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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭㉔

 一体誰からの果たし状か。

 答えは深く考えずともすぐに見当がついた。

「いさなさん……」

 いさなは、氷魚ひおを安心させるように微笑んでから果たし状を広げた。素早く目を走らせる。

 すぐに読み終えたようで、果たし状をたたんだいさなは細い息を吐き出した。

「――桜馬おうまさんから、ですよね」

 この状況でいさなに果たし状を出すのは、いさなの祖父を置いて他にはいない。

「やっぱり、わかる?」

 いさなは苦笑すると、果たし状を氷魚に差し出した。読んでもいいということだろう。

 本文は簡潔で、『体育館で待つ』としか書かれていなかった。ものすごい達筆だった。

 氷魚はいさなに果たし状を返した。

 本物かどうかはわからないが、いさなは再び祖父と戦わなくてはいけないのだろうか。

 いさなは果たし状をポケットに突っ込んで呟く。

「ミオを助けるためにも、行かなきゃね」

 いさなは、すでに覚悟を決めている顔つきをしていた。ならば今更自分がとやかく言う筋合いはない。

「だったら、まずは倉庫で竹刀探しですね」

 氷魚は倉庫がある方を指さした。

 お化け屋敷巡りをする羽目になったが、武道館には武器を探すために来たのだ。

「ええ、借りていきましょう」

 どこから持ってきたのか、入り口は笹で隠されている。

 いさなと共に笹をかき分け、倉庫の鍵を開けた。

「扉は氷魚くんが開けてくれる? なにか出てきたらわたしが迎撃する」

 いさなが、大分消耗したモップを構える。またバケモノが飛び出してこないとも限らない。警戒は十分にすべきだ。

「わかりました」

 頑丈な扉を開けると、かびと汗が入り交じったような匂いが鼻をついた。

 氷魚はすかさずライトで倉庫内を照らす。

 怪しいものが潜んでいる気配はない。マットや剣道の防具、そして竹刀などが雑然と置かれている。元の鳴高の倉庫と大差ないように見える。

 構えを崩さないまま、いさなが先に倉庫に入った。

「危険はないみたい。入ってもだいじょうぶだよ」

 促され、氷魚も倉庫に足を踏み入れた。

 体育の授業で何度か入ったことがあるが、普段は縁のない場所だ。狭っ苦しくてほこりっぽい。学校ならどこの倉庫もきっと同じなのだろうと思う。

 いさなは、竹刀が無造作に突っ込まれているカゴに近づいた。授業用の物で、剣道部の物ではない。

 剣道部の武具は部室棟の部室に置かれているのだ。夏場はそれはもうものすごい匂いなのだとクラスメイトの剣道部が言っていたのを思い出す。

「なんか、会ったばかりの頃を思い出すね」

 竹刀の品定めをしながら、いさなは言った。

「会ったばかりっていうと、猿夢のときですか?」

「うん。まだ弓張ゆみはりさんもいなくて、凍月いてづきを氷魚くんに紹介してなかった頃」

「言われてみれば、そうですね。2人だけで調査や探索をしてましたね」

「あの頃は、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったな」

「こんなことと言うと……?」

「それはまあ、いろいろ」

「気になります」

「気にしないで」

 いさなはごまかすように1本の竹刀を取り出すと、顔をしかめる。

「手入れがぜんぜんされてない……」

「体育の授業用ですからね」

「下手したらバラバラになっちゃうかも」

 桜馬の剣技は見たことが無いが、いさなと同等かそれ以上なのは想像に難くない。そんな桜馬の剣を受けたら、手入れのなっていない竹刀なんてあっけなく壊れてしまいそうだ。

「他の武器を探しますか。バットとか」

 バットで祖父に挑む孫とか絵面的にはちょっとあれだが、向こうも木刀で武装しているのでトントンだろう。

「うーん……」

 そんな絵面を想像したかどうかはわからないが、いさなはお気に召さない様子だ。

 どうしたものかと倉庫を見渡した氷魚は、壁に1本の木刀が掛けられているのを発見した。

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