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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑮

 まずは無人の職員室に向かい、キーボックスから武道場倉庫の鍵を拝借する。

 緊急時だし、そもそも本当の鳴高ではない(と思われる)のだが、罪悪感がものすごかった。

「あとで返しに来ましょうね」

氷魚ひおくん、義理堅いね」

 どうだろう。小心者なだけかもしれない。

 その後、新たなあやかしや桜馬おうまに出会うことなく、氷魚たちは無事、武道場に到着した。

 校舎の外に面した渡り廊下を通ったが、がしゃどくろは現れなかった。

 敷地の外に出られるわけではないからだろうか。

 なんにせよ、襲われなくて助かったと思う。しかし、嵐の前の静けさという気もして、素直には喜べない。

 さきほどは問題なく探索できたお化け屋敷だが、今回はどうか。

 もっとも、今回はいさながいる。刀がなくても頼りになるのに変わりはない。

『お化け屋敷入り口』と朱書きされたボロボロの看板を横目に、3人は薄暗い道場内に足を踏み入れる。

 本当なら所々――提灯の中など――に照明が取り付けられているのだが、電気が通っていないようで、視界がひどく悪い。

 氷魚は携帯端末を取り出すと、ライトをつけた。

 破れ提灯に笹、段ボールでこしらえたやたらリアルな井戸などが照らし出される。以前、凍月と潜った鳴城城址の井戸を否が応でも思い出す。あれは本当に肝が冷えた。

「バッテリーはだいじょうぶ?」

 並んで歩くいさなが尋ねてくる。氷魚はうなずいた。

「まだいけます」

「本格的に暗くなる前には決着をつけたいね」

「ですね」

 完全に夜になってしまったら、探索もままならなくなる。

 それに、こんな学校で一晩を過ごす羽目になったら――

 想像するだけでもぞっとする。たとえいさなが一緒だとしてもだ。

 家族やクラスメイトにも心配をかけてしまうに違いない。今頃、騒ぎになっていないといいが。かなでが気づいて、うまくごまかしてくれていることを祈る。

「あたしは暗くても平気だけどね」とミオは得意げに言った。

「便利でいいね」

「この間観たアニメに出てきた化け猫みたいに、目をヘッドライトにはできないけどね」

「化け猫……」

 ネコバスを化け猫扱いしていいのだろうか。

「倉庫はこっちね」

 保健室から出張中の、人体模型の首にかかっている順路の矢印を無視して、左に曲がる。

 壁の隙間をくぐり抜けようとしていると――

「そっちじゃないよ」

 後ろから、ささやき声がした。

「……? ミオ、なにか言った?」

「言ってない。けど、声はあたしにも聞こえたわ」

「こっちだよ」

 まただ。子どもの声みたいに聞こえる。けど、まさか子どもが紛れ込んでいるわけがない。

 悪意こそなさそうだが、ひたすらに不気味だった。

「……いさなさん」

「――氷魚くん、ミオ、わたしの後ろに」

 振り向いたいさなは、前に進み出た。氷魚も半歩前に出て、ミオを後ろ手にかばう位置につく。

「もしよければ、これ、使いますか?」

「そうだね。借りるよ」

 いさなは、氷魚が差し出したモップを受け取った。

 柄の部分を下にして、槍のように構える。

 掃除用具なのに、いさなが持つとまるで本物の武器みたいに見える。

 だが、はたしてあやかしの類に通じるのか。なにせ、なんの変哲もないただのモップなのだ。

「誰? 姿を見せなさい!」

 凛としたいさなの声が、武道場に響いた。

 しばしの沈黙。

 どうしますかと氷魚が声を出そうとした瞬間、

「……うにゃっ!?」

 というミオの悲鳴が、後方から聞こえた。

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