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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭㉚

 あのときは手も足も出ず、ミオとふたり逃げ回ることしかできなかった。

 だがいまはいさなと凍月いてづきがいる。がしゃどくろにだって勝てるはずだ。

 そこまで考えて、氷魚は苦笑した。これじゃ虎の威を借る狐だ。自分はなにもしないのに。

 昇降口までやってきた。外にがしゃどくろの姿は見えない。

「見当たらないね。凍月、気配はどう?」

 いさなが、足下を歩く凍月に訊いた。

「薄いが、匂う。特定の行動がきっかけとなって出現するやつなのかもしれん」

「というと、校舎の外に出ようとする、とかですか?」

 氷魚の言葉に、凍月はうなずく。

「だな」

 いさなは自分の下駄箱を開けると、靴に履き替えた。氷魚もいさなに倣う。自分が履いていたスニーカーまでしっかりコピーされている。

 この異界学校を構築した魔術師が几帳面なのか、そもそもそういう術なのか。やはり魔術はよくわからない。

「じゃあ、行くよ。氷魚くんはわたしたちの前に出ないでね」

 がしゃどくろとの戦闘が始まったら、氷魚にできることはなにもない。せめて足を引っ張らないようにしなくてはいけないと思う。

「了解です」

 いさなに続き、氷魚は外に出た。

 途端、校庭の方から大きな地鳴りのような音が響いた。揺れがこちらまで伝わってくる。

「お出ましみたいだな」凍月が言った。

 見れば、校庭に立つがしゃどくろがこちらに暗い眼窩を向けていた。

「……大きくないですか、あのあやかし」

 さすがに校舎を超えるほどではないが、10メートル近くあるのではないか。

 ミオと一緒に遭遇したときは全長がわからなかったが、ここまでとは。

「そうだね」

 言って、いさなと凍月が歩き出す。自信に満ちた足取りだった。氷魚もあとに続く。

 氷魚たちを待っているのか、がしゃどくろは動こうとしなかった。

 校庭に到着する。

 いさなは刀を抜き放ち、がしゃどくろと対峙した。

 近づくと、ますますがしゃどくろの大きさが際立つ。巨人と言っても差し支えない。これだけ大きなあやかしにはお目にかかったことがない。

 いさなが刀を振るっても、足にしか届かないのではないか。影無の刀が強力無比だとしても、足を切ったぐらいで倒せるのだろうか。

「問題ないよ。わたしと凍月なら」

 氷魚の不安を見透かしたように、いさなは横顔を向けて笑みを浮かべた。

 その笑みを挑発と受け取ったのかどうかはわからないが、がしゃどくろが大きな拳を握りしめ、いさな目がけて叩きつけた。

 いさなは軽やかな足さばきで拳を避ける。工事用のハンマーでも叩きつけたような音が響き、砂埃が舞った。

 身を翻したいさなが刀を振るった。まったく力みのない斬撃が、がしゃどくろの腕を肘から断ち切る。重い音を立てて校庭に落ちたがしゃどくろの腕は、音もなく塵となって消えた。

 続けていさなは滑るように移動し、がしゃどくろの足を斬る。刃は、太くて固そうながしゃどくろのすねの骨をたやすく切断した。

 がくりと、がしゃどくろは体勢を崩して片膝を着いた。

「凍月!」

「おう!」

 いさなの呼びかけに応えた凍月がその身を巨大化させる。いさなは大きくなった凍月の背を駆け、跳び上がった。そうして、大上段に振りかぶった刃をがしゃどくろの頭に振り下ろす。

 そのままの勢いでがしゃどくろの身体を真っ二つに断ち切りつつ、いさなは地面に着地する。

 静かに呼吸を整え、納刀。

 同時に、がしゃどくろは塵となって消えていった。

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