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16/20

16:公爵令嬢と聖女、決闘する。

 私が婚約破棄宣言をしてからしばらく様子を見守っていますと、どうやら王子争いが始まったようでした。


 聖女ダコタ様がスペンサー殿下に泣き縋り、そしてそれに対抗するようにリーズロッタ様が前に出る。

 学園に通っていた頃によく見た光景。しかし今はそれより幾分も激しく、ガチバトルという感じだったのです。


「……オネルド、少し見て行ってもいいですか?」


「ダスティー様は物好きですね。俺は別に構いませんけど」


 王子争いの結末は少し気になる気がしました。私ももう部外者じゃないわけですし。

 せっかくなので、どちらが殿下の心を射止めるのか……感激と参りましょう。


 銀髪のクール美少女リーズロッタ様とピンクブロンドゆるふわ美少女のダコタ様。

 公爵令嬢と聖女、王子争いをなさるお二人の、最終勝負が始まるようです。


 でも……当のスペンサー殿下といえば、相当にショックだったのかして、壊れた人形のように何事か呟いているだけなのですが。

 というか、精神崩壊してませんよね? 私のせいでそんなことにはなってませんよね?


「ダスティーダスティーダスティー」


 完全に壊れてますね……。どうしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あたくしは、スペンサー様の笑顔が好き、ですわ!」


「ダコタは王子様の声が大好きぃぃぃっ」


「あたくしは、あたくしは、彼の優しさを愛していますわっ!」


「そんならこっちは王子様の綺麗な金髪が好きだ!」


 何でしょうこの戦いは。

 唾を飛ばし合いながら、スペンサー殿下の好きなところを列挙していくというだけのはずなのに、まるで殴り合いでもしているかのように勝負は白熱していました。


 スペンサー殿下にもこんなに愛されるところがあったのか、と私が驚いている間にも勝負は続きます。


「スペンサー様のたまに見せてくれる拗ねたところが可愛いのですわ!」


「王子様の灰色の瞳とかもう最高!」


「ダコタ、あなた容姿にしか興味ありませんの!? あたくしは、スペンサー様が『リーズロッタ』って呼んでくれる時の息遣いが好きですの!」


「王子様の超イケメンで頭残念なとことかがいい!」


 頭残念って言ってしまうんですね。

 そもそもこの戦い、どうなれば勝ちでどうなれば負けなんでしょう? 好きなところが言えなくなったら負けでしょうか。

 そもそも、スペンサー殿下がやばいです……。私がお慰めした方がいいですか?


 そんなことを思っているうちに、二人の美少女はやがて殴り合いを始めてしまいました。

 もちろん、スペンサー殿下への愛を叫びながらですが。


 殿下はその中で、私をじっと見つめていました。

 そんなに私のことが好きなんですか? 目の前に、ハイスペック美少女が二人もいるのに?


「――スペンサー王子殿下、どうなさいましたか?」


 私は少し声をかけてみました。

 すると、殿下の顔がパァッと明るくなります。……わかりやすすぎますよ?


「ダスティーダスティーダスティーダスティー、うぅ、行かないで行っちゃダメだ僕のものだ」


「いいえ、殿下。残念ながら私、行かなくてはならない場所があるのです」


 オネルドに抱かれたままの私。

 殿下は何を思ったのか、唇を震わせ。


「……リーズロッタじゃ、嫌なんだよ。君がいいんだ……!」


「申し訳ありませんがもう婚約破棄いたしました。ので、リーズロッタ様と」


「ダスティーダスティーダスティーダスティー」


 はぁ……どうしましょう?

 王子殿下がこのまま立ち直れなくなってしまったら、今王子争いをしているお二人に悪いです。

 立つ鳥跡を濁さず。ここを立ち去る者として、責任がありますね。


「王子殿下」


 私はオネルドから静かに身を離すと、彼の傍へ歩いて行きました。

 スペンサー殿下が私をキラキラした目で見つめてきます。まるで私だけがこの世界の全てであるかのように。


「――私、殿下の幸せを願っています。私なんかよりもずっと、あの方たちの方があなたを幸せにできるのです。けれど決して私はあなたのことを忘れたりはいたしません。ですから――」


 一方で決闘はさらに加熱していっておりました。


「スペンサー様の頑固なところですわ!」


「背が高いのがいい!」


「スペンサー様の垂れ目!」


「王子様の常軌を逸してるところ!」


「スペンサー様の唇!」


「掌!」


「あたくしを見つめる視線!」


 私は彼女らの様子を見て思いました。

 ――殿下、この方たちならあなたを溺愛してくださるに違いありません。今度は殿下が溺愛される番ですよ。

 

「私、応援していますから」


 私がそう言ったその時でした。

 背後で拳と拳がぶつかる音がして、美少女二人が叫んだのです。




「「彼の全部を愛してる!」」



 どうやら勝負は終わったようでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「引き分け……ですわね」

「なかなかだね、リーズ様」


 何を基準にかは知りませんが、どうやら引き分けになったようです。

 両者ともボロボロでした。それほどに本気の熱い戦いだったのでしょう。


「さて。あとは任せるべきですね。邪魔者はそろそろ行きましょう」


 私はオネルドの傍へ戻り、王子殿下に手を振りました。

 きっともう会うことはないでしょう、などと思いながら、


「ほんの短い間でしたが、楽しかっ……」


 しかし物事というのはそうあっさりとは終わらないのです。

 だって直後、王子殿下がこんなことを言い出したんですもの。


「――決めた! ダスティーを正妃とし、他二人を側妃とする!」

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