨みつけるも、殿下は無視して私の方へ。

 うわわ、どうしよう。来ちゃいます。すぐ目の前に来ちゃいます……!


「君がダスティー子爵令嬢で間違いないね」


 私はダスティー子爵令嬢。貴族界のクズの中のクズ、道端のゴミのように目立たず生きてきた女。

 将来は平民としてどこかの農村でスローライフを送ることが夢。


 なのにどうして話したこともない王太子殿下に詰め寄られているんでしょうか。


「は、はい……。私はダスティーですがいかが致しましたでしょうか」


「君と婚約を結びたい。いいかな?」


 いや、普通に嫌ですけど。

 だって王子争いを横目に見ながら「馬鹿だな〜」とか思ってたんですよ、さっきまで。

 そんな私が王妃になれますか? なれませんって。

 というかこんな場所で婚約結んじゃっていいんですか? こんな貧乏子爵令嬢と? 親の承認は要らないんですかね。


 聞きたいことは山々すぎたのですが、しかしNOと言ってしまえばどんな目に合うかわかったものではありません。

 相手は王子殿下なのです。うっかり迂闊なことを言ったら一家全員虐殺されてもなんら不思議はないのです。

 破滅寸前の子爵家、その破滅が『死』という形に変わっては大変です……!


 どうしたらいいでしょう?


 公爵令嬢と聖女様の視線が鋭すぎて、こちらの顔に穴が開いてしまうかと思うほどです。これ、王子殿下との婚約を受けたら絶対に恨まれますよね……。

 あんなに自分アピールをしまくったのにこんなクズ令嬢に取られたら、もしかしたら本気で殺しに来るかも。


 断っても死、受け入れても死。

 ……詰んでますね。


「私はその。王子殿下に足りる存在ではなくてですね、そ、そ、その、あの、えと」


 私、人前で喋るの苦手なのです。しかも王子殿下の前とか、無理、絶対。

 吃りすぎて何言ってるのかわからないような顔をされてしまいました。私の人生終わったー!


「お、お、親に決めてもらいます! だ、だから、私からはお答えできませぬ!」


 変な口調になってしまいました。できませぬって……。

 私の、決死の覚悟を込めた言葉に、スペンサー殿下は「う〜ん」と唸ると、


「親に決められた政略的なもの、つまり風習というのは僕は嫌いでね。だから、僕は僕の手で君を選んだ。君も君の手で、僕を選んでほしい」


 私に逃げ場はありませんでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 私は、仕方なく、その場でお受けいたしました。

 憧れの平民スローライフがぁぁぁぁぁぁ! どうしてくれるんですかぁぁぁぁぁ!


 パーティー参加者たちからも変な目で見られっぱなしです。

 私だって殿下と婚約したくて婚約したわけじゃないんです。正直好きでも何でもないんです。


 ただ、没落する運命にあった子爵家が少しでも立て直せるなら父は喜ぶでしょう。

 それに断って処刑されることも考えると、こうするしかなかったのでした。


 けれど私はこれからどうやって生きていけばいいでしょう。

 今まではただクズと罵られ笑われ、それでも構わなかった。けれどこれからは王子殿下の婚約者。つまり未来の王妃なのですよ……?


 とりあえず家に帰って父にこのことを報告し、なんとかかんとか収めていただかないと。

 私へ向けられる悪意への対処は誰にお願いしたらいいのでしょう。ダコタ様など人を殺せそうな目で私を見ていますし。

 やべーじゃん! まじやべーじゃん!


 どうして王子殿下は私などを選んだのですか。神様、恨みますよ!


「ダスティー子爵令嬢、ちょっといいかい」


「……はい?」


 王子殿下が私の体を抱きました。

 そして私が何かを考える暇もなく、唇と唇が触れ合っていたのです。


 ここは、学園創立百周年の記念パーティーの会場。そのど真ん中でした。


「い、い、ひぃ――!!!」


 何が起こっているか理解した瞬間、耐え難い羞恥心が湧いて来て、私は顔を真っ赤にしてしまいました。

 私の大切なファーストキスを、好きでもない人に奪われてしまいました。うえーん。それもこんな人前で!


 人前でキスできるのなんてキスの上級者だけですって! 恥ずかしすぎます。死にます。死んじゃいますー!


 私はそれから何度かキスをされ、そしてようやく解放される時にはもう、目が死んでいたのでした。

 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

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