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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑫

「いさなさんっ!?」

 ある程度探索を済ませて、校舎一階、1-4の教室に入った氷魚ひおは、悲鳴じみた声を上げた。

 休憩所だからと、探索を後回しにした教室だった。

 椅子と机は散らかり、黒板消しクリーナーは床に転がっている。

 そして、窓際近くにいさなが倒れていた。一瞬で喉が干上がった。

 心臓がうるさいほど鼓動を打つ。震える足を叱咤しながら近づく。かがみ込む。

 いさなの目は閉じられてる。

「いさなさん……?」

 呼びかけるが返事はない。

 どうする?

 こんなところに救急車なんて来てくれないし、自分には医療の知識もない。

 どうすればいい?

 とりあえず保健室に運ぶか? あそこならベッドもあるし、寝かせておける。 

 だが、抱き起こしていいのか。動かさない方がいいのではないか。でも、それで手遅れになったら――

 手遅れ。

 全身から血の気が引いていくような恐怖にとらわれる。

 いさなが傷つくところを見るのは初めてではない。だが、会話ができない状態なんて、いままでになかった。

 さっきまで、一緒に文化祭を回っていたのに。

 なんで、どうして。

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、意味のあることを考えられない。

「氷魚、落ち着いて」

 傍らのミオが柔らかな声で言う。

「ミオ、でも……」

「大丈夫、生きてるから」

 ミオはいさなの首筋に手を当て、うなずいた。

「気絶しているだけみたいね」

「だけって、気絶は大事じゃないか!」

 思わず声が大きくなった。

 なにがあったのかはわからない。だが、いさなと教室の荒れ用を見るに、戦闘が行われた可能性は高い。そしていさなは傷ついた。気絶するほどに。

「あなた、さっきまでの冷静さはどこに行ったの?」

「……おれは」

 自分の冷静さなど、所詮は紙一重だ。精神が耐え切れそうもない事態が起きると、たやすく吹っ飛ぶ。

「あたしたちが慌てても、状況は好転しない。そうでしょ?」

 なだめるように、ミオは氷魚の肩を叩いた。

「そう、だね……。ミオの言うとおりだ」

 少しだけ気持ちが落ち着く。

 自分にできることは、まず状況を整理することだ。

 ――頭を冷やせ。

「! そうだ、凍月いてづきさん! 凍月さんは?」

 どうしていままで気づかなかったのか。凍月ならば事情を知っているはずだ。

 しかし、いさなの影はうんともすんとも言わない。

「寝てる、ってわけでもなさそうね」

 ミオは影を人差し指でつつく。そんなことをされたら怒るに決まっているのに、やはり凍月は沈黙したままだった。

「どうしたのかな……」

 そもそも、氷魚たちが教室に入った時点で出てきてもいいはずなのに。

「――ミオ、治療の知識はある?」

 凍月のことも心配だが、まずはいさなだ。

「残念ながら、ないわ。あたしの本体だったら治癒魔術が使えるんだけどね。人間の傷なんてイチコロよ」とミオは人差し指を立てた。

「イチコロじゃまずいでしょ……。って、魔術か。いさなさん、回復用の魔導具とか持ってないかな。以前、軟膏を使ってもらったんだけど」

 軟膏は外傷用だったが、外傷以外に効く魔導具もありそうではある。

「その手があったか」

 言うなり、ミオはいさなのスカートのポケットに手を突っ込んだ。

「ちょ、ちょっとミオ!」

「なによ。緊急事態だからいいでしょう。それとも、氷魚が探す?」

「いや、それは……」

 いろいろとまずいだろう。もし探している最中にいさなが目を覚ましたら、土下座ではすまされない。

「ん、紙?」

 ミオはポケットからなにか取り出した。複雑な文様が描かれた紙だ。

「護符だね。どんな効果があるかはわからないけど。たぶん、道隆みちたかさんっていう、いさなさんのお兄さんが作ったやつだよ」

 ミオは護符を両手でつかみ、天井に掲げた。

まじない札か。この国独自の術式ね。あたしじゃ使えないわ」

 ミオは続けて手を突っ込み、携帯端末や財布、ハンカチなどを取り出す。

 さすがにそろそろ止めた方がいいだろうか。

 ハラハラしながらミオを見守っていると――

「……氷魚くん? ミオ?」

 スカートをまさぐられたからなのか、それともたまたまなのか、いさながうっすらと目を開けた。

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