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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑯

 氷魚ひおが振り向くと、ミオの姿が消えていた。

「ミオ?」

「上、上!」

 ミオの声だ。

「なっ……」

 ミオは、逆さまになった人体模型の上半身に捕まっていた。

 異様なその光景に、氷魚は思わず固まってしまう。

 人体模型の上半身からは桃色の紐状のものが伸びていて、天井まで続いている。そして、天井には下半身が張りついていた。

 紐状のものは、よく見たら腸だった。内蔵の模型が収められているのは知っていたが、こんな使い方をするものじゃないだろうと思う。

「ミオっ!」

 固まっている氷魚の脇を、いさなが走り抜けた。床を蹴ってバレー選手みたいに跳躍し、ミオ目がけて手を伸ばす。

「くっ……」

 しかし、すんでのところでミオは天井へと引き上げられてしまった。

 氷魚は慌ててライトで照らす。

 蜘蛛みたいに天井に張り付いている人体模型の顔は、不敵な笑みを浮かべていた。元が模型だとは思えない、人間くさい表情にぞっとした。

 腕の中でミオがじたばたと暴れているが、よほど人体模型の力が強いのか、それともミオが非力なのか、びくともしない。

 焦りが膨れ上がる。

 どうにかしたくても、氷魚には天井に向かって飛ぶことはできないし、攻撃することもできない。

「このっ!」

 いさながモップを槍投げの選手みたいに構える。

「……っ」

 が、ミオに当たったらまずいと判断したのか、すぐに下ろした。それから自身の影に向かって呼びかける。

凍月いてづき、お願い」

「――え?」

 もしかして、いさなには凍月の声が聞こえたのだろうか。

 期待を込めていさなに視線を向けると、いさなは自分の口を押さえていた。

 氷魚の視線に気づいたいさなは、気まずそうに目をそらす。

「……ごめん。いつものくせで、つい」

「あ、いえ……」

 安易な励ましは、かえっていさなを傷つける気がして、氷魚は言葉を濁した。

 いさなと凍月はこれまで一心同体で戦ってきた。とっさに呼びかけてしまうのも無理はないと思う。2人の絆は、きっと氷魚には想像もできないほど強いものだ。

「それより、ミオが」

 いさなの言葉にはっとして、氷魚は天井に視線を戻す。

 するすると、ミオを抱えた人体模型が降りていくのが見えた。天井を移動したようで、ここから大分距離が開いている。

「追いかけよう」

「はい!」

 氷魚はいさなと順路に戻る。ミオたちが降り立ったのはゴールの近くだ。

 入り口に歩を進めると、矢印が書かれた看板だけが落ちていた。

 当然、番をしていた人体模型の姿はない。学校の怪談ではさして珍しい話ではないが、まさか本当に動くとは思わなかった。

 最初に見たときも、さきほども、そんな気配は微塵もしなかったのに。

 この調子ではトイレから花子さんが出てくるかもしれないし、音楽室のベートーベンも笑い出すかもしれない。

「ミオは、大丈夫ですよね……」

 さいかちがミオに危害を加える可能性は低いと思うが、楽観視はできない。現に、いさなは戦って傷ついている。

「ええ、きっと大丈夫。でも、早く迎えに行かなきゃね」

 いさなは、氷魚を安心させるように微笑んだ。

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