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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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僕を合宿に連れてって②

 この記憶を思い出すのは2度目だ。一度目は鎧武者騒動の最中で、いさなの怪我を心配した時だった。

 2度目だからか、あの時よりはっきりと輪郭を持った光景が立ち上ってくる。

「不思議なひと?」

「はい。おれは膝に怪我をしていて、すごくよく効く軟膏を塗ってもらったんです。河童の妙薬って、確かその時に聞きました。本物かどうかわからないけど」

「河童の妙薬ね。小僧を助けたのは、案外、マジの河童だったりしてな」

「河童には見えませんでしたよ。頭にお皿もなかったし」

「どんなひとだったの?」

「若いけどお年寄りみたいな話し方をするひとで――あ、着物を着てました」

「着物? 河原で?」

 いさなに指摘されて、氷魚は初めて疑問に思った。

「……言われてみると、不自然ですね。やっぱりおれの記憶違いかな」

 ちょうど日陰の細道に入ったこともあって、背筋が少し寒くなる。

「まさかそのひと、八尺はっしゃく様みたいな怪異じゃないでしょうね」

 追い打ちをかけるように、いさなが怖いことを言った。

「八尺様って、背の高い女の人の怪異ですよね。『ぽぽぽ』って言う」

「知ってるんだ」

「最近、ネットや本で色々調べてるんです。有名どころは知ってますよ」

 八尺様は身長が八尺――240㎝ある、白いワンピース姿の女性の怪異で、子どもをさらってしまうらしい。白いワンピースを着ているあたりがいかにも夏の怪談っぽいと思う。

「そうなんだ。――なんか、氷魚くんって、八尺様みたいなのに好かれそうだよね」

 いさなは悪戯っぽく言った。

「え? どういう意味ですか」

 背の高いきれいなおねえさんに好かれるのは大歓迎だが、怪異となると話はまた別だ。好かれるではなく憑かれる、ではないのか。

「言葉通りの意味。ね、凍月いてづき

 いさなが呼びかけるが、凍月は返事をしなかった。

「凍月? どうかした?」

「ん、いや、なんでもねえ」

「そう?」

「それより、まだ着かねえのか」

「もうそろそろのはずだよ。あ、見えてきた」

 いさなが指をさした方向に目を向ける。

 林の中に、煉瓦造りの趣を感じさせる洋館があった。

「すごい。――神戸の異人館みたいですね」

 ホラー映画に出てくる洋館みたいと言いそうになり、氷魚は慌てて言い換える。そんなことを口にしたら雰囲気ぶち壊しだし、第一館の人に失礼だ。

「あれ、ホラー映画の舞台みたいって言うと思ったんだけど」

「そ、そんなことないですよ」

 とは言ったものの、映画の主人公たちがたとえば雨宿りなんかで逃げ込んだあと、中でひとりひとり消えていっても違和感がないような外観だという思いは拭えない。あとは壁に蔦が絡まっていたり、屋根に怪しげな石像があったら完璧だった。

「的外れではないかもな。実際、住んでいるのは――」

 凍月は意味深に言葉を切る。

「住んでいるのは、なんですか、凍月さん」

「見てのお楽しみだ」

 面白がっているような凍月の声だった。

「うぅ……」

 急に怖くなってきた。しかしいまさら帰るわけにもいかない。

 洋館に向かって颯爽と歩き出したいさなのあとを、氷魚はへっぴり腰で追いかける。

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