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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭㉘

「いさなさん」

 背後から氷魚ひおの声がした。涙を見られたくなくて、いさなは乱雑に手で目をこする。

 いまさら氷魚相手に取り繕っても仕方がないのだけど、先輩として最低限の見栄は張りたかった。

 頼りになって、強い先輩。――実際はそんなこと、ぜんぜんないのだけど。

 刀を握って立ち上がる。振り向く。

 こちらを見つめる氷魚と目が合った。

 ――ああ、この子は、いつもまっすぐにわたしを見る。

「結局、答えは教えてもらえなかったよ」

 いさなが言うと、氷魚は緩く首を横に振った。

「精神性、だったんだと思います」

 柔らかな声で、氷魚は言った。

「――え?」

 唐突に感じられ、いさなは小首をかしげた。

「いさなさんが影無に選ばれた理由。おじいさんは、そう言いたかったんじゃないかな」

「どうして?」

桜馬おうまさんは胸に手を当てて、いさなさんの頭を撫でていましたよね。あれって、そういう意味なんじゃないですか」

「――あ」

 言われてみれば――

 頭を撫でられたことで胸がいっぱいになり、そこまで考えがいたらなかった。

「……でも、わたしの精神性なんて」

 脆弱だ。決して強いものとは言えない。影無になって以来、何度折れそうになったことか。

 一方で、目の前の少年はどうだ。

 これまで怪異とは無縁だったのに、いさなと出会ってから何度も修羅場をくぐり抜けてきた。

 肉体的強さではない。精神の強さのたまものだ。

「氷魚くんの方が、ずっと強い」

 氷魚は、心底意外そうな顔をした。

「おれが?」

「うん」

「そんなことないと思いますが」

「でも、怪異と遭遇しても動じないよね。そして、立ち向かえる強さを持っている」

 一般人にしては度が過ぎているくらいの強さだ。少し、心配になるくらいの。

「おれ、立ち向かえてますか……?」

 自覚がないのか自信なさげに言ったあと、氷魚は少し思案して、

「ええと、強い弱いは別として、方向性なんじゃないですか」

「方向性?」

「はい。凍月さんと共に、強大な力を持つ刀を適切に振るえるかどうか。つまり、影無としての正しい精神のあり方。……春夜さんには、それがなかったのでは」

 言われて、思い当たるところがあった。

「――そう、か」

 自分が影無として正しいと、自信を持って言い切ることはもちろんまだできない。

 けど、春夜が影無として正しくないとは言い切れる。

 そして、彰也は間違いなく正しい影無だった。無論、祖父も。

「ありがとう、氷魚くん。なんとなくだけど、わかった気がする」

「それなら、よかったです」

 氷魚がやさしく微笑む。

 なぜだか、その笑みを愛おしく感じて胸がうずいた。唐突に、氷魚を抱きしめたい衝動に駆られる。

 いさなは無意識にそっと氷魚に腕を伸ばし――

「まったく。黙って聞いてりゃ、ややこしく考えすぎなんだよ、おまえらは」

 と、いさなの影から懐かしい声が響いた。

 いさなは氷魚と顔を見合わせ、

凍月いてづき!」「凍月さん!」声を上げた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます 両片思いの二人の関係進展するチャンスを仕方ないとはいえ潰したら駄目だろ凍月… 絶大な力なんて暴走が一番恐いんだから人としての有り様みたいなものが評価されて然るべきだ…
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