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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭㉙

 いさなの影が蠢き、凍月いてづきが姿を現した。

 離れていた時間はさほど長くないのに、ひどく久しぶりに感じる。

 いさなは思わず凍月をぎゅっと抱きしめた。ふかふかの毛並みが温かい。

「おい、俺は猫やぬいぐるみじゃねぇぞ」

「いいでしょ。こんなときぐらい」

 凍月は鼻を鳴らしはしたものの、抵抗しなかった。

 凍月はいつもこうだ。いさなが必要としているときは、抱きしめさせてくれる。

 初めて会ったときから、ずっと。

「凍月、おじいさまと会ったよ」

「知ってる。懐かしい気配がしたからな」

「頭を、撫でてもらったんだ」

「よかったじゃねえか。あいつがそんなことするなんて驚きだがな」

「だよね。わたしも驚いた」

「本当は、おまえたちを甘やかしたかったのかもな」

「そうなの?」

「俺の想像だ。あれであいつもいろいろ悩んで……いや、これ以上はやめとくか」

 祖父とて、影無である前に人だったということだろうか――

「っと、悪いな、小僧。いいところを邪魔したみたいで」

 いさなが物思いにふけっていると、凍月は氷魚ひおに意味ありげな視線を送った。

「え?」

 氷魚はきょとんしている。凍月は呆れたように嘆息した。

「いや、なんでもねえ」

 先ほどの自分がしようとした行動を思い返し、いさなは顔が熱くなるのを感じた。

 勢いで、自分はとんでもないことをするところだった。凍月が出てこなかったら危なかったかもしれない。

「そうだ凍月。いまの状況、把握してる?」

「大体な。こっちの世界に飛ばされたとき、ほとんど封印されたみたいな状態になったが、気配や声を感じることはできてたよ。おまえたちの会話も聞こえてた」

「じゃあ、この学校は――」

「ぬらりひょんのジジイが作り上げた結界内にある空間だと思うぞ。おまえらの通う学校をコピーしたんだろう」

 大方はいさなの予想通りだった。しかし、疑問は残る。

「いくら強大な力を持つあやかしだからって、1人でこんな空間を構築できるの?」

「魔術師が手を貸してるんじゃねえか」

「魔術師……」

 やはりそこに行き着くか。

「春夜だったらもっとえげつないことをしてくる。違うから心配すんな」

 凍月は、いさなが思い描いた人物の名を出した。やはり凍月はいさなのことがよくわかっている。

「……うん」

「さて、そろそろ行こうぜ。あの猫女神が待ちくたびれちまう」

 いさなの腕の中から抜け出し、凍月は大きく伸びをした。

「凍月さん、ミオがどこにいるかわかるんですか?」

 氷魚が言うと、凍月は首を横に振った。

「いや。だが、見当はついてる」

「それらしい場所なんて、ありましたっけ?」

「さあ……?」

 氷魚に訊かれたが、いさなも思いつかない。

「なんだよ、わからねえのか? 小僧は気づきそうなもんだが」

「――あ!」

 すると、氷魚が声を上げた。

「もしかして、あの大きなガイコツですか。がしゃどくろ!」

「そっか。明らかに番人っぽいものね」

「ああ。となると、そいつさえ倒せば――」

「ミオも取り戻せるし、異界学校からも抜け出せる」

 氷魚の言葉を聞いた凍月は、にやりと笑った。

「そういうこった。散々いいようにやってくれたんだ。リベンジといこうぜ」


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