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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑰

「――はい」

 不安なのは自分だけではない。凍月いてづきがいないいさなもだ。弱気になってはいられない。

「ミオと人体模型は、どこに行ったと思う?」

 いさなの問いに氷魚ひおは少し考え込み、

「外には出ていないと思います」と答える。

「どうして?」

「窓や扉が開いた音がしないっていうのもですが、なにより、あれはこちらを誘っているような動きでした。ミオを人質にした罠の可能性が高いです」

「わたしたちを誘い出すための、ね」

「そうです」

「なら、ミオたちは――」

「ゴール付近にいるんじゃないでしょうか。人体模型は順路を外れたおれたちに、『そっちじゃないよ』って言ってました。つまり、順路通りにこのお化け屋敷を巡れってことでは?」

「なるほど。――これも試練とやらの一環なのかな」

「かもしれません」

 誘導が見え透いているのが気にかかるが、おそらくは意図的なものだろう。こちらがどんな反応をするのか、観察しているのかもしれない。

「だったら、乗ってやろうじゃないの」

「お供します」

 というわけで、期せずしていさなとお化け屋敷を回ることになった。

 ただし、お遊びではない。出ててくるのは紛れもなく本物の怪異だ。

「にしても、高校の文化祭のものとは思えないほどのクオリティだね」

 周囲に気を配りつつ歩くいさなが言った。

 井戸や提灯だけではない。他の小物やおどろおどろしい壁の雰囲気も実にらしい。そこらの遊園地顔負け、とまで言ったらさすがに言い過ぎだが、とにかく雰囲気抜群だ。小さな子だったら泣き出してもおかしくない。

「剣道部と柔道部が精魂注いで作り上げた渾身の力作だそうです」

 配置も実に巧みで、先が見通せない。しかもいまは照明がないので、携帯端末のライトがないと文字通り一寸先は闇だった。

 さきほどミオと一緒に回っているので、大体の仕掛けは把握しているが、今回はもう通用しないだろう。いきなりお化けが飛び出してきたら、悲鳴を上げてしまいそうだ。

 少し歩いたところで、前方左に黒い塊が見えた。

 ライトで照らす。

「ドラキュラ……?」といさなが呟いた。

 黒い燕尾服に、赤いマントを着せられたマネキンだった。ご丁寧に、有名な魔女っ子のパパみたいに両サイドが突っ立っているカツラも装着済みだ。

「お化け役の人手が足りなくて、マネキンを使ったって聞いてます」

 近くで見ればさすがにマネキンだと気づくが、遠目だと身構えてしまう。

「で、マネキンで油断させておいて、次は人間のお化け役が驚かせるっていう段取りですね」

「よく考えられてるね」

 いさながしげしげとドラキュラマネキンの顔を覗き込む。

 そのときだった。

「……っ!」

 唐突に、マネキンの目の部分が怪しく光った。閉じていた口がくわっと開く。

 動き出したマネキンは両手を上げ、血を吸うつもりなのか、いさなにつかみかかろうとする。

「いさなさん!」

 いまのいさなは刀を持っていない。モップ1本で立ち向かえるのか。

 氷魚の心配をよそに、いさなの行動は素早かった。

 腕をかいくぐり、短く持ち直したモップの柄でマネキンの顎をかち上げる。鈍い音がして、マネキンが大きくのけぞった。すかさず、いさなは柄でマネキンの胸を突いた。

 吹っ飛んだマネキンは壁にぶつかり、ずるずると崩れ落ちる。

 いさなは油断なくマネキンをにらみつけていたが、動かないことを確認すると、モップを下ろした。堂に入った所作だった。

「――すごい」

 思わず声に出していた。

 氷魚の声を聞いたいさなが振り向き、照れくさそうに笑う。

「モップなのが格好つかないけどね」

「そんなことないですよ。かっこよかったです」

 刀だけじゃなく、モップを持っても強いとは。槍や長刀を振るう感覚なのだろうか。


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