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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十章 ダンス・ウィズ・キャッツ
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チャーチ

 小学校の図書室が荒らされたのは、自分が祠にあんなお願いをしたからなのだろうか。

 本がなくなりますように、だなんて。

 帰宅した仁菜になは、自室の机で頬杖をついてぼんやりとしていた。読書感想文も手につかないし、好きな動物動画を見る気にもならない。

 ――本が大事にされないと、悲しい。

 今日の放課後に出会った、きれいで不思議なおねえさんの言葉が胸に引っかかっている。

 仁菜は深く考えずに、読書感想文が面倒だから本がなくなればいいと願ってしまった。

 でも、世の中には、本が好きな人もいるのだ。あのおねえさんみたいに。

 冗談交じりだったにせよ、自分の願いは、そんな人たちの気持ちを踏みにじるようなものではなかったか。

 ため息をつく。

 それにしても、一体誰が、どうやって図書室を荒らしたのだろう。夜は機械警備が入るから、人間が入り込むことはできないはずだ。以前、鼠で作動して騒ぎになったのを覚えている。

 だったら――

 人間じゃ、ない?

 自分の想像に怖くなり、身震いをする。

 不意にがちゃりという音がして、仁菜は飛び上がりそうになった。

 部屋の入り口に頭を向ける。ドアの隙間を前脚で開けて、飼い猫のチャーチが入ってきた。

「チャーチか。びっくりさせないでよ」

 家族の動作を見よう見まねで覚えたようで、チャーチは飛びついてドアレバーを下げ、ドアを開けることができるのだ。いつからできるようになったのかは知らない。

 少なくとも、仁菜が物心つくころにはすでにチャーチはドアを開けることができた。

 父は喜んで動画を撮ってネットに投稿したらしいが、世間的には特に珍しくないようで、さほど反響はなかった。どうせなら、テレビで紹介されるくらい話題になったらよかったのに。

 もっとも、チャーチのかわいらしさに変わりはない。

「チャーチがあたしの部屋に来るなんて珍しいね」

 仁菜はチャーチを抱き上げた。長毛種で大型のチャーチは、腕の中でずしりと重い。

 チャーチはメインクーンという種類の猫だ。ひょっとしたらチワワより大きいかもしれない。なにせ体重が8キロあるのだ。威厳と貫禄がある。その辺を歩いているだけで王様みたいに見える。

 父曰く、チャーチは古強者とのことだ。どういう意味なのと訊いたら、猫生のベテランという言葉が返ってきた。

 よくわからないが、13歳のチャーチは長生きということだろうか。人間で言うならもうおじいちゃんだ。

 世の中には20歳を超える長生きの猫がいるという。チャーチも健康で長生きしてほしい。

 チャーチに顔を近づけると、お日様の匂いがした。

 抱っこがきらいなチャーチはもぞもぞと動き回ると、仁菜の腕の中からするりと滑り出る。

 だが、部屋を出ていく気配はない。じっと仁菜を見上げている。

「どうしたの?」

 かがみこんだ仁菜は首をかしげる。

 仁菜の膝に前足をかけ、身体を伸ばしたチャーチはそっと鼻面を仁菜の頬に寄せた。湿った鼻はあったかくて、くすぐったい。

「もしかして、心配してくれてる?」

 仁菜が生まれたときから家にいるチャーチは、仁菜を一番下っ端と見ているフシがある。3歳上の姉や両親には甘えるのに、仁菜には大抵冷たいのだ。

 だけど、時折、こんなふうにやさしさを見せてくれるときがある。

 喉を撫でようとしたら、うっとうしそうに前足で押しのけられた。そうしてぷいと顔を背け、チャーチは部屋を出ていってしまう。

「なんなの……」

 やさしくしてくれたと思ったらこれだ。

 本当、猫は気まぐれだ。

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