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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑧

 校内に戻ると、雰囲気が幾分か変わっていた。元々あまり明るくなかったが、さらに薄暗くなっている。加えて、少し肌寒い。日が落ちてきたからだろうか。

 時間を見るために、氷魚ひおは携帯端末を取り出す。

 そこで、いままで携帯に意識が向いていなかったことに気づいた。

 ――普通、真っ先に見そうなものだけどな。

 繋がらなくて当たり前と無意識に判断していたのかもしれない。怪異に慣れるのは危険だと言ったばかりなのに。

 はたして携帯端末の画面は真っ暗だった。充電は十分にあったはずなのに、うんともすんとも言わない。

 ――まあ、そうだよね。

 軽く息を吐いて携帯端末をズボンのポケットに戻す。

 傍らを見れば、ミオが腕をさすっていた。

 半袖のワンピースだし、冷えてきたのかもしれない。長毛種だったらロングコートを着ていたのかなと思いつつ、氷魚は口を開く。

「ミオ、寒くない?」

「……ちょっとだけ」

「だよね。どうぞ」

 氷魚は学ランを脱ぐと、ミオに着せかけた。体格差があるので、コートみたいになった。

「ありがとう。――家の匂いがするね」

「そう?」

 自分の家の匂いは、自分ではわからない。けど、ミオにはわかるようだ。

「うん。安心する」

「そっか……」

 ミオにとっても、たちばな家は『家』になったのだと思うと、嬉しい。

「氷魚は寒くないの?」

「おれは平気だよ」

 実は寒かったが、ここは強がることにする。

 ふと、1-5にあるメイド服が脳裏をよぎったが、着るのは最終手段にしたい。

「それより、この世界についてなにかわかったことはある? 結界がどうとかさっきは言ってたけど」

「まだよくわかんない。ただ、なんとなく、現実世界とは違う気はする」

「そっか……」

「役に立てなくてごめんね」

「ぜんぜん。気にしないで」

「ねえ氷魚、次にどこを調べるかは決まってるの?」

「いや、まだ」

 後ろを見ればがしゃどくろは消えていた。しかし、外に出ようとすればまた出現するに違いない。

「職員用の出入り口とか、講堂に続く渡り廊下とか、外に繋がっているとこは他にもあるけど、あいつが出てくるんじゃないかな」

「だよね。じゃあさ、出し物……じゃなくて、教室を調べていくのはどう?」

 ミオの手には、いつの間にか文化祭のパンフレットが握られていた。近くのラックから取ったようだ。

 思えばミオは現世に復活してから、橘家と獣医以外の場所をよく知らない。外の世界を見て回りたいという好奇心が強いのかもしれない。猫だし。

 神様相手に不憫というのは傲慢が過ぎるだろうが、もっといろいろ見せてあげたいと思う。

 出口探しは一時脇に寄せて、少しくらい寄り道しても罰は当たるまい。ヒントが見つかるかもしれないし。

「いいよ。どこから調べる?」

「ホント!? あたし、この金魚すくいが気になる」

 ああ、猫だなあと思う。

「金魚、いるといいね」

 高校の文化祭では割と珍しいと思われる金魚すくいは、商店街のアクアリウムショップ(というより、昔ながらの金魚屋)の息子が鳴高に通っていることにより実現した。

「おいしいのかな?」ミオが目を輝かせる。

「……いたとしても、食べないでね」

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