ターニングポイント
四十数年前、宏一郎は小学校の高学年だった。目黒の小学校に通っていた…
とにかく外で遊ぶのが好きな男の子で、もっぱら、近所の神社の境内が遊び場だった。学校が終わるといつもその神社に遊びにきていた、かくれんぼもしたし、野球もした。ビー玉もしたし、近所のお兄ちゃんがラジコンを飛ばすのを見ていたのもこの神社だった。境内は子供の遊ぶのにはちょうどよい大きさだったこともあって、缶けりなんかを大人数でやったこともあった。
はやは思い出していた、朝から晩までよく遊ぶ子だったわ。
その神社は八幡さまであったが、本殿の横にお稲荷さんの小さな祠があって、元々はやはそこにいたのだった。そのお稲荷さんは小さいけど格式のあるお稲荷さんだった。はやはそこで眷属として働いていて何年も宏一郎のことを見ていたのだ。
はやたち眷属にはついている人間の10年ほど先まで見通せた、そうして、これから宏一郎に起こる荒波のような試練に心を書き乱されてもいたのだ。
はやとしても宏一郎のことがかわいくて仕方なかったようであって、そういう思いもあって宏一郎が10才になったのをきっかけにして宏一郎の家についていってしまったのだ。
しかし、はやが来て数日もたたないうちに、運命の歯車が少しずつ動き出してしまったのだった。
その日、宏一郎は給食当番で小学校で給食を配っていた、担任の先生から職員室によびだされてこんな風に切り出された。
宏一郎君は九州に親戚がいるのかね?親戚に不幸があったみたいでお父さんとお母さんがむかえにきているよ。早くしたくしなさい…
宏一郎にはその時ちょっとだけ違和感を感じていた。
そう…ちょっとだけ。
先生に微かに感じる不信感を宏一郎は大人になってからも時々思い出していた。
ひょっとしてあのとき、先生は何かを察していたのでは?と思ったりもした。
はたして宏一郎はそれから、大人になるまで、この町に戻ることはなかったのだ。
クラスメイトには宏一郎は忽然と姿を消したように見えたのだった。
これは宏一郎が生まれる前から決まっていたことだったとしても、はやには宏一郎が不憫でならなかった、友達にあいさつもしたかっただろうし…。
はやはいつも寄り添っていた、この家族が道を踏み外さないように。
次回、稲荷編第2部ターニングポイント(2)に続きます。(©️2022 keizo kawahara 眷属物語)