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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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素晴らしきかな、文化祭⑤

「――え?」

 いつの間にか、近くにいたいさな、凍月いてづきさいかちの姿が消えていた。氷魚ひおとミオ以外、周囲には誰もいない。

 それだけではない。静かすぎる。

 いくら人が来ない場所とはいえ、文化祭の喧噪は伝わってきていたのに。

 いまの校舎は、不気味なくらい何の音もしなかった。校内に漂っていた食べ物の匂いもしなくなってる。

 みんな、どこかに行ってしまったみたいだ。

 ――いや。

 どこかに『来た』のは、自分たちかもしれない。

 意識ははっきりしているし、ミオの体温も感じられる。猿夢のときに経験した、夢の中のような空間ではなさそうだが。

「ん――」

 抱きかかえていたミオがうめいた。

「ミオ、気づいたの?」

 氷魚は呼びかけると、ミオはうっすらと目を開けた。

「氷魚? あれ、あたしたち、どこにいるの?」

「おれにもわからない。身体はだいじょうぶ?」

 氷魚の腕からするりと抜け出たミオは、床に降り立ち大きく伸びをした。

「うん。問題ないわ」

 心の底から安堵した。ミオが無事じゃなかったら、自分だけではどうしようもなかっただろう。

「よかった。……きみは、ぬらりひょんの槐さんってひとにさらわれたんだよ」

「さらわれた? あたしが?」

「うん。槐さんのスーツの中から出てきたんだ。槐さんはミオをおれに投げてよこして、気づいたらふたりしてここにいた」

「ほんとに? ……いくら寝てても、捕まったら気づきそうなものだけど」

「だよね。もしかしたら、槐さんの力なのかも。ぬらりひょんだし」

 家にこっそり入り込み、寝ているミオを気づかれずにさらうくらい、造作もないのかもしれない。

「ぬらりひょんって、日本のあやかしね。なんでまたあたしを?」

「おれたちに試練を与えたいらしいよ」

「試練? なんのために?」

 ミオは小首をかしげる。かわいらしい仕草に頬が緩みそうになるが、いまはそれどころではない。

「異国の神格が民間人の家で暮らすのは看過できないとかって言ってたから、それ関係かも」

「なによそれ、偉そうに。何様のつもり? こちとら神格なのよ」

 ミオは毛を逆立てる勢いで言った。これだけ怒れるなら、身体に問題はなさそうだ。

「そうだね」

「……まあ、怒っていてもしょうがないわね。まずは状況の把握に努めましょう」

 ミオは周囲を見渡す。切り替えが早い。

「見た感じ、どこかの学校みたいだけど」

「うん。ぱっと見はおれの高校なんだけど、明らかに奇妙なんだ。さっきまで一緒にいたいさなさんたちは消えちゃったし、そもそも人の気配がない」

「これは、一種の結界かもね。魔力の流れが独特だわ」

「わかるの?」

「言ったでしょ。これでも神格よ」

 ミオは得意げに笑う。

「そうだった。――結界ってことは、おれたちだけが現世からはじき出されてるとか?」

 自分たちには見えないだけで、いさなたちは近くに存在しているのかもしれない。

「どうかしら。なんとも言えないわね」

「――ひょっとして、この学校を探索して脱出するのが試練だったり?」

 氷魚はふと思いついたことを口にする。

 ミオはうなずいて言った。

「ありそうね。試されるのはしゃくだけど、このままじゃ埒があかないし、いっちょ探索してみますか」

 ミオは割と乗り気のようだ。家の中にだけいて、退屈していたのかもしれない。

「ひとまず下に行こうか。まずは自分の教室を確認したいかな」

「了解。あたしも氷魚の教室を見てみたいわ」

「……いまはちょっと独特な空間になってるけどね」

 氷魚とミオは並んで階段を下りる。静かなせいか、足音がいつも以上に大きく響いた。夜でもないのに怖くなる。

「――にしても、このなりじゃ一緒に歩くのに不便ね。氷魚の歩幅に合わないわ」

 階段を下りきったところで、ミオは前足を上げて言った。招き猫みたいだ。

「おれの肩に乗る? 凍月さんがよく乗ってるよ」

「それも悪くないんだけど――」

 ミオはにっと笑うと、大きく跳躍した。そのまま空中で見事な後方宙返りを決める。

 煙が巻き起こり、気づけば眼前には小さな女の子が立っていた。

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