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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑱

 いさなは慎重にドラキュラマネキンに近寄ると、モップでつついて様子を探った。マネキンはピクリとも動かない。やっつけたとみて良さそうだ。心配なんて不要だった。武器が刀じゃなくても、いさなは強い。

 いさなと氷魚ひおは順路に戻り、再び歩き出す。

「他にもああいうのがいるのかな」

「おれが見た限り、狼のマスクをかぶったマネキンとかもありましたね」

「ライカンスロープか。本物だったら強敵だ」

 ライカンスロープ、確か狼男のことだ。女性でも使うんだったか。

「お知り合いにいるんですか?」

「うん。以前、一緒に仕事をしたよ。人間時でも、身体能力がずば抜けてたね」

 氷魚はそっといさなの横顔を伺う。

 進行方向を照らすライトの光だけではどういう表情をしているのかよくわからないが、どことなく楽しそうだった。

 氷魚の知らないところで、いさなはたくさんの怪異に関わっている。そのライカンスロープと一緒に、どのような怪異を解決したのだろうか。

 男性なのだろうか。それとも女性?

 ――男性だったら、やっぱりハリウッド俳優みたいにイケメンなのかな。

 それも、思い出すだけでいさなが胸をときめかせるほどの――

「どうしたの?」

 氷魚の視線に気づいたいさなが、こちらに目を向けた。

「い、いえ、なんでもありません」

 まさか勝手にライカンスロープをイケメンと仮定して、しかも嫉妬していましたなんて言えるわけがない。

「――? あ、そうだ」

 いさなが足を止める。

「気になってたんだけど、あのマネキン、どこから持ってきたものか知ってる?」

「ああ、ブティックスズキから借りてきたマネキンだって聞いてます」

 商店街にある、主婦に人気のお店だ。いさなも何回か買ったことがあると言っていた。

「……そっか。壊しちゃったのはまずかったかな」

 どうやら、さきほどの戦闘でマネキンは破損したようだ。あれだけの勢いで突けば無理もないと思う。

「そこはほら、緊急措置ってことで。協会からさいかちさんに弁償請求をしてもらえばいいんじゃないですか」

 氷魚の軽口に、いさなは笑う。

「いいアイデア。そうする」

 それから笑いを引っ込めて、

「槐さんには、協会を通して正式に抗議をするよ。一般人の氷魚くんを巻き込んだんだから。……って、わたしが言えたことじゃないけど」と呟く。

「気にしないでください。おれは協力者ですし、ミオの同居人でもあります。無関係じゃないですよ」

「氷魚くん……」

「そもそも、おれ、キョーカイ部の部員ですよ。これも部活動の一環です。ある意味当初の予定通りじゃないですか」

 どこの世界に異界学校を探索する部活動があるのかという、自分の心の中での突っ込みはこの際無視する。

 これ以上、いさなに気を遣わせたくなかった。

「わたしとしては、もっと普通に文化祭を楽しみたかったんだけどね」

 いさなは、寂しそうに笑った。細いライトの光でも、よくわかった。

 前半はかなり満喫していたように見えたが、まだ足りなかったのかもしれない。

 もしかしなくても、いさなは高校生らしいイベントに飢えているのだろうと思う。

 考えてみれば、当たり前だ。

 小学校高学年のときに影無かげなしとなって以降、普通の学校生活とは無縁だったに違いない。

 怪異との関わり、戦いに次ぐ戦い――

 いかに強靱な精神力を持っていたとしても、いさなは高校生なのだ。

 ならば、高校生らしいイベントがあったって罰は当たるまいと思う。

「だったら、他の高校の文化祭に行ってみませんか」

「他の?」

「はい。泉間せんま辺りだったら、外部のお客さんオッケーの文化祭がたくさんあると思いますよ」

「――そっか。言われてみれば、そうだよね」

 納得したようないさなの声を聞いて氷魚は思う。

 ――あれ? これって、おれが文化祭に誘ったことになるのか?

 まあいい。

 異界にいる高揚感か、はたまたお化け屋効果か、氷魚は続けてこう言った。

「よかったら、一緒に行きませんか」


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