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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑭

「自然発生じゃなくて、人工的に造られたものだったんだけどね。泉間せんま駅を模したもので、真白ましろさんが解決したんだ」

姫咲ひめさきさんが」

 氷魚ひおは、銀の髪に薄褐色の肌をした少女を思い出す。

 彼女には、時の腐肉喰らいというバケモノに襲われたときに助けてもらった。バイクに乗って銃をぶっ放す、かっこいい人だった。

「――真白さん、かわいいもんね」

 なぜか、いさなが若干むくれたように言う。

「――?」

 どうして容姿の話になるのだろう。

 氷魚がきょとんとしていると、いさなは気まずそうに目をそらした。

「……ごめん、なんでもない。で、わたしたちがいまいる鳴高なんだけど、その異界駅に似てるんじゃないかって思うの」

「魔術で構築された空間ってこと?」とミオが言った。

「そう。異界駅ならぬ、異界学校ね」

「異界学校――」

 ミオと2人、割とのんきに探索していたが、相当危ない場所のような気がしてきた。

 否。

 実際、いさなは襲われたわけだし、危険な場所なのだ。自分とミオは運がよかったに過ぎない。

さいかちさんほど力のあるあやかしなら、こういう空間を造ることも可能なのかもしれない。それか、1人では無理でも、他に協力者がいるか」

「なるほど。だったら、これだけ濃密な魔力が満ちているのも納得ね」

 ミオは人差し指を立てて、くるくると回してみせた。

「おれにはよくわからないんですが、この空間は本来の鳴高のコピーみたいなものって認識でいいんでしょうか」

 氷魚が言うと、いさなはうなずいた。

「そうだね。概ね、そんな感じ」

 だったら、解決策もあるかもしれない。

「姫咲さんが解決した異界駅と似たパターンならば、脱出方法も参考にできないでしょうか」

「どうかな。真白さんの場合だと、異界駅に巣くっていたあやかしを倒して脱出したって聞いたけど」

 そう言われて真っ先に思い浮かべたのは、昇降口で遭遇した巨大なあやかしだった。

「ここに来る途中、がしゃどくろに出会いましたよ」

 氷魚の言葉に、いさなは目をみはった。

「がしゃどくろとはまた大物ね。襲ってきたの?」

「おれたちが外に出るのを阻んでいる感じでしたね。積極的に攻撃してくる様子はなかったです」

「そっか。2人が無事でよかった」

「番人的な存在なのかもしれないです。無理に校舎から出ようとしたら、危なかったかも」

「どっちみち、いまのわたしじゃ歯が立たないね。刀もないし、攻撃に使える魔導具もない」

 そこで、いさなは周りに置かれた自分の私物に気づいた。不思議そうな顔でポケットにしまっていく。

 吹っ飛ばされた際に落ちたのかと判断したのか、氷魚たちに言及はしなかった。

 ミオは氷魚にいたずらっぽくウィンクする。共犯者みたいなのでやめてほしい。――いや、実際に共犯者か。見て見ぬふりをしていたし。

 そもそも、なんでそんなことをしていたのかというと――

「そうだ。いさなさん、回復用の魔導具とか持ってないですか」

「あいにく、持ち合わせはないわ。どこか怪我をしたの?」

「いえ、ミオもおれも無傷です。けど、いさなさんが……」

「――ありがとう。わたしなら平気だよ。このくらいなら、動くのに支障はないから」

 微笑んで、いさなは立ち上がった。少し片足をかばうような仕草をしたのが気になる。脇腹だけじゃなく、足も痛めているのではないか。

 いさなは制服の汚れを払い、それから、ふと思い出したように、

「氷魚くんたちが来たときは、わたしだけだったんだよね」と言う。

「はい。桜馬おうまさんはいませんでした」

「そう……。おじいさまは、わたしにとどめを刺さなかったんだ……」

 いさなは、物騒なことをさらりと言った。

 もし桜馬に殺意があったのなら、いさなは今頃――

 そこまで想像して背筋がぞっとした。本当に、いさなが無事でいてくれてよかった。

「いさなのおじいさんは、どうしていさなの前に姿を現したのかしらね」

 ミオの疑問はもっともだ。理由がわからない。

凍月いてづきがいれば、教えてくれたかもしれないけど……」

 いさなは、かすかにうつむいた。

 いままで聞こえていた凍月の声が聞こえなくなる不安は、生半可なものではないと思う。いさなにしてみれば、凍月は自分の一部なのだ。氷魚には想像もつかないような喪失感が伴っているに違いない。

「あの――」

 氷魚はなにか言うべきだと思いつつも、言うべき言葉を見つけられないまま口を開こうとする。

「いま、凍月はいない。だったら、自分の頭で考えるしかない」

 と、氷魚よりも早く、ミオが口を開いた。

 そうして、ミオはいさなの顔を覗き込む。

「でしょ?」

「――そう、だね。探索しながら考えてみる」

「うん。そうしよう」

 言って、ミオはにかっと笑みを浮かべた。

 幼い外見のミオだが、すごく頼りがいのある大人のように見えた。

「ありがとう、ミオ」

「どういたしまして」

 結局、氷魚の出る幕はなかったようだ。


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