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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十一章 素晴らしきかな、文化祭
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彼女の中身は神様

「ただいま」

「お帰り」

 家に帰った氷魚ひおを真っ先に出迎えてくれたのは猫のミオだった。

 外見はアメリカンショートヘアーの子猫だが、精神は普通の猫ではない。なんと猫の女神様なのだ。といっても本体ではなく、分霊(ものすごく大雑把に言うと分身みたいなものらしい)だ。

 ちょっと前にいろいろあって、一緒に住むことになった。

 スニーカーを脱ぐために廊下に腰かけると、ミオは氷魚の肩に飛び乗った。かすかな重みがかかる。

 ミオは頭の匂いをふんふんと嗅いだ。鼻息がくすぐったい。

「知らない女の匂いがするわ」

 サブスクリプションで昔のメロドラマを見すぎなのではないか。

「修羅場が始まりそうな言い方はやめてよ。シャンプーの匂いじゃない?」

「いや、これはあやかしの匂いね」

 そういえば、凍月いてづきも匂いを嗅いで妖気を辿っていたなと思う。どんな匂いがするのだろう。嗅いでみたいような、みたくないような。

小町こまちっていう鎌鼬かまいたちの女の子に髪を切ってもらったんだ」

「なるほど。氷魚、けっこうあやかしの交友範囲広いわよね」

「一般人にしては、そうかも」

 肩から下りたミオは、氷魚が置いたリュックの匂いを嗅ぐ。

「こっちからは甘い匂いがする」

「アップルパイを買ってきたんだ。泉間駅で有名なやつ」

「私も食べてみたいな」

「猫にアップルパイっていいのかな……。調べてみて、問題がなかったらね」

 精神は神格でも、ミオの身体はあくまで子猫のものだ。猫によくないものは食べさせられない。

「玄関でなにをぶつぶつ言ってるの?」

 と、姉の水鳥みどりが居間から顔を覗かせた。日曜日は大抵どこかに行くのに、今日は珍しく家にいたらしい。

 ミオを見た姉は納得したような顔になる。

「またミオと話してた?」

「そんなとこ」

「氷魚とミオって、ほんとに会話しているみたいだよね」

 どきりとした。まさかばれているわけではないだろうが。

「ミオは頭がいいんだよ。人間の言葉がわかってるんだ」

「すっかりデレデレじゃない。うちの子が世界で一番かわいいっていうノリね」

 猫と話す飼い主は珍しくない。が、ミオの場合は実際に会話できるので、氷魚もつい普通に話をしてしまう。ちなみに、ミオの言葉は家族には単なる鳴き声にしか聞こえないらしい。ミオ曰く、そういう調整をしているとのことだ。

「それより、アップルパイを買ってきたよ」

「お、いいね。早速お茶を入れて食べようか」

 姉は鼻歌交じりに台所に向かった。

「水鳥って、勘が鋭いわよね。私のこと疑ってたりして」

「たぶん大丈夫だと思うけど」

 ほとんどの人間は超常的存在が本当にいるなんて知らないし、実在を信じてもいないだろう。

 きっかけの問題だと氷魚は思う。

 ふとした弾みで怪異やあやかしに遭遇するかどうか。

 氷魚も実際にあやかしに出会ったりしなければ、一生知らずに過ごしていたはずだ。

 どちらが幸福かはもちろん人によるだろう。自分はあやかしに出会えてよかったと思う。

 世界の見方が変わったし、個性的な知り合いも増えた。

 恐ろしい怪異にしたって、悪いことばかりでもない。

 怪異に巻き込まれなければ、いさなと接点を持つことはなかったからだ。こうしてミオと一緒に暮らすこともなかった。

「どうしたの? ぼうっとして」

 ミオが首をかしげた。

「なんでもないよ」

 氷魚はミオの耳の辺りを軽く撫でる。ミオは気持ちよさそうに目を細めた。

 本当、不思議な縁だよなと思う。

 いさなと出会ってからは、「まさか」の連続だった。

 きっと、これからもそうなのだろう。

 怖いこともあるけど、自分は間違いなく楽しく感じてもいる。

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