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1:クズ令嬢、王子殿下にご指名を受ける。

 なんで皆さんあんな方を欲しがるのでしょう。私には理解できませんね。


 自分の魅力を王子殿下に見せつけては、「自分が妃にふさわしいのだ」と主張を繰り返す少女二人を横目に、私はそんなことを思っておりました。

 もちろん口に出せば不敬罪で即逮捕ですけれども、思うのは勝手ですものね。


 王子争いをしていらっしゃるのは二人の令嬢です。

 片方は、公爵令嬢のリーズロッタ様。そしてもうお一方は平民上がりの聖女であられますダコタ様。

 どちらも王子――スペンサー殿下にメロメロなのです。


 スペンサー殿下は顔はいいです。

 顔は、いいです。


 でもそれ以外どこに取り柄があるというのでしょう?

 第一王子にして王太子の最有力候補? それはわかります。でもそれを除いてしまえば、力は弱いですしその……王太子教育をサボりがちなのだそうです。

 そんな不真面目極まりない殿方を手に入れるためにあんなにきいきい叫ぶなんて、気が知れません。


「スペンサー様、あたくしの美貌を見てくださいまし!」

「ダコタの方が可愛いよね。ねぇ、王子様?」


 リーズロッタ公爵令嬢が尖った美貌、聖女ダコタ様がゆるふわ可愛い系。

 しかし王子殿下はまるで相手をしていないような……いつも困った顔をしてます。


 まあ、そんなのは私には一切関係のないことなのですが。


 だって私は彼女らのように王子殿下と喋ることすら皆無な地位ですからね。

 家柄は子爵家。しかも、男爵家に簡単に負けてしまうほどの貧乏。

 そう、うちは落ち目貴族なのです。そしてその家の一人娘が私。


 まだ、私が才覚がある娘なら良かったのでしょうけれども。

 私は残念ながら、人の目を引くほどの見目麗しさも持たず、その上、勉学の成績も良くないのです。そして口下手でほとんど他人と喋ることができません。大金を稼げるような力もありません。

 つまりクズ。端的に言ってしまえばクズだったのでした。


 そんなクズ令嬢――これは他の令嬢たちの悪口なのですが――であるところの私は、学園を卒業したら平民落ちし、身につけた教養でなんとか生き抜くつもりでいました。

 どうやってもどこかへ嫁ぐことなど考えられません。自分の身は自分で養わなければいけないですもの。


 別に私に貴族の誇りのようなものはありませんので心配要りません。むしろ貴族のしがらみから解放されるなんて最高!

 ですが、そのような未来は、なぜか訪れなかったのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「公爵令嬢リーズロッタ、君との婚約を破棄する!」


 どうして貴族学園創立百周年記念のパーティーでこんなことが起きているのでしょう。

 噂の婚約破棄。他国から話だけは聞いていましたが、実際に立ち会うことがあるなどとは夢にも思いませんでした。


 リーズロッタ令嬢、殿下と婚約していらしたんですね。それなのにアピールしてたダコタ様すごい……。

 って感心している場合じゃなかった。私はこの場から逃げるべきか動かざるべきかを真剣に考えなくては。

 うん、多分逃げない方がいいですね。見て見ぬフリをしていましょう。


「な、なんですって!?」リーズロッタ様が激昂していらっしゃいます。「あたくしとの婚約を破棄!? どうして! ……ダコタ、冤罪を被せてくれやがりましたのね!?」


 何を言ってるんでしょうこの人は。口悪いですし冤罪って。

 そもそも罪状は何ですか? まだ断罪されていませんよ。


「し、知らないけど! え、もしかして王子様、あたしのこと選んでくれた……!?」


 なんだか満面の笑顔で喜ぶ聖女ダコタ様。

 歯を見せるのははしたないですよ、と注意して差し上げましょうか。いいえ多分やめた方がいいですね。

 クズはクズとしてのあり方を、ですよね。


 私はそれからしばらくただ聞いておりました。


「別に断罪するわけではない。しかし俺は本当に愛せる人を見つけてしまったのだ」


「あたし!? あたしですよねっ。やったー! リーズ様に勝ったぜぇ」


「本当に愛せる女性……! あたくしを差し置いてダコタを愛するなんてひどいですわよ!」


 馬鹿だな、この方たちは。

 公衆の面前で恥を晒しすぎでしょう。色恋沙汰をこんなパーティーの最中にやるなんて……見苦しいです。


 けれども、どれだけ彼ら彼女らが恥をかこうと私は構いません。

 ああ、早くこのつまらない夜会が終わってくれないでしょうか……。


「違う! 俺の選んだ相手、それはダスティー子爵令嬢だ!」


 ……?

 今、あの方――スペンサー殿下はなんとおっしゃいました?


 金髪に灰色の瞳をした美少年。彼がまっすぐ私に指を突きつけております。いくら私が下級貴族とはいえ無礼ですよ。

 しかしそれどころではありませんでした。だって私は紛れもなくダスティー子爵令嬢と呼ばれる人間だったのですから。


 な、なんで王子殿下がこのクズ令嬢をご指名なさったのですか……!? 頭が真っ白になり、私はただ唖然とすることしかできなかったのでした。

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