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12/20

12:執事、助けに来る。

「大丈夫ですよ、ダスティー様。俺が今からお助けします」


「オネルド!」


 これは夢でしょうか?

 いいえ、夢じゃありません。向かい合うご令嬢の姿、私を抱くスペンサー殿下の温もり、全てが現実。

 ただ、私が振り返って見つめる人物の姿が、あまりに現実離れをしていましたから、そんなことを疑ってしまったのです。


 まさか、彼が来てくれるなんて。

 オネルド。私が一番困った時に現れるというのは、まるで物語のような出来事でした。


「また邪魔者か!? 誰だ君は」


 殿下がたじろぎます。私はさらに強く抱きしめられました。


「子爵家の執事オネルド。ダスティー様を返してもらいましょうか」


 睨み合う二人の少年。

 片方はこの国の王子殿下、そして片方は没落貴族の家の執事。

 こうして向かい合うことすら通常はできないはずですが、しかしオネルドは少しも恐れている様子はありませんでした。


「オネルド!? ああ、あの炎からゴミクズを連れ出しやがった奴ですわね!?」

「え、あの? こいつがっ」


 リーズロッタ様とダコタ様が顔を見合わせました。

 彼女ら――どうやらダコタ様もあの事件には絡んでいるようですね――にとって、計画を邪魔した男であるところのオネルド。やはり敵対的な視線が向けられました。


「執事、君はどうしてここに来た。僕のダスティーを連れ戻すつもりなら、そうはさせないぞ」


「『僕の』とは重度のヤンデレ発言でございますね。ダスティー様は誰のものでもありませんが」


「僕の婚約者だから僕のに決まってるだろ!」


 スペンサー殿下はひょろひょろした方ですが、怒鳴ると迫力がありますね。

 男らしさを見せつけられて、しかし私の視線はオネルドに釘付けでした。だって、だって――。


 そして次の瞬間、「あっ」と声を上げたのはリーズロッタ様です。

 彼女はいやらしい笑みを浮かべると言いました。


「あたくしにいい考えがありますわ。執事さん、そのゴミクズをお掃除しておいてくださいませんかしら? あたくし、その泥棒猫のせいで迷惑しておりましたの。持ち出してくださるなら大歓迎ですわ」


 しかしオネルドは首を振り、


「もちろんそうしますが、ダスティー様をゴミクズだの何だのと侮辱するのは決して許しません。例えあなたが公爵令嬢だとしても」


 私は彼が来てくれた嬉しさと同時に、戸惑ってもいました。

 こんなところまで、どうして。私を子爵邸へ帰してしまったら、子爵家は潰れてしまうというのに……。


 一方、ピンクブロンドの髪をぶんぶん振ってダコタ様が抗議の声を上げています。


「誰だか知らないけど、クズ令嬢は渡さないよ! ダコタがちゃんと可愛がってあげるんだから!」


「聖女、何を言っている。それにクズ令嬢とはダスティーのことか。不敬だぞ」


「不敬も何もありゃしないよ! それにクズとリーズ様のことは名前で呼ぶのに、ダコタのことは名前で呼んでくれないなんてずるいじゃん!」


 なんだか大騒ぎになって来ましたね。

 私を巡り、殿下は守ろうと必死、オネルドはこちらへと歩み寄ってきて、女二人は私をどうにかしようとギャアギャア叫んでいます。

 私はあまりのことに黙り込むしかありませんでした。この場でダコタ様に処分されたくはありません。が、王子殿下の怒りを買うことも恐ろしいのです。


 オネルドは一体、どういうつもりでここへやって来たのでしょうか。


 私を逃がしてくれるつもりなのだとしたら、それはできません。

 逃げたい。逃げたいのです。けれどやはり、両親や殿下のことを考えるととてもとても……。


 けれどその選択をすれば、少なくともリーズ様は引き下がってくれるはずでした。

 ダコタ様はどうにでもなるとは言えませんが、逃げ切ることはできないこともありません。問題は殿下なのです。


 今、殿下とオネルドがもしも戦うようなことになってしまえば、オネルドの負けは必至でした。女衆はスペンサー殿下の味方なのです。


 私は今、何と言えばいいのか。

 そう考えあぐねた末にやっと、弱々しく答えを絞り出しました。


「殿下……、放して、ください」


「ダスティーどうしたんだい? もしやこの男について行くだなんて言わないだろうね? ダスティーは僕のものだ。君だってそれが一番だろう?」


「考えさせてください。お願いします。彼としっかり話をつけたいのです」


 スペンサー殿下の胸の中では、落ち着けませんから。

 だって殿下は私をきつくきつく抱き込んでいるのです。まるで私を絞め殺したいかのように。

 いいえ、他の何者にも盗られたくないからそうしているに違いありませんでした。


「――ああ、わかった。ちょっとだけだよ? 僕はあの女たちを追い払っておくから」


 私が逃げないと思ったのでしょうか?

 殿下は優しく微笑んで、私をそっと放してくださいました。ただし釘を刺すのを忘れずに。


「ダスティー、君は僕の妻となるんだ。いいね?」


 私は無言で、オネルドの前へ向かいました。

 背後からダコタ様の声がします。しかしそれも頭の中から追いやり、私は今オネルドだけのことを考えます。


 そして、問いかけたのです。


「どうして私を……助けようとしてくださるのですか?」

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