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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑲

「一緒に?」

 驚きが混じったいさなの声に、氷魚ひおは我に返る。

「……す、すみません。こんなときに」

 さらわれたミオだってまだ見つかっていないのに。

 いさなも呆れたかもしれない。氷魚は顔がかっと熱くなるのを感じる。

「――いいよ」

 前を向いたいさなは言った。

「はい?」

 返事の意味を理解するのに数秒ほどかかった。いいというのはつまり――

「一緒に行こうか。他校の文化祭」

「え、え?」

「でも、その前にまずミオを助けてここから脱出しなくちゃね」

 言うなり、いさなは歩き出した。

 どうやら、自分の聞き違いではなかったらしい。

 それでも、本当にいいんですかと氷魚が確認しようとしたときだった。

 突如轟音が鳴り響き、進行方向右手の壁が割れた。

「な……」

 頑丈な板材を割って現れたのは、身の丈2メートルを超えるであろう大男だった。

 もちろん人間ではない。

 こめかみには巨大なネジが刺さり、肌の色は青色だ。所々にわかりやすい継ぎ接ぎの跡がある。

 ドラキュラと並び、ホラー界にその名を轟かすスター。

 フランケンシュタインの怪物だった。(ただしダンボール製)

 フランケンシュタイン、もしくはフランケンと呼ばれることも多いが、それは怪物を作った博士の名前だ。怪物自体には名前がない。

「氷魚くん。彼もお化け屋敷のキャスト?」

「そうです。手作りで、中に入って動かすタイプだって同じクラスの柔道部が言ってました」

 美術部の手も借りて作った力作らしい。

 テレビなんかで、やたら凝ったダンボール細工が紹介されていることがあるが、ああいった作品と比べてもひけは取らないと思う。

 現在、氷魚といさなの前に立ちはだかっている怪物はなめらかに動いている。当然、中は空っぽだろう。

「手作りか。壊すのは申し訳ないかな」

 異界学校の出来事が元の鳴高にどういう影響を及ぼすかは不明だが、いさなは気を遣っているようだ。

「でも、向こうはやる気マックスみたいですよ」

 ダンボールフランケンはゴリラみたいに胸板を叩いている。

 元の怪物にゴリラ要素はなかったはずなのに。制作者の趣味でも反映されているのかもしれない。

 攻撃をためらういさなに、ダンボールフランケンが近づいた。のっそりと太い腕を振りかぶる。ダンボールなのだから、当たってもさほどダメージはなさそうだが――

「――っ!」

 ぶん、と空気を切る音がした。いさなはとっさに縦に構えたモップで攻撃を受ける。

 ダンボール製の腕がモップに直撃し、いさなはたたらを踏んだ。まるでヘビー級ボクサーのストレートを受けたみたいな衝撃だった。

「……え?」

 見た目からは想像できない、とんでもなく速いパンチだった。

「ダンボールだからって、油断はできないみたいね」

 ライトがダンボールフランケンから外れないように気をつけながら目をこらすと、いさなが手にするモップにはヒビが入っていた。

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