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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭㉑

 対するフランケンはわずかに頭がかしいでいるだけで、たいしてダメージを受けていないのは明白だった。

「いさなさんっ!」

 氷魚ひおの声に少し遅れ、フランケンが拳を振るう。いさなは身をかがめ、拳をかわしつつ折れたモップの方に転がった。

 拾い上げて、状態を確かめる。折れてしまったモップの長さは不釣り合いで、金具側の方が短い。

 ――まいったな。

 まさかここまで固いとは。

 このモップでは決定打を与えることは難しいかもしれない。

 魔力を通せばモップでも有効な武器たり得るが、いさなにそのような技術はない。

 いさなは唇を噛む。

 己の才のなさを恨んだことは数え切れないほどあるが、今回は特に際立っていた。

 しかし、弱音を吐いている場合ではない。かかっているのは自分の命だけではないのだ。

 いさなは細く息を吐くと、折れたモップを二刀流のように構えた。

 なんとも頼りない武器だ。宮本武蔵もきっと苦笑するだろう。

 でも、やらなければいけない。

「いさなさん。おれに考えがあるんですが、数分離れても大丈夫ですか」

 戦い方を考えながらフランケンをにらみつけていると、後ろから氷魚の声がかかった。

「考え?」

 振り向きたくなるのをこらえ、いさなは前を向いたまま口を開いた。

「はい。やらないよりはましかなって感じですが、もしかしたら突破口になるかもしれないです」

 氷魚にはこれまで何度も助けられている。1人にするのは心配だが、かといってこのままではじり貧なのも事実だった。

「わかった。氷魚くんを信じるよ」

 どんな考えなのかは、あえて聞かなかった。氷魚ならば、きっとだいじょうぶだ。

「ありがとうございます。携帯端末はライトをつけたまま置いていきますね」

 携帯端末を置く音がした。固定してくれたのだろう。ライトはまっすぐフランケンを照らしている。

 氷魚の足音が遠ざかっていく。

「――さて」

 これまでは氷魚がこちらの動きに合わせて照らしてくれていたが、彼が帰ってくるまではライトの範囲に気をつけて戦わなくてはいけない。

 ――こんなにか細い光だったかな。

 制限された視界の中、フランケンが間合いを詰めてくる。

 パンチを警戒していたら、フランケンは前触れもなく身をひねった。何だと思う間もなく、回し蹴りが飛んでくる。いさなは慌てて身を引いた。

「っ……」

 完全に不意を突かれたが、すんでの所で避けることができた。お腹すれすれをダンボールの足が通り過ぎていく。

 キックボクシングというよりも空手の蹴りに近い。

 ボクシングだけでなく、空手の動きも組み込まれているようだ。

 よほど優秀な魔術師がプログラムしたのか。

 ふと、いたずら好きの兄の顔が脳裏をよぎる。

 まさか、そんなはずはないとすぐに打ち消す。

 ともかく、他の格闘技を使う可能性も考慮しなくてはいけないだろう。

 ますます厄介だ。

 ――でも、凌いでみせる。

 氷魚が戻ってきたとき、無様に倒れている姿を見せるわけにはいかない。

 そんなことになったら、氷魚はきっと責任を感じてしまう。それだけは絶対に避けなくてはいけない。


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